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神の権能とか言われましても。

アイラリンドはジズとの言い争いに区切りをつけると、ルシフェルに尋ねる。


「それでルシフェル様。この度私をお呼びになられました御用の向きは、先ほどのお話でお済みでしょうか?」


ルシフェルがアイラリンドを呼んだのは、自分は人間だと伝える為だった。

だがアイラリンドいわくルシフェルは本当に天使。

まだ完全に納得した訳ではなく、眉唾ものとは思いつつも、ともかくその話をし終えたいま、ルシフェル側に特に用事は残っていない。


「ご、ごめんなさい。つまらない話をするためだけに、朝早くから来てもらったりして……。あ、用事はもうないです」

「左様にございましたか」

「ほんと、なんかすみません」


ルシフェルが恐縮した。

アイラリンドは柔らかく微笑む。


「ルシフェル様、どうか謝罪などなさらないで下さいませ。私は貴方様にお仕えします忠実な(しもべ)。こうして敬愛する貴方様のお側に(はべ)れますは至上の喜びにございます。どうぞ今後とも、たとえ御用がなくとも気の向くままにお呼びつけ下さい。いつ何時(なんどき)であろうとも馳せ参じます」


アイラリンドは話を続ける。


「それと私に対し、そのようにご丁寧な話し口調を用いられる必要もございません。『さん』などと敬称をお使いいただく必要もございませんので、今後はどうぞアイラリンドとお呼び捨て下さいませ。これは他の天使たちに対しても同様にございます」

「えっと、それは……」


ルシフェルは一考する。

ここまで話を聞いてきて、天使たちにとっての自分は途轍もなく偉い存在なのだと言うことは理解できた。


会社に例えれば社長だ。

いやそれどころか超巨大グループ企業のC E O(最高経営責任者)とか、そんなレベルの扱いである。


もし仮に一介の営業マンに過ぎなかった白羽明星がそんな大人物に引き合わされ、なおかつ低姿勢で接してこられたらどう思うか。


ぶっちゃけ引くだろう。

もっと偉そうにしてくれ、なんて思ってしまうかもしれない。

少なくとも立場に見合った態度くらいは求める。


家族経営の中小企業ならまだしも大企業の代表がそんなでは社員として接しづらいだけでなく、対外的にも印象が悪いのだ。


それっぽく振る舞え。

つまり、アイラリンドが言っているのはそういうことである。


「は、はい――じゃなくて、う、うん。分かった。努力してみます……みる」


ルシフェルのたどたどしい返事に、アイラリンドは笑顔で応えた。



アイラリンドが話を変える。


「ところでルシフェル様。私からもひとつ、お伺いさせて頂いてよろしいでしょうか」

「はい、もちろんいいですよ――じゃなくて、いいよ?」

「ありがとうございます。実は話と申しますのは、昨日ルシフェル様に委譲いたしました、この超天空城アイラリンドのマスター権限。つまりは城に備わっていた『神の権能』に関するお話なのでございます」


ルシフェルは首を傾げた。

マスター権限?

神の権能?

はて、なんのことだろう。


「……心配が的中致しました。やはりそのご様子ではご理解頂けていないようでございますね。ルシフェル様はご記憶を失われておられる模様ですので、それも致し方なきこと。それでは説明させて頂きます」


アイラリンドは語る。

神の権能とは奇跡を行使する力だ。


この権能を得た者は、通常では考えもつかない超常現象を引き起こす超越的な能力を得ることとなる。


たとえば砂漠に大雨を降らせる。

たとえば新たな生命を創造する。

たとえば逆に死者を蘇らせるなんてことまで可能になる。


ルシフェルは昨日、アイラリンドに封じられていた七つの天国を解放するのと同時に、その権能を譲り受けていた。


いや正確には預けていたものを返してもらっただけなのだが、それはともかくとして、いまルシフェルの手の内に神の権能が握られている。


「お感じになられませんか? 貴方様の御霊にたしかに神の権能が息づいております。すでに奇跡の行使が可能となっておられるはず。さあお確かめ下さいませ」


ルシフェルは言われるままに、己のうちに秘められているらしい神の権能に意識を集中した。

感じようと試みる。

けれども何も感じ取れない。


「……えっと……」


どうやれば良いのか。

さっぱり分からない。

とはいえアイラリンドはルシフェルに期待の表情を向けている。


頑張って意識を集中する。

でもやっぱり何にも感じられなかった。

正直に告白する。


「…………なんにもないんだけど?」

「えっ⁉︎ それはおかしいです」


アイラリンドがわたわたする。

少女らしい振る舞い。

それが普段の澄まし顔とのギャップを醸し出して、なんとも言えず可愛らしい。


「た、確かに私は、昨日ルシフェル様に権能をお返ししたのですが……」

「いや、でもホント、俺なんも感じないし……」

「ちょ、ちょっと失礼致します」


アイラリンドがルシフェルへ歩み寄った。

かと思うとルシフェルの身体を引き寄せて、ぴとっと抱きつく。


「あー! リンドってば、ずるいの! 不敬なの! ジズも抱きつきたい! 仲間外れにするならリンドの羽根を毟ってやるの!」


ジズが抗議の声を上げた。

それをスルーして、アイラリンドは密着させた身体から伝わってくる波動を、ルシフェルに宿った権能を探る。


「あ、あった! ありました! 大切なものなのに、無くしてしまったかと思いましたよぉ。……ああ、良かったぁ……」


アイラリンドはルシフェルに抱きついたまま、安堵の息を吐いた。

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