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かつての世界で起きたこと。

ルシフェルの告白にアイラリンドは目を丸くする。

ややあって柔らかく微笑んだ。


「いいえ、ルシフェル様。貴方様は下賤で愚かで下等な人間種などではございません。熾天使(セラフ)にございます。それもただの熾天使ではありません。いと高き天の頂で日輪を冠すべき御方。私どもをお導き下さいます明星。熾天使長(してんしちょう)ルシフェル様にございますよ」


ルシフェルは白目を剥いた。

まったく話が通じない。

というかいまアイラリンドは人間を下等で愚かとか言ったか。

え、何この子、人間嫌いなの?

天使って普通、人間に優しくするもんだよね?

そんなことを考える。


「……え、えっと……、あはは。アイラリンドさんって、人間が嫌いなんだねぇ。で、でも俺も人間、なんだけどなぁ……」


困惑するルシフェルに向け、アイラリンドが痛ましそうに眉尻を下げた。


「ああ、ルシフェル様。お(いたわ)しや。度重なる輪廻の果てに、かつてのご記憶を失われてしまったのですね。……そうですね。もしかすると転生先のうちに人間種に身をやつされていた時期もあったのかもしれません。それでご自身を下等な人間などとお思いに……。ようございます。ご説明致しましょう」



アイラリンドは説明する。

天使とは物質による肉体と霊子による御霊(みたま)で構成された存在である。

御霊とは仮に肉体が滅んだとしても残り続ける天使の本質だ。

高位の天使になるほど、その天使が秘めたる御霊は複雑な色を帯びて美しくなり、輝きを増す。


「ルシフェル様の御霊の慈愛に満ちた美しき輝きたるや。……ああ、私はその光を思い出すだけで胸が震えてしまうのです。それにくらべ人間などは――」


人間種は御霊など持たない。

天使からすれば塵芥の存在。

いや人間のなかにも稀に高位の天使や悪魔と互角に渡りあう英雄級や、それすら凌ぐ救世主(メシア)級の者も誕生するが、それはともかくとして、一般的な人間などであれば肉の身体に粗末な霊魂を宿すのみである。


また御霊を形作る霊子は、個々の天使ごとに色合いが異なる。

ゆえに他者とまったく同じ輝きを放つ御霊はひとつとしてない。

いわば指紋のようなものなのだ。


「ご理解頂けましたでしょうか? ルシフェル様がこの超天空城にお帰りになられました折、私はしかと貴方様の御霊に尊き輝きを検出しております。ご安心下さいませ。貴方様は間違いなくルシフェル様。忌まわしきかつての大戦『終末戦争(ハルマゲドン)』にて一時その御姿をお隠しになられましたものの、永き時を経てこうしてお戻り下さいました私どもが主人。熾天使長ルシフェル様にございます」



(……御霊? 霊子? それに――)


アイラリンドからひっきりなしに聞き慣れぬ言葉が飛び出す。


「……終、末……戦争……?」


ルシフェルは何となく頭に引っ掛かったその言葉を復唱した。

なぜだろう。

口にすると、とても悲しい気持ちになる。

胸が引き裂かれそうだ。

えも言われぬ喪失感。

足下からじわじわと這い上がってきて、御霊を黒く塗りつぶそうとする絶望――

それはかつて(あまね)く空を満たしていた大いなる愛を失ったことによる悲嘆だ。


「……ねえ、アイラリンドさん。その終末戦争って、なに?」


ルシフェルは思わず尋ねていた。

アイラリンドが答える。


――終末戦争。


それはかつて天界、人界、魔界を舞台に、天使、人、悪魔が互いを殺し合った血塗れの戦争。

世界のすべてを巻き込んで争われた未曾有の大戦争である。


神話の昔。

天上には父なる神がおわし、天使たちは神の膝元にて大いなる愛を享受していた。


空に満ちるは、今とは比べ物にならぬほど濃密な神の愛。

天使たちは繁栄し、幸福を謳歌していた。


未来永劫続くかと思われた天の栄華。

しかし終わりが訪れる。

終末の兆しは、神が下したとあるひとつの決定から招かれた。


神は言い給うた。

地上に人間をつくり我が子となす。

すべての天使たちは、我が現し身である人間に尽くし、これをよく導け――

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