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座敷童になるとは思うまい  作者: 猫野住処
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第六話 何をするにも体は資本

 私、天野愛生。

 現実逃避が得意技な、華の高校二年生。

 高校二年生=彼氏居ない歴、そして享年なのが玉に瑕。

 

 今私は、自分のはるか頭上に位置する、こたつの天板にどうやってたどり着こうかと考えていた。

 

 自分からあそこで話ししようぜと言い出した割に、登る手段はノープランであった。もちろん、こたつにエレベーターなどついているわけもなく。

 ネロ様は良いとして、こたっちゃんとせとさんはどうするのかなあとちらちら盗み見ることにする。

 

 ふわり。

 

 唖然。

 

 あー、妖精だから飛べるよねー。そうだよねー。

 

 二人とも重力を無視して、宙をふわりと漂いながら、優雅に目的地へと進んでいく。

 

 「飛べんの?!」


 「飛べませんか?」

 

 こちゃったんがこちらに、小首を傾げるような動作をしていた。

 うーん、良く見えないな? と思いながらいつもの癖である、眼鏡をあげる仕草をした。まあ、無意識的にやってることなので、やろうと思ってやった感はないのだけど。

 その瞬間、なかったはずのものが指の動きに従って収まり、少しの疲労感が私を襲った。

 重い荷物を少し運び、それを無事下ろして一息はふり、それくらいの疲労感。

 違和感引っ付いているけど、視界良好まあいいか。

 

 「飛べませんなあ」

 

 こたっちゃんは宙に足を止めて私の返答を聞き、ぽんと手を打ったようだ。

 

 「今のあおい様は飛べますよ。人間は飛べないもの、でしたね。失念しておりました。

 ……空を飛ぶ想像をした経験はおありですか?」

  

 「んー、夢の中とかなら」

 

 「では、それを今やってみてくださいな」

 

 え、今? えーっとどんな感じだったかなあ。

 私は自慢ではないが、頻繁に空を飛ぶ夢を見る方だと思う。

 そんな話を同志としていた記憶がふと思い起こされる。

 同志曰く、「瞬間移動であちこち旅したりする夢の方が良く見る。」とのことだった。

 同志は世界の都市に詳しく、将来は世界旅行をしてみたいと常日頃から言っていた。

 私はどちらかと言うと、空を飛ぶこと自体に興味が向いており、瞬間移動するならちゃんとイメージできるところの方が良いな、と思っていた。

 きっと想像力の違いだろう、学校から家までドアトゥドアなら大歓迎だけど。

 世界を旅するなら、あてもなくビューンと空飛んで、目についた景色の場所にすすっと降り立って行く。

 

 そんなイメージをもってして、今いざ行かん、こたつの天板上へ!

 

 夢の中では、電線を避けるのが大変、であったが。

 今は簡単に、飛べる飛べる! やればできる! 縮尺に感謝。

 八畳一間くらいの頭上に何もない空間ならば、微調整に失敗しても問題ない広さがある。

 夢の中でそうしていたように、足に力をためて、そぉい!

 

 あ、浮いた! 浮いたよ私!

 

 ふわり、低空を漂っていたが、すぐに駆け出すように天井近くまで身を翻す。

 エアコンの前を通り過ぎ。

 キャットタワーの周りをくるくると回り。

 背面宙返り二回転からの着地!

 

 決まったー!

 すちゃっと腕をVの字に広げ、PCの上に降り立つ。

 10点、10点、10てーん!

 私の心の中の審査員がとれびあーんを連呼する。

 

 ……そして、私は1キロメートルを全力疾走した後にバク転二回転したあとの疲労感に襲われるのであった。

 バク転てできたことないけど、多分それくらい結構大変。

 ぜぇはぁしながら四つん這いで息をする私に、こちゃっちゃんがスポドリを渡してくれた。

 んぐんぐ。

 制服だと鬱陶しいやばい、運動するならジャージだろがい!

 

 そう思った瞬間。

 

 私は、だぶだぶの黒い、腕と裾にピンクと白のラインが彩られているジャージをまとっていた。

 下は同じ雰囲気の七部丈。

 足元には素足にピンクのスリッポン。

 

 お色直しした瞬間、更に縄跳び五分間跳び続けた疲労感に襲われる。

 うぐごあぁうあああ。

 

 私は思わず、五体投地した。

 

 「あんな飛び方をした上に、お色直しなど……無茶が過ぎますよ!」

 

 こたっちゃんが青ざめた様子で言い募る。

 

 「説明……よろ」

 

 「体力の使い過ぎです」

 

 

 話を聞く限り、私が思ったことは大体実現できるのだそうだ。

 その力の一部を使って、座敷童の恩恵をぶっぱできるそうだ。

 しかし、それには体力を使うのだと。

 え、そういうのって、霊力とか魔法力とか、体力とは別個のものを使うのだとばかり想像していた。

 ナニカ私の常識外の力が無限に使えればそれに越したことはないけど、何かしら代償はあるんだろうなあという、異世界系小説のお作法に沿った妄想を抱いていただけ、ということ? こたっちゃんブートキャンプする流れ?

 

 「いえ、霊力については、そのうち学んでいただきたいですよ。

 体力だけですと……今のあおい様が良い例でしょう。

 実際、私やせとさんは妖精としてはそこそこの時間を過ごしておりますし、人間としての概念の枷はそれほどありませんので」

 

 「うーん、どゆこと?」

 

 「霊力の引き出し方がまだ掴めていないのでは?」

 

 「あー、その感じは教えてもらわないと分からない、かも」

 

 先ほどの一連の疲労具合ハウマッチ。これ英語的に違うかもだけど、ご了承。

 

 掛けていなかった眼鏡をかけていた。

 空飛んでアクロバットを決めた。

 ジャージに着がえ直した。

 

 これらを全て、体力で賄った結果が、今の私の五体投地なのだろう。

 そもそも空飛ぶって何力使うか分かんないし、眼鏡とジャージを召喚したのだって、少なくとも体力使うっておかしいし。

 それを私の認識できる範囲、体力を使った、ということなのかもしれにゃい……はあ、疲れた。

 

 うにゃうにゃと考えていたら、なんだかうとうとしてきた。

 

 「あおい様、お休みになりますか?」


 「うーん、そうするぅ……はい、かいさーん」

 

 せとさんは顔を顰めたが、やれやれという表情を浮かべてどこかへ飛んで行った。

 ネロ様はキャットタワーで爪とぎをしていた。

 

 こたっちゃんは、私にどこからか取り出した毛布を掛けてくれる。

 

 「家主様が帰ってくる前には起こしにきますので、少し休んでくださいな」

 

 起きたら何か甘いも食べたいなあ。

 その辺の要望を出してみようかな。

 不意にお菓子を召喚して体力使うことになれば、それこそ食っちゃ寝するだけで私の座敷童生が終わりそうだ。

 

 「ん-、ありがと」

 

 色々棚上げしたり、ぶっつけ体当たりで対応していたら、体力の限界を迎えてしまった。

 しかし、私はそもそも、無理しようとしてもできない、そんな根性しか持ち合わせていないのだ。

 ちょっと休憩。

 

 くたっと体の力を抜けば、すぐに安らぎはやってきたのだった。

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