第四話 外は外 内は内
こたつを抜けるとそこはゴミ屋敷だった。
思わず某有名小説の一節をお借りしてしまった。
出典を思うと虚空に平謝りしたくなる、そんな光景であった。
分かりやすく脳から滑り出た感想を述べようか?
やべー、これはやべぇ。
であった。
私の後に続いて出てきたこたつの精さんをガン見、その後ろをついてきたネロ様のあくびを見てがっくり。
「これは処置なしでぁ……」
「いえ、これはっ!」
被せる様に何か言いたげなこたつの精さんであった。
んー、ここは私の腹を割って話す術、その3を披露する時!
「ねーねー、こたっちゃんって呼んでいい?」
鳩が豆鉄砲食らった時ってこんな感じなのだろうか?
つか、鳩に豆鉄砲食らわそうとするやつって、鳩のこと実は嫌いだよね。
餌をあげる振りして奇襲とか、血も涙もないパターン。
「ひゃ……はい、あおい様がそう望むのであれば」
うーん、まだ固いなー。
「こたっちゃんは何て呼んでくれる?」
こたっちゃんの顔、ぴきーと固まったと思ったら、冷汗だらだらって擬音が聞こえてきそうな勢いであった。
「あーちゃんとか、あっち、とか呼ばれてたかなぁ。気軽に呼べそうなやつが良いな」
「いえ、そんな……」
「えー前の人はどんな感じで呼んでたの? そもそも、どゆ関係で過ごしてたん?」
こたっちゃんときたら、明らかに顔を赤くして、わたわたと慌てだした。
あ、これは恋してる波動ですわー。
美味しく頂く感じのやつですわー。
「いえっ、そういうんじゃなくてっ!」
「え、そういう感じ? どういう感じ? 私、元女子高生だから良く分かんないなあ」
「お戯れが過ぎますよっ」
最終的には、ゆでだこのようになってしまった。
なにこの妖精かわゆい。
ただなー……。
「そか、寂しいよね。先代さんが消えちゃって、私は右も左も分からない。大変な感じだよね。ネロ様は自由だけど」
「……いえ、そのようなことは、ありませんよ……」
ネロ様のくだりは、冗談めかして言えたけど。
やっぱ、返答を聞く限りでは、まだ少し思うことがあるんだろうな……それくらいは分かってしまった。
よし、とりま保留! 今は現状把握&少しずつ仲良くなるターン!
「ん、じゃっ。何か良い呼び方思いついたら、教えてね!
それにつけても、ゴミ屋敷、かあ」
「はい、ありがとうございます。 少し考えさせてくださいな。
……そうですね、まずはお部屋の様子を……ご確認ください」
はあと一つ息を吐き、改めてこたつ外を見回すけれども。
「えーっと、どうしてこうなった?」
こたっちゃんは意を決したように、説明し始めるのであった。
………
……
…
そもそも、ゴミ屋敷とはどの程度ゴミに埋もれている場合を指すのだろうか。
定義が難しい。
そこまで考えたことなーい、と言う人の方が多いように思う。
かっこ当わたし比かっことじる。
ちなみに、私の場合はPC機器とケーブルとゲーム機と漫画小説が入り乱れている部屋であった。
十分ゴミ屋敷認定されかねない危うさであったが、空きペットボトルとか空き缶とかゴミな袋類などは、きっちり捨てていた。
だって、虫怖いから。
そもそも、お小遣いあんまないから、買い食いとかもしてないし。
そんなに。多分きっと、女子高生やや平均下くらい。
こちらのお家はと言うと、私判定では、ギリアウトかなあ……。
どうやら、こちらのお家は二人家族。
家族と言うか、同棲?
しているようだ、って、こたっちゃんが言ってた。
両方とも働いていて、あまり自炊するタイプではないらしい。
実に不健康である、自分が大人になるならば、そのようなことにならぬよう、肝に銘じたいところだ。
まあ、もう死んでるけど。
ただ、そんな二人にもどうやら個性というか特性の違いがあるらしい。
確かに、長方形のこたつの一辺は区別されている。
それぞれが長い方の一辺に陣取り、右側左側を使い分けているようだ。
片側には、木の座椅子がクッションと共に置かれていた。
腰を痛めているのかもしれない。
座椅子が置かれている方に注目してみると、そちらは比較的綺麗にも思えた。
と言うかノートPC以外の物は片付けられている。PCが操作できる範囲に限れば。
だが、その外側である、PC操作に支障ない範囲、そしてこたつの傍の床面やら。手につく範囲には雑然と、本や薬やチラシやゲーム機などが、分類するのも面倒な状態で置かれていた。
人間の手が伸ばせる範囲外のものは手付かずである。
もう一方、そのこたつの天板には、やれ雑然とレシートや空きゴミや家及び自転車の鍵らしき貴重品が混じって置かれていた。
だが、消臭、抗菌……ダストスプレー等など、清潔感を醸し出すあれやこれや、綺麗好きが使いそうなモノものが置かれていた。
そして、白く黒く、すらっとしたボディを輝かせるゲーム機がこたつの傍らに鎮座し、異彩を放っていた。
「そういう訳で、少し雑然としておりますがぁ……」
ひとしきり説明を終えようをしていたこたっちゃんであったのだが。
新たな闖入者を迎えることとなった。
「其方は新しい座敷童殿か、お初にお目にかかる。
私はセト5。
ここの家主にして主、そのお方の忠臣である!」
「ぇ、誰? せとさん?」
家主と主って、頭痛が痛いみたいなことになってない?
つか、あんた何?
困惑するこたっちゃん、我関せずのネロ様、そしてニューフェイスせとさんを交えて、このゴミ部屋は大いなる盛り上がりを見せるのだった。
見せるのかなあ?
せとさんってそもそも何の精?
あー私、いつネロさまモフれるのかなあ。