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座敷童になるとは思うまい  作者: 猫野住処
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第一話 ここはどこ?

 温かいというよりは、少し暑い。

 そんな部屋で、私は目を覚ました。


 「もふもふ気持ちぃ」


 くっと背伸びして、辺りを見渡す。

 もう夜になっちゃうかなあなどとのんきに思っていたが、どうやら様子が少し違うようだ。


 周囲が暗いので、単に自室で目が覚めたのかと思っていた。

 だが窓がないので、自室ではない。そもそもベッドとか机とか、身の回りにありそうなものが何もない。

 

 辺りは夕暮れのような暗い橙で色づいてはいるが、視界は薄暗いを通り越してめちゃ暗い。豆電だけつけた寝室と似たような色合いだ。

 

 「あーっててて」

 

 背中をさすりつつ、ゆっくりと。

 暗闇に慣れてきた目をじーっと凝らしてみると、ここは学校の教室くらいの広さがあり、四方につるりとした光沢をもった木の柱が立っているのが窺えた。あれでこの空間が支えられているのかもしれない。

 壁面はふかふかとした、毛布のような材質でできているのだろう。テント(布面は毛布)といった趣だ。

 足元は何といえば良いだろうか……しょぼいカーペットのような、柔らかくもないが地面のように固くはない感触を受ける。

 私の部屋はフローリングだったので、あまり馴染みはなく、良く分からない。

 生きた草、例えば芝生、のような植物特有のものではない気がする。

 そういえば、ここには生きた植物はなさそうだ。暑すぎるし、植物の生育には向かないだろうと思う。

 だが、室内というには、私の常識とは違う作りをしているので、なんだか戸惑ってしまう。

 外に放り出されても、困るっちゃ困るけど。

 

 橙の光は上部から降り注いでいる、同時に熱気もそこから発生しているようだ。

 照明にしては光量が心もとない。

 暖房器具としては暑すぎるし、天井に取り付けるのはどうかと思う。

 ストーブを天井にぶら下げたような感じなのだ、エアコンとは違ってただただ熱気を無暗にばら撒いている。

 熱量は十分すぎる程あるのか、体感温度的には初夏の陽気を思い起こさせる。



 汗かいてきちゃった……思わず袖口で汗を拭う。

 あ、またママに怒られちゃう。



 「ブレザーのポケットは何のためにあると思う?」


 「ハンカチとポケットティッシュを入れておくためであります! マム!」


 「はぁ……、もう高校生なんだから、しっかりしてよね」

 

 身嗜みにうるさいママの口癖であり、ママの求める正答だ。

 軍隊口調なのは、あっさりとスルーされた記憶がある。

 確かその時の私は、近未来戦争物を読んでいたような。

 口調が今読んでいる本の口調に左右されることを知っているからだと思うが、何だか生暖かい目線で私を見ていたように思う。

 

 ママも私の趣味に合わせてくれる時はあるんだけどね。


 「愛生、恐ろしい子!」


 とか言って、変顔……白目をむいて驚きの表情? を作って見せてくれた時は、何事かと思ったよ。

 単に、トイレットペーパーの在庫が少ないのを察して、買い物を任された時に特売だったからついでにと買ってきただけなのだけれども。

 ママとしては、家のことに気を回せた私に驚いたのだろう。

 私が知っていて且つママが知っている漫画の一場面を再現して、褒めてくれたのは分かった。

 嬉しかったけど、素直に喜べない。

 まあ、次にまた同じように買い物してきて、と言われたら張り切ってみてもいいかなあ。

 

 

 「そっか、今は制服を着てるのか」


 そんな独り言が闇に溶けていく

 何が何やらで、今自分の状態にはあまり目が向かなかった。

 少し状況整理してみても良いかもしれない?

 そう思い、自分の身の回りを確かめる。

 もちろん、ブレザーのポケットには飴の包み紙とか、友達から授業中に回ってきた手紙とか、コンビニで買い食いした時のお釣りとレシートとか、身嗜みには関係のないものしか入っていない。

 ママごめん。

 胸ポケットには、校章のバッジと生徒手帳。

 

 生徒手帳には「天野(あまの) 愛生(あおい)」と名前が印刷されていた。

 確かに自分の名前がそこにある。


 中をパラパラと改めると、メモ欄に友達たちからのメッセージが載っていた。

 

 「これからもよろしくね!」

 「受験前の高校生活エンジョイしよ」

 「同志と語らえる日々に感謝を(*T-T)人†┏┛┗┓†」

 

 そういえばクラス替えした2年の初めに、私のあずかり知らぬところで、友達を作るための根回しが行われていたようだ。

 中学の時に同じクラスにいた親友が、気の合いそうな子に声をかけていたのを思い出した。私と共通の友達や、新しい友達、その流れで私と親密だった同志(読書趣味が合うという意味で)とも、新二年生を祝うメッセージを書きっこした気がする。親友、コミュ力振り切れてる。

 私だけだったら、同志と細々と濃い学生生活を送っていただろう。いや、それはそれで楽しいとは思うけど。

 いろいろなことに興味を持てたのは、ありがたいことだったと今更ながら思う。

 あれから、あっという間だったなあ。

 

 しかし、ここは学校ではないようだ。

 いつもの騒々しさはなく、ブォォン……という、天井から聞こえる不思議な音しかしていない。

 みんなの机が並んでもないし、学校であることを主張する黒板や教壇ももちろんない。

 

 なんだか、ここが私の知らない空間なのだな、と改めて認識してしまった瞬間。

 不意に不安と圧迫感が私の胸に押し寄せてきた。



 ここ、どこ? 

 今は、私、独りぼっちである。



 制服脱ぐの面倒でそのまま寝ちゃったからかな?

 うーん、高校3年を目の前にした身で、この体たらくはよろしくないかも。少なくとも、ママにはとても言えない。お小言の雨あられを一身に浴びることになるだろう。

 

 しかし、今はむしろ叱ってくれる人がいてほしいと思うくらいだ。

 自身の感覚と風景に全くつながりを感じられない。

 


 今しがた開いていた生徒手帳を確認するように、背表紙を撫でる。

 つるりとした確かな感触を覚え、独りぼっちで見知らぬ場所にいることを、あえて意識の外に追い出す。

 そもそも私は何をしていたっけ?

 最後の記憶を思い出すため、神経を集中させる。

そのうち猫出します


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