卍 うそつき 卍
人間は嘘をつかないと日常会話さえ10分間も続けられない。
と、どこかの研究で述べられていた。
その研究の趣旨に沿っているかどうかは分からないけれど、まあ考えてみると確かに……われわれは日々他愛のない嘘をついている。待ち合わせに遅刻したとき、あるいは会社で「どしたの?今日は元気ないね」とか聞かれたときなど、さらっと嘘ついて誤魔化そうとする。
事実を言うとまどろっこしすぎて会話の流れが滞ってしまう場合、大幅に端折ることもあろう。さして悪気もなく、嘘は日常会話に差し込まれる。
これは一種の自己防衛みたいなものだろうか?とも思うけど、われわれ人間が最初に嘘を発達させるのはガキの頃……それこそ大人がやったら即嘘松認定されてしまうような、手に負えない大嘘をついて収拾がつかなくなって、決まりの悪い経験した人も多かろう。
がきんちょがそういう嘘をつく動機はただひとつ、注目を浴びるため。
自己防衛とは関係なさそう……
いやそうでもないか。
軋轢を避けたり目立つことが群社会でよりよい地位を築く手段だと思えば、生存本能のようなものに根ざしていると思えなくもない。研究によると女の子は相手の容姿を誉めるなど利他的な嘘をつき、男子は自分を誇大に見せる嘘を頻繁につくという。
オスとメスで違いがあるということはまさしく生物学的特徴なわけで、クジャクの羽根や昆虫の擬態のように進化の途上で発達したと考えれば、生物としての人間の特徴/能力は「嘘つき」ということか。
あるいは知的生物としての最大の発明のひとつは「嘘つき」なのだ、と言っても良いかもしれない。
なんせ嘘は武器として使える。
日常会話の嘘は社会を円滑にまわす方便かもしれないけれど、たとえば詐欺詐称の類い。学歴を偽ってテレビに出てた人居ましたね?
そしてマスコミや行政の統計グラフは、しばしば国民をミスリードするためデータを改ざんする。
そしてフェイクニュース。
戦争の発端が嘘だった、というのもままある。
つい最近も「大量破壊兵器を製造してる!」っていう虚偽報告で壊滅させられた国がありました。
中でも最悪なのは自分自身につく嘘でありましょう。
人間というのは思い込みで幸福にも不幸にもなるし、自身の幸福のために記憶を改ざんしてしまうこともある。釈明会見や裁判で虚偽を語る人たちなどは脳内で作り出した物語を事実と置き換えてしまうのだと思う……誰だって追い詰められて、布団の中であしたつく嘘を組み立てた経験、あるでしょう。
事実認識を願望に置き換える歴史修正主義などはその超拡大版だと言える。
SFでは『スタートレック』のバルカン人のように嘘をつかない(つけない)知的生物がよく登場する。
最近だとサヴァン症候群で自閉症、という主人公のドラマで、嘘を言えない人間をある種の純粋な存在として描くケーズが増えている。
これはマスコミの真偽をキリもなく疑ったり、ゼロリスク症候群など疑心暗鬼の蔓延した社会の疲弊から、嘘の無い、よりピュアなものをどこかで求めてるってことかもしれません。
いっちょ試してみますか……丸一日嘘つかないで過ごすとか。