『立札』
久しぶりに田舎に家族を連れて帰ってきた。
何年ぶりだろう、長女の茜が、まだ2才だったから、4年ぶりになるのか…
ここも、新しい住宅も増えたみたいだ。
僕が住んでいた当時に比べると、人口も増えて、駅も綺麗に改装されてスーパーやドラッグストアもできた。
「パパ~」
「おーい、今いくよ。」
僕と娘は、変わった町を散歩していた。
妻は、まだ赤ん坊の長男と僕の実家で休んでいる。本当は、一緒に来たかったのだろうが、両親が初めて見る長男、空を放さないのだ。茜は空ばかり構う祖父母がつまらないのだろう、私に「外に行こう」といい。仕方なく散歩にでかけたのだ。
僕が住んでいた住宅地の隣は、森が広がっていたのに、ここも新しい住宅ができていた。
「へー、やっぱり新しい住宅は、いいなぁ」
「茜も、こんな家に住みたい」
「そうだね。パパ頑張ります。」
新興住宅街を歩いていると、休みなのに人影が無かった。あまりに静かだった。蝉の声が遠くで聞こえる。
「パパ、これ何て書いてあるの?」
よく町で見かける迷惑防止の立札だった。
「これは、『ここで煙草を吸ってはダメ』って書いてあるんだよ」
「タバコはダメだよね」
「そうだね」
「じゃぁ、これは?」
「これは、『ここで笑ってはいけません』って…」
「笑っちゃダメなんだ」
「そ、そうみたいだね」
おかしい、見た目は普通なのだが、この路地、いろんな所に立札がある。
糞は持って帰ろう、唾を吐くな、夜は黙れ、ここでは走るな、自動車は徐行…何なんだ、ここは…気味が悪くなってきた。
「茜そろそろ戻…」ここは一方通行の立札を見てしまった。
次の路地を曲がって帰ろう。
そう思い、路地を曲がった。
「あ、パパ!公園だ!」
茜は走って公園へと向かってしまった。
慌てて、追いかける。
「待って、茜」
真っ先に茜は滑り台で遊び始めた。変哲もないありふれた住宅地にある小さな公園だった。小さな滑り台、幼い子供が乗る動物の置物、広場にベンチ
そのベンチの後ろには、やはり立札があった。
「なになに、『この公園では、ボール遊び、かくれんぼ、なわとび、ままごと、自転車、一輪車、バドミントン、カードゲーム、ゲーム機、花火、飲食、午後6時以降の立ち入りを禁止します』なんだこりゃ!」
読み終えて、ベンチに腰掛け、滑り台に視線を向けた。茜は、滑り台の頂上から手を振り滑り落ちる。また、階段を上がり、滑り落ちるのを繰り返していた。
「あれ?」ふと、気づいた、ベンチに腰掛けると、ちょうど滑り台が正面を向いていて階段が見えない。でも、ほんの2、3秒で茜の姿が見えるのだったが、少し気になりベンチから腰を上げたとき
「パパ!次は、かくれんぼ ね」と聞こえた。
「え、ちょと、茜」すぐに、滑り台に走って行ったが茜の姿が見えなくなっていた。
「茜!ここは、かくれんぼ しちゃダメな場所だから、すぐに出てきて!」大声で必死に叫んだ。
すると、滑り板に身を埋めていた茜が顔を出した。
僕は、安心しながらも鼓動が早くなっていた。
「よかった。」
「パパ、なにがよかったの?」
「茜が見つかって。もう、帰ろう」
「…」
「茜?どうした?茜」
「あーぁ、パパ、残念 『見つけた』って言わなければ、逃してあげたのに…」
「あ、茜?何言ってるの?」
読んで頂き誠にありがとうございます。
少しペースが落ちたかなw
久しぶりに『夏のホラー2021』です。
もうじき、この企画も終了~なので、別の妄想に励みたいと思うけど、まだ書けるかなぁw
それでは、またお会いいたしましょう。m(._.)m