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1日

作者: つむら

 青空の下、寺に続く参道を少年2人が歩いている。

 道路の幅は3メートルくらいで、両端に分かれて、小学校から家に帰っているところだ。


「ミキ君はさあ。お店で出るようなご飯、家でも出るの?」

 片方の少年が大声で聞く。参道を進む観光客の何人かはそれに反応して、声の出た方と、声の向かった方を順に見た。

「出るよ」

 ミキはネルよりも少し声が小さい。しかし、ネルにはしっかり届いているようだった。

「いいなー」

「余ったものとか、端っことか、そんなんだよ」

 ミキは両手でランドセルのベルトをミシッと握って、俯いた。

 石畳の目地を踏まないようにして、蛇行する。去年の3月に新しく直されて、表面はまだツルツルとしていた。

「僕の家なんかさあ。せんべいしかくれないんだよ。もう飽きちゃったよ」

「僕、せんべい好きだよ。ネル君の家のせんべい、美味しいと思う」

 2人は同じ速度で、緩やかな坂を下る。お互い横を向いて歩いているので、進行方向には不注意になりそうなものだったが、慣れているようで、反対に進んでくる大人をすいすいと交わしている。

「じゃあね」

「じゃあね」

 ミキは参道に面した蕎麦屋に入って行く。

 ネルはミキと分かれた後、走り出して、もう少し先の煎餅屋に入る。


 道の中央に立つ銀杏に、冷たい風が吹いて、頭の方が傾いてそよいだ。


 靴を脱ぎながら、ネルは思う。

 なんだか、昨日よりも今日は1日が短かった気がする。

 今日はどんな1日だったか、頭の中で朝から今までの出来事を思い出してみた。

 算数の授業は昨日わからなかったところが、今日もわからなかった。でも、図工の授業で書いている、空想の絵は少し進んだ。

 休憩時間は、最近僕たちの間で流行っている竹馬でずっと遊んでいた。昨日も今日も、ミキ君と2人で練習した。

 どうして、今日は昨日よりも短かったんだろう。

 手を洗って、店にいるお母さんのところに行くと、

「今日はお手伝いはいいから」

 と言われた。

 いつもなら、お店か、お家のお手伝いをしないといけないのに、今日はしなくていいらしい。

 やることがなくなったので、中庭に向いて座っているおばあちゃんのところに行った。

「今日はお手伝いはいいんだって」

「そう。良かったね。遊びに行かないの?」

「誰とも約束してないもん」

「そう」

「じゃあおばあちゃんと一緒に遊ぼうか」

「いいよ。じゃあ、クイズね。えーと、昨日と今日、どっちの方が短かったでしょうか?」

 おばあちゃんは僕の方を見た後、空の方を向いて、

「今日」

 と言った。僕はびっくりした。

「何で分かるの?」

「この季節はだんだん日が落ちるのが早くなるからね」

「そういうことじゃないんだよなあ。でも当たり」

「そういうことなのかもしれないよ」

「違うんだ。おばあちゃん。僕もそれくらいのことはもう分かってるの。冬に向かって、早く夜になるし、夏に向かって、昼が長くなるし」

「うん」

「それなのに、毎日ちょっとずつ、1日が短くなっていってる気がするの」

 なるほどね、とおばあちゃんは立ち上がって庭へ降りた。

 僕も同じようにして、おばあちゃんの横に立った。

 さっきまで短く感じていた1日が、今、ぐっと長くなった気がした。

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