無職とJK
林田國雄
40才
妻と娘と三人暮らし
無職
「いってらっしゃい」
そう言われ妻から弁当を受けとり、軽い鞄につめる。いってきますと呟くように言い家を出る。ドア日でないことを恨みながら駅へと向かう。駅に着き満員電車に乗り込むと一緒に乗っている人たちをみてまたため息をつく。そのまま職場の最寄り駅で降りて、マフラーで顔を隠し辺りを見回しながら会社に向かう。こそこそするのならわざわざ行かなくてもとも思うのだが、まあ行くしかないのだ、行かないとなにか心の持ちようがなんとなくよろしくない。そうしていつもより少しゆったりとしたペースで建物の前まで行った。着いたらなんとなく軽く一礼する後退りして近くのハンバーガーチェーン店に入り、珈琲を一杯だけ頼んで席に着く。周りに人はいない2週間前仕事を急にクビになった。何の前触れもなく引き継ぎを朝からさせられた。そもそもこんな急に辞めさせられるのかとか、退職金は出るのかとか色々聞いてみたがまともな返事が返ってこなかった。まあ典型的なブラック企業だったのだから仕方ないし、むしろ辞めるきっかけができてよかったと会社では思っていたが、家に帰るとこれからどうすればいいかさっぱり分からず妻に話すこともできないままこんな情けない行動を続けてしまっている。ハロワにも行ったが再就職する気がなかなか起きない。妻と娘のことを思うと早くするべきなのだろうが現状やる気が起きない。鞄の中から自己啓発本を取り出して読むことで時間を潰す。いつまでこんなことを続ければいいのやら。自分の愚かさを感じてゆく。優子はその名の通り優しいから許してくれるだろうが少しの勇気が持てない。申し訳ない気持ちで愛妻弁当を開けると。
「おっさん何してるの?」
不意に学校の制服を着た女の子が声をかけてきた。制服を着崩していないことに違和感を感じるほど遊んでそうな顔の少女だったが、無視しようと思い目線をそらすと、目の前の席に座ってきて、
「おっさん無視すんなし。」
と言ってくる。行く当ても小遣いもない俺は仕方なくそいつにかまうことにした。
「お前は誰なんだ。」
「お前って言葉が悪いなー。言い直して。」
そう言ってしかめっ面をされた。せっかく答えてやったのに強欲なやつだと思いつつ嫌味を込めて言い直す。
「貴方は誰なんでしょうか?」
「気持ちがこもってない!!もう一回!」
役者志望じゃないんだからこんな会話に気持ちを込める必要などないはずなのだがどうしようもない、上司に向けるように、また言い直す。
「貴方は誰なんです?」
「ハイ合格!じゃあ質問していくね。」
そう言って不慣れそうにカバンからA4の用紙を取り出した。
「質問に答えてよ」
俺のそんな言葉を気にせず、彼女は面接官気取りで質問を始めた。
「では、娘さんが生まれた時のことを話してください。」
さっき気持ちがこもってないと言って来たくせになまじ棒読みでそんな質問をしてきた。
「なんでそんな質問をしてくる。」
「そんなことどうでもいいじゃん、いいから早く答えてよ。」
なんの答えも得られなかったので仕方なく答えるしかない。だが、見ず知らずの人に話すのは気が進まない。それで少し黙り込んでいると、すかさず彼女は
「面接では黙り混んではいけないって習わなかったの?」
と、こちらを煽ってくる。そうされる意味も分からないし、そもそも何でこんな質問に答えなければならないんだろうか。
「早く答えてよ」
彼女の真面目な目つきに押され俺は答えさせられてしまった。
「当時俺は所謂ブラック企業勤めていて出産に立ち会うことができなかった。それどころか娘が生まれたのは正午くらいなのに会えたのは日を跨いでからだった。娘の誕生に立ち会わせてくれず半日もお預けされた。娘の一番最初に見る人になりたかったのに何十番目にさせられた。そんな会社とその会社を辞められない自分の立場を恨みながら病院へ向かっていたけど、ついて花音の顔を見たときそんなことはきれいさっぱり吹き飛んで本当に温かい気持ちになれた。」
べたな話ではあるが真面目に答えたせいで少し気恥しくなった。
「そうですか」
彼女は少し目線を逸らして紙にメモをし質問を続けた。
「娘さんとはどう接していますか?具体的に答えてください。」
俺は当り障りなく答えた。
「平日は全く会えていないけど、その分たまの休日はできるだけ触れ合うようにしているよ。」
「もっと具体的に。」
そう言われよく考えると難しい。もともとほぼお金をもってくるだけの人だったのに今はそれすらできていない。本当に働かなくてはと思い返される。
「直接的にはほとんど何もしてやれてないけど、妻の料理したり洗濯をしたり家事の手伝いなどをしてやってるよ」
彼女は不満そうな表情で質問を続けた。
「では夫婦円満の秘訣を教えて下さい。」
「隠し事をしないことかな」
「じゃあ今何してるの?今ここにいることも知ってるの?本当に愛してるの?」
普通に痛いところをついてきた。こんな小娘に言われるなんて本当になにやってるんだろうか。俺は無難に言葉を返した。
「当然愛してるよ、ちょっと今は行動に伴ってないけど。」
「ほんとに?」
「本当に。」
「では、」
「ちょっと待て、なんでこんな質問をしてくる。お前は誰なんだ?」
「答えなきゃダメ?」
「だめだ」
「もういい、めんどくさい。」
彼女は聞かせたいのかそうでないのか分からないような大きさの声でそう呟くと
「あたしー未来から来たんだよね。」
さらっとすごいことを言った。今日散々意味が分からないことを言われたけど本当に一番意味が分からない。落ち着いて考えると彼女は未来から来たということらしい。タイムトラベルなんて信じられないが、確かに言われてみたらそう思ふ節もあるような気がする。」
「おーい、聞こえてる?」
少し放心状態だった俺を少しぼーっと見つめていた彼女は少しして手を振りながらこちらの様子を確かめてきた。
「で、最後の質問なんだけど。」
「まてまて、ほんとに待ってくれ、ちょっと落ち着かせてくれ。お前は未来から来たのか?」
「そうだよ、めんどくさいなー、やっぱ言わなくてよかった。そうだ、聞かなかったことにしてくれない?」
「無理だ。」
「おっさん頭が固いなー、まだ40歳でしょ。」
「そういう問題じゃないだろ。」
「まあ、どうせ記憶消すからいいんだけど」
「じゃあ俺に何の用だ?」
「分かるでしょ。質問しに来たの」
「なぜ俺に?」
「そんなことより最後の質問♪。娘さんにどう成長して欲しいですか?」
「どうって健康に育ってくれれば何でも」
「何でもってことはないでしょ、もっと具体的に。」
「まあ、お前のようにはなってほしくないかもな。」
彼女はすこし俯いた
「具体的にどんなところが?」
「いや、なんとなく」
それを聞いて彼女は紙にペンを走らせた後そそくさと帰ろうとした。
「おい待てよ。」
「なにー?」
「質問に答えてやったんだこっちの質問に答えろ。」
「でもどうせ忘れちゃうよ?」
「それでもいい、お前は誰なんだ、何の目的でこんなことをするる?」
「ん~ほんとに答えなきゃダメ?」
「だめだ。」
「わかったよ、私は林田裕美、お父さんに思春期の娘がインタビューみたいなやつで来たの。」
はぁ、これは悪質な悪戯か?。未来から来たというのは冗談だとすれば可愛げがある方だが、裕美の名前を出すのは反則だろう。勢いに負けて質問に答えた事を少し後悔する。
「もしかして信じてない娘のこともわからないなんてお父さん失格じゃん。」
そう言って顔を近づけてきた。よく見ると若い頃の優子ににている気もする。少し本当のような気もする。そうだとすると俺は結構ひどいことを言ってしまったような気がする。言われた通り父親失格だな。でもどう接していいのかわからない。
「あの…」
「もういいでしょ、帰るよ。」
「待ってくれ、一言々わせてくれ」
「なに?」
「ありがとう、こんな父親の娘でいてくれて。」
「そう、こっちもなんかありがと。じゃあ帰るね。」
そう言って裕美は俺の額にデコピンした。
はて、俺は何をしていたのだろう。寝ていたのだろうか、なんか夢から覚めたような気分だ。ただ、少し決心がついた気がする。帰って優子に今までのことを正直に謝ろうか。そしてちょっと怒られて、そのままハロワに向おう。大切な家族のためだ頑張ろうか。