ep1.魔術と魔法、ヒイロと両親
7年間お世話になった家を後にしたヒイロは、冒険者養成学校に通うため、エルン王国の中心である”王都エイハ”に向かっていた。
「とりあえず、近くの町に行きたいなぁ。」
生まれてこの方ヒイロは親以外にの人に会うどころか森から出たことがない。それが何を意味するのか。
ーーーーそう。いわゆる世間知らずなのである。
「サーチを使ってもいいんだけど、MPは身に危険を感じた時以外はあまり使わないようにってお母さんに言われてるしなぁ。あ、そうだ!」
サーチとはいわゆる探査魔法で、どんなに扱いにたけてる人でもせいぜい半径1kmが限界なのだが、ヒイロが全力でこの魔法を使うと半径50kmは余裕でできてしまうのである。
ヒイロは少しひざを曲げた後その場でジャンプした。常人のジャンプなら意味のない行動だが、ことこの少年にいたっては意味のある行動になる。
「うわぁ!すっごいいい眺め!それで、町の方角は...っと。あー、ちょっと遠いかなぁ...」
ヒイロがジャンプで跳んだ距離は約30m。それも真上に。周りに人がいたら開いた口がふさがらなくなるような光景なのだが、幸い森の奥のほうだったこともあり見られることはなかった。
見事な身のこなしで着地を決めたヒイロは、ある魔術を使うことにした。
「暗くなる前にできるだけ進みたいから少しくらい使っても問題ないよね...?まあ、隠密使えばお母さんでも魔力感知できないし!飛行!」
ここで魔法と魔術の違いについて話しておこう。
魔法とは、簡単に言えば威力を落として汎用性を追求した魔術である。主にヒト族が使用するものであり、生活に使えるようなものから攻撃に使えるようなものまで種類は様々だ。比較的消費するMPが低く、適正がなくても努力次第で覚えられるという利点がある。
それとは逆に、汎用性を無視して威力を追求したものが魔術である。こちらは、主に魔族、妖精族、エルフ族などの、ヒト族以外の種族が使用する。先天的なものが多く、まれにヒト族でも適正者がでるが、MPが足りず使用できないのがほとんどである。魔術はその威力の関係上、攻撃に用いられることが多い。
魔術は基本的に攻撃的なものが多いのだが、中には例外もある。たとえばこの「飛行」という魔術。これは攻撃用ではない。しかし、魔法で再現することはできなかった。それはなぜか。元となる魔術が存在しないのである。いや、昔はあったが現代に伝えられていないといったほうが正しいだろう。
低級火魔術「ヴォルガ」を魔法に改変したものが低級火魔法「ファイア」である。このように、元となる魔術があって初めて魔法に改変することができる。そして、魔法は魔術と違い、攻撃用より補助用の種類のほうが多い。だが、元となる魔術がないせいで、魔法に改変することができないでそのままになっているものがある。このような魔術のことを、古の魔術という意味で”古代魔術”もしくは失われた魔術”消失魔術”と呼ぶ。
「そういえばこの魔術、開発するのに時間かかったんだよなぁ」
ヒイロはこの魔術を4歳の時に開発している。そして使えるのである。
先ほども説明した通り、ヒト族はMP量の関係上、魔術を扱うことができない。だがこの少年は扱うことができる。本人は使えるのが当たり前だと思っているが、この謎についてはヒイロの親が関係してくる。
ヒイロの父親”レガス・ゾルバード”。彼は、元冒険者ランクS級の有名人であり、前王国騎士団団長でもある。二つ名は”剣聖”。ただの二つ名ではなく、称号として剣聖と認められている正真正銘の実力者だ。現国王の友人でもある。
ヒイロの母親”リラン・ゾルバード”。彼女はエルフの国である”魔導国シンラ”の第三王女で、レガスと同じく元冒険者ランクS級の凄腕である。
ヒイロはヒト族とエルフ族のハーフ、”ハーフエルフ”。ヒト族の属性適正の広さ、エルフ族のMPの高さ。この2種族のいいとこどりをしたのである。
世界最高峰の剣の腕を持つ父親と、同じく世界最高峰の魔術の腕を持つ母親に育てられ、6歳にしてその両親を圧倒した少年。努力を惜しまないというのもあるが、それでも天才としか形容しようがないのがヒイロである。
ただ、欠点があるとすれば、かなりの世間知らずということと、ヒイロの両親が若干抜けているということだろうか...
「やっぱり空を飛ぶのは気持ちいいなぁ!他人に見られないように気を付けないといけないけど...。そういえば、お父さんとお母さん、大丈夫かなぁ...」
ーーーーそのころ、ゾルバード家では...
「んん~...。何か忘れてるような...?」
「どうしたリラン。そんなに悩んで」
「それがね?ヒイロに何か教え忘れたような気がするのよ...」
「気のせいだろ。俺らの技術はすべて教え込んだ。それにあいつは強い。心配はいらんよ」
「それもそうね」
そういって、各々の仕事に戻った。
ーーーーー息子に世間一般の常識を教えてないことに気が付かないまま...