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69 新居完成




 新しい住居が完成するまでの間は、武闘大会前にレーナスにいた頃となんら変わりはない。Bランクダンジョンのボスを倒しては、指輪がドロップしないことに落ち込む毎日だ。


 公爵邸に帰宅するというのもあの頃と変わらないし、生活的な変化は特にない。メンバーも当然一緒。


 変わったことといえば、俺やセラが主体として戦うのではなく、パーティとして戦闘を行うようになったことだ。


 俺は3人のフォローに加え、ボス戦では共に参戦して連携を試みる。


 1ヶ月も経つころには、一階層から三階層を俺抜きでクリアすることもできるようになっていた。セラが引っ張っている感じではあるけれど、フェノンやシリーもかなり強くなったと俺は思う。


 このレーナスのダンジョンは遺跡タイプであり、多対一の構図が中々発生しにくいから、別のダンジョンに行った時はまた苦戦しそうだけども。



「仲間の成長がこんなに嬉しいとは思わなかったなぁ。テンペストをやってた時は、自分のことで精一杯だったし」


 粒子となって消えていくシャドウスネークを眺めながら、俺はぼんやりと呟いた。


 頂点を目指すために、そしてベノムを倒すために。

 俺はただひたすらに自身を鍛え抜き、誰にも追いつかれないように必死だった。そのおかげで今があるのだし、それ自体が悪かったとは思わないけど。


 探索者ギルドレーナス支部、ギルド長のライレスさんに許可を貰い、俺はこの密林タイプのAランクダンジョンに潜っている。もちろん一人でだ。


 セラはともかく、フェノンやシリーには荷が重い。


 かくいう俺も現在のステータスでこのダンジョンを踏破することは難しいため、下層の魔物でレベル上げだ。


「踏破できたとしても、しないけど」


 お得意の独り言を呟きながら、新たに現れたシャドウスネークに剣を振るっていく。傍から見れば、戦闘をしているというよりも単純作業をこなしているように見えるかもしれない。

 なにしろ俺自身、作業をしているとしか感じないのだから。


 避けて、切る、避けて、切る。それの繰り返しだ。STRとVITさえ十分にあれば、今すぐに踏破することもできる。


 だが、記念すべきAランクダンジョンの初攻略は、迅雷の軌跡に任せるつもりだ。おそらくAランクダンジョンの踏破は、Bランクダンジョン踏破の時よりも格段に騒がれることになるはず。


 なにしろ、Sランクダンジョンが新たに出現するからな。


「俺の代わりに、存分に目立ってくれよ」


 断末魔の悲鳴を上げて消えていくシャドウスネークを見下ろしながら、俺は笑みを浮かべた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 あっという間に2ヶ月の月日が経過し、俺たちのもとに建物が完成したとの報告が入ってきた。


 完成間近なのは全員がわかっていた。


 なにしろ毎回ダンジョンに行く時に、遠くで建築している様子が見えるのだ。

 外観が完成してから、まだかまだかと俺を含む全員がソワソワしており、公爵邸にロベルトさんがやってきた今日なんて、俺は挨拶もせずに『できましたか!?』と問いかけてしまったほどだ。いやぁ、実に楽しみだ。


 もちろん、楽しみすぎてダンジョン探索がおろそかになっていたということはない。しっかりとレベルを上げていた。


 2ヶ月のダンジョン通いで、俺は残っていた全ての二次職をレベル30まで上げたほか、さらにレベル40だった武闘剣士に関しては、新たにステータスボーナスが得られるレベル60まで一気に引き上げた。



☆ステータス☆


名前︰SR

年齢︰18

職業︰武闘剣士

レベル︰60

STR︰B

VIT︰C

AGI︰C

DEX︰C

INT︰D

MND︰E

スキル︰気配察知 見切り 幻影剣



 武闘剣士で挑めば、Aランクダンジョン踏破ぐらいできる。

 俺はこの調子で、残りの二次職をレベル60まで上げるつもりだ。その頃にはきっと迅雷の軌跡がAランクダンジョンを踏破してくれることだろう。

 そうすればいよいよ、手付かずだった三次職に転職だな。


 ちなみに、この2ヶ月で指輪は一つもドロップしなかった。




 出来たてホヤホヤの一軒家。

 口と絵で説明して、日本にあるログハウスを真似て作ってもらった。別荘地にあってもおかしくない、立派な造りの建物だ。

 俺のヘタクソな絵でよくここまで再現してくれたものだ。よくやってくれたおっさん。


 この世界の木材の名称は知らないが、木目のハッキリしたダークブラウンの木を使っており、重厚感のあるずっしりとした見た目をしている。


 二階から弓のように突き出したテラスは、フェノンの要望だ。

 俺の中でログハウスは角張った印象だったので、丸みを帯びたテラスが浮いてしまわないか気になっていたが、実際に出来上がってみれば中々どうして、いいじゃないか。


 テラスのほかにも広々としたウッドデッキも設けており、外の風景を十全に味わえるようにしている。街ではこうもできなかっただろうし、やはり街の外に建築して正解だったな。


 レーナスの街にこの建物があったとしたら、おそらく公爵邸の次に大きな家だろう。



 俺が代表して扉を開けると、後ろから「おお!」とか「わぁ!」など、驚いた声が聞こえてきた。

 俺は精神年齢最年長として、『いやっほぉうううううー!』と叫びたい気持ちをぐっと堪え、ただただニヤニヤしながら内装を眺める。ロベルトさんが気味悪そうな視線を向けてきたが、無視。余は満足である。


「早く中を見ましょう!!」


 先陣を切って進もうとするフェノン。俺は慌てて彼女の襟を掴み進行を阻止する。フェノンは王女様らしからぬ「ぐぇえ」という、潰れたカエルのような鳴き声を上げた。

 いつの間にか王女様の扱いが雑になってしまっているなぁ……人前では気をつけよう。いや、今もロベルトさんがいるんだけど。


 まぁフェノンもセラも彼を空気同然に扱っているし、別にいいか。


「フェノン、この家は土足厳禁だ。ここで靴を脱いでから上がるって前に説明しただろう?」


「わ、忘れてました」


 お茶目に舌をペロリと出しながら彼女は言う。可愛いから許した。


 その脇では、我先にと無言で靴を脱ぐセラの姿。

 抜けがけして家に入ろうとした彼女だが、フェノンに襟を掴まれて「きゅう」という、よくわからない声を発した。


「一緒に行くわよ!」


「……フェノンだって一人で行こうとしたくせに」


「わ、私もご一緒していいですかっ!?」


 俺を残してパタパタと室内に入っていく三人。こらこら、リーダーを置いていくなよ。


 結局、土間に残されたのは俺とロベルトさんだけ。

 彼は苦笑いを浮かべながら、俺の顔を覗き込む。


「あの、お部屋のご説明をさせていただいてもよろしいでしょうか? まずリビン――「お風呂からお願いします!」」


 ロベルトさんの言葉を遮り、俺は最大の楽しみであるお風呂への案内を頼んだ。

 セラたちだけずるい! 俺も早く見たい! by33歳。


 ロベルトさんは諦めたように、乾いた笑いを漏らした。





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