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6 煽っていくスタイル




 翌朝、予想に反して朝早くに目が覚めた。どうやら目覚ましがないという緊張感が、プラスに働いてくれたらしい。


 宿屋で朝食を食べたほか、探索者ギルドまでの道のりで串焼きを購入し、それを食べながら目的地を目指した。

 昨日は紅茶とクッキーぐらいしか胃に入れてなかったからなぁ。腹が減るのも仕方がないだろう。


 ギルドに到着すると、昨日と同じ受付嬢が個室に案内してくれた。背中に木刀でも仕込んでいるのかと思えるぐらい、背筋がピンと伸びている。そんなに緊張しなくとも、俺自身は貴族でもなんでもないんだがなぁ。


「まだかなぁ」


 そして俺はまた、紅茶とクッキーを前にのんびりとしていた。 すでに30分はこうしている。デジャヴだわ。


 テーブルに置かれたクッキーの、最後の一枚を頬張ったところで、扉がノックされる。こちらが返事をする間もなく、レグルスさんが入ってきた。そしてそのすぐ後ろから、昨日受付で揉めていた赤髪の女性もついてきた。


 あの人は伯爵家の人って言ってたよな。立って挨拶したほうがいいよな?


 そう思い、立ち上がろうとすると、レグルスさんがそれを手で制した。


「あー、わざわざ立たんでいい。ほら、セラも向かいに座れ」


「……わかった」


 ギルドマスターに促され、赤髪の女性――セラさんは俺の向かいのソファに座る。彼女からは観察するような視線を向けられた。

 俺はその居心地の悪い視線から逃れるため、レグルスさんに声を掛ける。


「俺の話はどうなったんでしょうか?」


「そう慌てるな。それも含めて今から話すからよ。とりあえずお互いに挨拶ぐらいしておけ――念のため言っておくが、探索者に身分は関係ないからな」


 お見合いかよ! といっても、俺にそんな経験はないんだが。

 そんな感じで心の中で突っ込みを入れている間に、セラさんのほうから声を掛けてきた。


「セラ=ベルノートだ」


 とても短い挨拶。俺も同じように「SRです」と返すと、彼女はやや目を細めながら問いかけてきた。


「……家名は?」


 家名? ゲーム時代のNPCも、平民に家名はなかったよな?

 もしかするとセラさんは、俺のことを貴族だと勘違いしているのか?


「家名はありませんよ。俺は平民ですから」


 そう答えると、彼女は少し驚いたような表情をしてから「そうか」と、これまた短い返答をする。やはり勘違いしていたらしい。早い段階で間違いを正せて良かった。


 数秒の沈黙を挟み、レグルスさんが口を開く。ちなみに彼はずっと立ったままだ。頭頂部によって、天井に据えられた明かりを部屋中に拡散し続けている。


「では、後は俺から説明しよう。まずセラ――このエスアールが今回の護衛対象だ。期限は10日。これはお前への罰だから、反論は認めん。ベルノート伯爵にも了承は得ているからな」


 セラさんは、彼の発言を聞いても、口を開くことはなかった。ただただ膝の上で拳を握りしめている。

 俺はというと、頭の中にクエッションマークが浮かんでいる。


「あの……護衛ってどういうことですか?」


 俺がそう質問すると、レグルスさんはジト目を向けてきた。


「お前な、ちょっとは自分の立場を考えてくれ。ディーノ様も『まさか初日からダンジョンに潜るとは思わなかった』って大慌てだったぞ。監視だけはすでに手配してたみたいだがな」


 ディーノ様というと――宰相か。

 もしかすると、後々俺に護衛を付けるつもりだったのか? というか監視って何? 俺、誰かにストーキングされてたわけ? まったく気付かなかったわ。


「護衛とか別に必要ないんですが」


「これは陛下が決定したことだ。俺にはどうにもできん」


「じゃあ陛下に言っておいてくださいよ。監視とかされても居心地悪いですし」


「あまり我儘を言うな」


「当然の権利でしょう」


 せっかく異世界ライフをエンジョイしようとしているのに、見張られた状態だなんて気分が悪い。というか監視されて喜ぶ奴とかいないだろう。いたとしたらそいつはHENTAIだ。


「エスアールは下級職のレベル1だろ? これは必要な措置なんだ」


「レベル1じゃありません。レベルは5になりましたから」


「1も5も大して変わりないだろうが」


 このハゲがっ! ツルツルの上に頭が固いとはっ!


「はぁ……。もういいです。どうせまた王城に行く予定ですし、自分で説得しますから」


 異世界の話を聞かせてくれって言われてたしな。それに、王女様の容態も確かめながら探索しないと、病状が急変でもしたら大変だ。1ヶ月は持つという話だったが、それも不確かだし。


「――ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 俺とレグルスさんの会話に、焦ったような声色でセラさんが割り込んできた。


「どうして陛下やディーノ様の話が出てくるんだ!? しかもそんな気軽に王城に行くとか……エスアールは平民じゃなかったのか!?」


 なるほど。この人は、俺のことを何も知らない状態なんだな。そりゃただの平民が国のトップに対して『説得する』なんて言っていたら不思議だろう。


 俺がどう説明したらいいか思案していると、レグルスさんはなんの躊躇いもなく言った。


「あぁ。王城の方々が勇者を呼ぼうとしたら、異世界からレベル1の無職を召喚してしまったらしい。こいつがその異世界人だ」


「だからレベル5ですって!」


 レベル1じゃねぇしっ!


「召喚された時はレベル1だろうが!」


 そういえばそうだったな! つい反射的に反論してしまった。


 セラさんのほうを見ると、彼女はポカーンとした間抜けに見える表情で俺のことを見ていた。美人が台無しだぞ。


 レグルスさんが言うには、彼女にはこの部屋に入る前に誓約書を書いてもらったらしい。この部屋で話したことは決して外部に漏らしてはいけないという内容で。


 しばらく呆然としていたセラさんは、納得したように小さく頷いた。


「それで、護衛か。確かに必要だろうな」


「いやだからいらないですって」


 その結論に持っていかないでほしい。

 いまのレベル5の状態ですら、この世界の大多数の人に勝てる自信があるぞ。少なくとも、Cランクダンジョンを突破できないようでは、俺には勝てないだろう。


「護衛の件はひとまずわかりました。俺のほうの話を聞かせてください」


 納得したように見せかけて、内心はまったく納得していない。

 俺が昨日提案した、Dランクダンジョンの踏破者と一騎打ちで勝利を収めれば、彼らの考えも変わってくれるだろうと考えて、話を進めることにした。


「あぁ。その件もしっかりとディーノ様と話した。お前の提案通りで良いらしいぞ」


 おぉ! やった! 俺に気を使っているのか、勝てやしないと安直に考えているのかはわからないけど、なんにせよラッキーだ。


「ただし、エスアールが負けた場合はきちんと護衛を付けさせてもらう――というのが条件だ。ディーノ様としても、お前の提案は渡りに船だったかもしれんな。護衛を付けるいい口実になる」


「口実でもなんでもいいですよ。早くやりましょう! 対戦相手はどなたですか?」


 俺が身を乗り出しつつレグルスさんに問うと、彼は口角を釣り上げて笑みをつくる。


「対戦相手ならお前の目の前にいるじゃないか。セラは上級職の『剣豪』で、レベルは60――エスアールご所望のDランク踏破者だ」


「セラさんが対戦相手っ!?」


 なんとっ!

 それは想像してなかった!


 ――なんてことはない。


 昨日、受付と彼女が揉めている真横で話を聞いていたから、彼女がDランクダンジョンを踏破していることは分かっていたし、今日この場に現れた時点で、一騎打ちの相手だと容易に想像できる。護衛の件はマジで予想外だったが。


 しかしレベル60の剣豪ねぇ。STRとVITに偏ったステータスだろうな。

 俺はゲームの知識を基に、パッと彼女のステータスを頭に思い浮かべた。



☆ステータス☆


名前︰セラ=ベルノート

年齢︰20代前半(予想)

職業︰剣豪

レベル︰60

STR︰C

VIT︰D

AGI︰F

DEX︰F

INT︰G

MND︰G

スキル︰気配察知 飛空剣



 気配察知は、背後や見えない場所にいる敵を感知するスキルで、飛空剣は斬撃を飛ばすスキルだ。それぞれ、剣士レベル25と、剣豪レベル40で取得可能なスキルである。

 これに加えて、剣士レベル50で取得できる『二連斬』というスキルもあるが、これは取得しているかわからない。

 下級職の最大レベルである50まで上げなくとも、レベル30で上級職に転職できてしまうからだ。


 あまり強いスキルでもないし、ゲームをしていたプレイヤーも、レベル50まで上げている奴はあまりいなかった。


「どうした? 怖気付いたのか? 別に一騎打ちを撤回してもいいんだぞ? もちろん、その場合は護衛も付けるし、下級職でEランク以上の探索は諦めてもらうがな」


 ニヤニヤしながらレグルスさんがそう言ってきた――が、俺と目が合うと、彼の表情はすぐに引きつっていく。

 それはおそらく、俺も彼と同じように笑みを浮かべていたからだろう。


 さて、STRは攻撃さえ当たらなければ関係ないが、VITが高いというのは、俺にとって少しの懸念材料となる。時間制限のある対戦だった場合、相手が降参する前に時間切れになってしまうかもしれない。


 そこで、俺は勝利をより確実にするために、一芝居打つことにした。


「怖気付くはずないじゃないですか。だって、セラさんめちゃくちゃ弱そうですし、Cランクダンジョンですらクリアしていないんでしょう? 簡単に勝ってしまいそうです」


「おいおい――っ! なんでお前はそう煽るようなことを言うんだっ! というかお前、本当に異世界人か!? Cランクダンジョンの難易度も知らないはずだろうっ!」


 そういえばそういう設定だったな。つい知っているてい(・・)で話してしまう。


「まぁ、それは秘密ということで……」


 上手く誤魔化すこともできず、とりあえず黙秘させてもらうことにした。


「――ふふ、ふふふ。ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ」


 セラさんは笑いながら憤怒の形相を浮かべていた。般若の面でも、もう少し愛嬌があるぞ。

 怖いけど、もう一押しさせてもらおう。王女様のためだ、許してくれ。


「コケに……? 事実を言っただけなんですがね。あぁ、勝負の内容ですが、こんなのはどうですか? 普通に勝負しても戦いになりそうにないですし、セラさんが一撃でも俺に攻撃を当てることができたら、そちらの勝ちでいいですよ。もし俺が負けたら、潔くFランクダンジョンで頑張ります」


 俺の発言を聞いたレグルスさんは、呆気に取られた表情で「異世界人ってのはバカなのか……?」と、うわ言のように呟いていた。地球の皆に失礼だぞ。


 そして、俺の対戦相手であるセラさんはというと、


「お前が良いと言うならその内容で勝負しようじゃないか。安心しろ、一撃で殺してやる」


 今にもテーブル越しに斬りかかってきそうな殺気を放っていた。

 好戦的な相手程、俺の独壇場になりやすい。思惑通りの反応をしてくれて一安心だ。


 


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が馬鹿すぎる。
2022/09/05 00:18 退会済み
管理
[気になる点] せらも王様にどやされるの忘れてるじゃ無いかな。
[一言] 対戦相手ならお前の目の前にはいるじゃないか。 →対戦相手ならお前の目の前に居るじゃないか。
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