Aー153 未だ最強は譲らず
さて、家族でお食事である。残念ながら家族全員というにはノアがいないが、あいつはあいつでたぶんクレセントたちと食べているだろう。
このSSランクダンジョンを中心とした町、アールには、飲食店が三つある。屋台なんかも数えたらもっとあるんだろうけど、食事処って意味合いでは三つだ。
まぁ、利用者が少ないからこんなもんだろう。二つは大衆食堂のようなお店で、もう一つはスイーツの美味しい喫茶店。俺としてはどの店も潰れて欲しくないから、定期的に、かつ、全ての店をまんべんなく通うようにしている。
貴族が使うようなお高く格式のあるお店は存在していない。
「かたぐるまー! そいっ!」
ぞろぞろとお店に向かって歩いていると、背後からフェノンと俺の子――妹のアルノが俺の肩に文字通り飛び乗ってきた。六歳とは思えない身のこなしだぜ。
子供たちの中では最年少だが、姉のシャノンがしっかりものだからか、反動のようにお転婆に育っている。セラとの子であるエリエラとライラもおてんば力ではいい勝負だが、アルノはそれ以上だ。
「こらアルノ。おとうさんがこけたらどうするの」
「おとうさんこれぐらいじゃこけないよ? ねー?」
シャノンに注意を受けたアルノだが、特に気にした様子もなく俺の頭をぺちぺちと叩いてくる。はいはい、俺の頭は太鼓じゃないぞ。
「俺はこけないけど、お父さん以外にするんじゃないぞ。受け止めるのにもコツがあるからな」
そう言うと、アルノは「はーい」とわかっているのかわかっていないのか微妙な返事をする。シャノンは「甘いなー」と呆れたように言っていた。
ちなみに俺の両手はそれぞれエリエラとライラが握っているから、本当に体のバランスだけでアルノを乗せているような状態なんですよ。アルノ自身の身体能力の高さもあるだろうが、俺もなかなか頑張っていると言っておこう。
「お前たちが本格的にダンジョンに潜りだしたら、目立ちそうだなぁ」
運動神経ばっちりすぎるぞ、この子たち。贔屓目じゃなく、そう思う。
「しかし十二歳以下の子供のステータスの上限は決まっているぞ?」
「そりゃそうだけど、戦闘の経験値は段違いだろ」
探索者となって、ダンジョンに潜ることができるのは十二歳から。
だが、規則が少し変更され、高ランクの探索者と一緒のレベル上げ目的であれば、六歳から入場が可能になっている。ただし、二次職以上のレベル上げは不可。なので、最大でも一次職全てのステータスボーナスしか取れないって感じだ。
これは、まだ思考能力の高くない子供が、必要以上の力を得てしまわないための措置ということになっている。
同行者に関してはFランクダンジョンならBランク探索者、EランクダンジョンならAランク探索者、Sランク探索者ならDランクダンジョンまで子供を連れていけることになっている。
そんなわけで、俺の子供たちはすでにDランクダンジョンでガンガンレベリングして、全ての一次職を上限まで上げ切っている状態だ。
プレイヤーボーナス……もとい、ステータスボーナスや職業、スキルに関してはもうどの国でも当たり前に丸裸にされているから、俺のように行動している探索者も多い。
「僕は自分の身を守れるぐらいになれたら十分かな……」
シリーと手を繋ぎ、トテトテと歩いていたシルベルトが言う。この子だけ、名前が少々長めだから、みんなは略して『ベル』と呼んでいる。
妻たちを含めヤンチャな女の子ばかりに囲まれて育ったからか、男子のベルはやや大人しめに育っている。俺と同じ引きこもりになってしまいそうな気配を感じなくもないが、戦闘訓練に対する意欲はバッチリ。この辺りも、俺に似ているような気がしなくもない。
「えー、でも将来この五人でパーティ組む予定なんだから、ベルお兄ちゃんにも頑張ってもらいたいんだけど」
と、アルノ。
「それは大丈夫だよ、僕が前で戦うから。アルノたちは僕が取り逃した分をあげる」
「そっちのほうがもっとダメ―! 私が前で戦うもん!」
「はいはい、ケンカしちゃダメだぞ。もうつくから、お店では騒がないようにな」
戦闘狂の血を受け継いでいそうなやり取りを微笑ましく見守りながら、食事処へ。
店の扉を開けるなり、店員の女性が「エスアールさんたちだぁ!」と楽しそうに声を上げる。俺だけでなく、妻や子供たちも常連だから、すっかり顔なじみだ。
もはや店員だけでなく、客もだいたい顔なじみなんですけどね。
☆☆ ☆ ☆ ☆
「おとうさんが強いのは知ってるけど、どれぐらい強いの?」
食事を食べている最中、シンたちが教師をしている学校の話をしていると、アルノがそんな疑問を口にした。
「なに言ってるのアルノ。おとうさんは世界で一番よ」
「うん、シン先生たちもそう言ってたね~」
「おかあさんからもそう聞いた」
「というか、パパ本人がそう言ってたような?」
それぞれ、シャノン、エリエラ、ライラ、ベルの言葉である。
「そうだな~。お父さんが一番強いぞ。ダンジョンに行く回数は現役の人たちより少ないけど、まだ負けるつもりはないなぁ」
「ふふっ、子供たちはエスアールが本気で戦うところをまだ見たことがないからな。久しぶりに武闘大会にでも出たらどうだ?」
「いや~、せっかく知名度が落ちてきたんだし、ああいうのは若い子たちがイベントとして楽しむもんじゃないか?」
探索者全体のステータスが上がったことや、ケガ人が出た時のためのエリクサーが潤沢に供給されている関係で、武闘大会もかなりの賑わいになっている。賭け事も盛んだし、大きな大会では他国から観戦に来る人もいるし、闘技場では毎週何かしらの小さな大会が行われている状況だ。
年齢別の大会や職業別の大会、人数制限があるものや、当然なんでもありの大会もある。
「お友達が三下のファンらしいんだけどね、その子は三下が王国でいま一番強いって言ってたよ」
だからエリエラよ、シュウくんのこと三下って呼ばないであげて。
「でも『うちのおとうさんのほうが強い』って言ったら、『聞いたことない』って言われちゃった」
「まぁ、シュウくんはこの前の三十歳以下のソロの部で優勝してたし、大会にも十五歳の頃から出てるみたいだもんなぁ」
いまや知名度は俺よりも高いんじゃないだろうか? 特に、若者たちの間では。
さすがに迅雷の軌跡たちには負けるだろうけども。
「おとうさんと三下が戦ったら、おとうさん勝てるんだよね?」
なぜか、やや不安そうな表情でライラが問う。おとうさんが最強じゃなきゃ嫌々期って感じなのかな? いずれは年齢の関係で抜かされる時が来るんだろうけど、俺、まだ三十二歳だからな。
「まぁなぁ。たぶん、シュウくんじゃまだ俺に一撃当てられないんじゃないかなぁ」
回避はいまもかわらず、俺の独擅場ですからね。




