Aー151 長い時を経て
いつかは、世代交代の時期がくる。
これがテンペストのようなゲームだったら、いつまでも現役で――反射神経が鈍くなるまでは肉体のことなんて考えずに無茶できるのだけど、そうも言っていられないだろう。
体にガタがくるはずだ。とはいえ、欠損すら瞬時に治癒してしまえるエリクサーがあるこの世界では、怪我による引退なんてものはあり得ないし、それはまだ先の話だろう。
なにしろ、俺はこの世界にやってきた時、肉体年齢は十八歳だった。四十歳五十歳まで、俺はきっとダンジョンに潜り続けているのだろう。
とりあえず、この世界にやってきて十年以上が経ったいまも。
三十二歳になった俺は、相変わらず黒騎士に挑み続けていた。
いまだに勝てない、高い高い壁に、ソロで挑み続けていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
セラとの子供は、双子の女の子でエリエラとライラ。今年九歳になった。
フェノンの子供は九歳の長女――シャノンと、六歳の次女アルノ。
そしてセラたちが出産したあとに結婚したシリーとの子供は、今年七歳になるシルベルト――男の子だ。
地球にいた頃は自室で会社も辞めてしまいグダグダとダラダラと、このまま一人で死んでいくのだろうと思っていたけれど、いつの間にか四人の妻と五人の子供と暮らしている。
あ、そうそう。元創造神であるクソガキことノアは、通常の人間と同じように体が成長し、今ではきちんと大人の女性になっている。相変わらず、クソガキムーブや妹ムーブをしてくるけども。妹じゃなくて妻になったということをきちんと自覚してほしいものである。
「おとーさん。今日はずっとおやすみなの?」
「なにかしてあそぼー」
レーナスの傍にある家。
昼寝から目覚め、ソファの上で横になってゴロゴロしていると、エリエラとライラの二人が俺の顔をのぞきこみながら声をかけてきた。
自分で言うのもなんだが、二人とも俺と目が似ていると思う。その代わり、赤い髪だったり、顔の形だったりはセラに似ている二人だ。
一卵性双生児のようで、他の人が見たらどちらがどちらかわからなくなったりするようだけど、一緒に過ごしている俺からすれば、一目でわかるぐらい違うんだけどな。
まぁ、どちらもとても可愛い。エリエラはポニーテールにしており、ライラはそれよりも低い位置で髪を結んでいる、たまにイタズラのようにお互いの髪型を入れ替えたりしている。お父さんにはバレバレだけどね。
「んー、お母さんはどこ行ったんだ? 買い物でも行った?」
体を起こしながら、二人に問いかける。
二階の部屋で一緒に本を読んでいたはずだけど――俺が昼寝をしている隙に出かけてしまったのだろうか?
「おかーさんはみんなと一緒にシン先生のところに行ったよ。なんかライカ先生たちにアドバイスしに行くって言ってた」
みんなってことは――本当にみんなで行ったんだな……。フェノン一家とシリー一家を引き連れて。エリエラたちは、俺一人を家に残して行くのが忍びないと思ったのだろうか? 気にしなくてもいいのに。
そりゃ昔みたいに家が離れていたら一声かけて欲しいところだけど、シンたちが俺たちの家の傍に家を建てたから、クレセントたちと同じくご近所さんだからな。
「エリエラもライラも行ってきて良かったんだぞ? 二人とも来年から学校なんだから、シン先生たちから色々話を聞いておきたいんじゃないか?」
俺が問いかけると、エリエラは「えー、真面目なお話は面倒くさいもん」と唇を尖らせ、ライラは「『力こそ最強』っておかーさんも言ってたよ」とドヤ顔で言う。力こそ最強ってなんだよ。ステータスとか筋力とかって言わないとややこしいだろ。
「それにしても『シン先生』か――未だにムズムズするな。あいつが教師とは」
「えー、シン先生は先生だよ~?」
「すごく人気の先生って聞いたよ?」
そうらしい。俺も他の探索者たちから噂で聞いているし、ライカやスズからも『シンの人気が凄い』という話をされたことがある。逆に、シンからは『ライカとスズの授業は欠席者が出たことがない』みたいな話を聞いたりしている。
ライカやスズはまだわかるんだよな。二人とも、昔から子供の相手とか得意そうだったし。順番で言うと、スズ、ライカ、シンの順に納得できる。
だけどあの『俺が国一番のパーティリーダーだぜ!』って雰囲気を振りまいていたシンがなぁ……なんだかみんな俺を置いて成長していってしまっているようで、寂しさを感じてしまうな。
まぁそういう俺も、周囲から見たら変わってしまっているのかもしれない。変わることが悪いことだとは思わないけど、ちょっと寂しさもあるよなぁ。
セラもフェノンもシリーも、子供ができてから探索者を引退した。
迅雷の軌跡たちはまだ現役だが、以前のように貪欲に力を欲しようとはしておらず、後進の育成に励んでいる状況である。
俺も子供たちにせがまれて戦い方を指導していたりするから、似ていると言えば似ているんだけども。違うことと言えば、俺は未だにSSランクダンジョンの黒騎士に執着し、挑戦を続けているということぐらいか。
俺は大会のような表舞台からはすっかり姿を消してはいるから、表層的な知名度は徐々に低くなっているようだけど、相変わらず上位探索者の中では『エスアール』の知名度は抜群らしい。照れますね。
「まぁお母さんは致命的に指導者に向いていないが、シンたちならその辺りも上手くやってるんだろうな」
「おかーさんって、説明するのへたくそだよね~」
「でも、おとーさんもへたくそだよ~?」
「おかーさんたち『ブオンしてドン!』とか言うんだもん」
「『シュッとしてトントンズバッ』とかね」
「「わたしたちはもう慣れたけど」」
本当にごめんよ……うまく言語化してあげられたらいいんだけど、俺もセラもなんだか興が乗ってくると擬音語ばかりになってしまうんだよな。
俺は教師にならなくてよかった。生徒たちが可哀想すぎる。




