Aー150 黒騎士と慣れ
「ここの反撃は悪手で――三手先で横に跳ぶから、今のうちにスキルを準備しておいて――読まれる前提で」
ぶつぶつぶつと自分に言い聞かせるような独り言を呟きながら、現時点での世界最強――黒騎士と剣を交える。
長らく黒騎士と戦ってきたが、いい加減かなりこいつとの戦いにも慣れてきた。二日に一度のペースで長時間の戦いをしており、なおかつ相手に成長はないのだから、嫌でも見慣れる。
攻撃パターン、動作の癖、状況判断、反射神経、臆病か、好戦的か。
相手が人間だったなら、こういった情報は戦うたびに更新していかなければいけない情報だが、魔物相手ならば話は違う。こいつらは、変わらない。
慣れてきてはいるが、飽きはしていないところが、なんとも俺らしい。
「よしよし、第一形態は安定してるな」
ノーダメージである。もはやここに至るまでは、よほどのヘマをしたり気を抜かない限り、負けることはない。だがノーダメージとはいえ、少しでもダメージを食らえばそこから流れが一気に変わってきてしまうので、無傷なのはある意味必然的ともいえる。
クレセント、翡翠、ノアたちのようにパーティで挑んでいるのなら、リカバリーもその分しやすいのだろうけど……まぁこれはお互い様か。あいつらも三人から二人になったりしたら、一気に敗北に向かうだろうし。
黒騎士が第二形態に変わり、開幕の攻撃を躱す。初見殺しは初見殺しなだけで、慣れてしまえば対応はたやすい。
以前一度試してみたのだけど、結界魔法も無意味だった。刀の一撃をティッシュで止めようとするぐらい、無意味な防御だった。だからこの攻撃は、回避一択である。
二体に増えた黒騎士を相手に、一層心を引き締める。
どうやらこの二体――片方を集中的に潰そうとする作戦は通用しないらしいのだ。おそらく、ダメージを共有している代わりに、体力が多い。少なくとも第一形態よりは。
「やれやれ。これで第三形態があったりしたら、いよいよどうすんだって話だけどな。ベノムみたいに再生持ちじゃないだけ、まだマシな気もするが」
黒騎士二体の攻撃を躱し、弾いて、反撃してから、そう口にする。
おっと……イデア様、今の俺の発言は聞き逃しておいてください。これがフラグになって、第三形態が再生持ちだったりしたら、さすがにハードすぎると思うので。
☆☆ ☆ ☆ ☆
「SRさんはさすがっスね~。私たちも第二形態に結構いけるようになったっスけど、それでも五分五分っスよ。まぁ私たちの場合、第一形態の行動パターンより第二形態の行動パターンのほうが相性がいいみたいっスから、そこからはわりと耐えられるんっスけどねぇ」
「それでもSRさんのほうが先に進んでるけどね。やっぱりSRさんはすごいですよ。テンペストじゃ殿堂入り扱いされてましたから。SRさんがいなくなったあとも、『最強は誰か?』って話になったときに、必ず名前が挙がっていましたからね」
「あはは……それは嬉しいやら恥ずかしいやら、色々感情が湧いてくるなぁ」
黒騎士に敗北後、俺の後に黒騎士に挑んで散ったクレセントたちと共に、黒騎士戦の振り返りをしているところだった。いちおうこの場にはクレセントと翡翠以外にノアもいるのだけど、彼女はソファで横になって寝ている。疲れたらしい。
ちなみにセラ、フェノン、シリーの三人は迅雷の女性陣――ライカ、スズの二人と女子会に行っている。最近あのグループで一緒にいることが多いんだよなぁ。多分だけど、結婚生活とか、恋の話とか、子供の話とか、そういう話題なんだろう。
シンはシンで、探索者仲間と飲みに行っているようだ。当たり前だけど、俺たち以外とも付き合いはあるようだし。俺とは違ってな……!
「ここらで一度、また協力して戦ってみるのもいいかもしれないな。なんか俺の勘が、第三形態がありそうって言ってるんだよ」
「SRさんの勘ってあてになるんスか?」
失礼な言い方だな。いやまぁ、当然の疑問だけど。
「戦闘関連ならわりと当たる、けど、この場合は――どっちだろう?」
「戦闘とはまた違うと思いますけど、ボクはSRさんの言うことを信じますよ」
「出た、姫ちゃんのSRさん崇拝。こうやって話すようになっていい加減姫ちゃんもわかったっスよね? SRさんって、ただのダンジョンバカっスよ。戦い以外はわりとポンコツっスよ」
「一つのことにこれだけ夢中になれるってのは凄いことだよ。私にもミカにもできなかったことだし」
「俺からすれば、色んなゲームに手を出しながらも、テンペストで最上位にいたことがすごすぎると思うけどな」
聞いた感じ、クレセントと翡翠の二人は、テンペスト八割、その他のゲームが二割みたいなものだったみたいだけど、テンペストに十割を注いでいた俺からすれば、八割の傾倒で個人戦一位と三位、パーティ戦一位にいたのだから、そっちのほうが凄いと思う。
いやまぁ、十割注がれたとしても、負ける気は一切ないんですけどね?
「案外SRさん、他のゲームに手を出していたら、そっちもあっさり最強になっていたかもしれないっスね~。もちろんスキルの使い勝手とかはゲームごとに全然違ったりするっスけど、必要とされる戦闘スキルは割と似たようなもんっスから。FPSゲームと似たようなもんっスよ」
「ごめん、俺はそのFPSとやらを触ったことが一切ないんだ」
「じゃあレースゲームとか」
それならわかる。
だけど、それでもシフトレバーをガチャガチャする必要のあるゲームと、アイテムを取ってスピードアップするようなゲームとじゃ、また必要とされる技術は違うと思うんだけどね。まぁ、細かいことを言うのはよそう。
経験者であるクレセントがそう言っているんだから、そうなのだと理解しよう。
「話は戻りますけど、ボクは共同戦線、構いませんよ。記念すべき一回目の討伐はこのままだとSRさんに奪われそうではありますし、SRさんの勘が第三形態の存在を感知しているのなら、一度見ておくのも悪くないですから」
「えー、姫ちゃん、前は『頑張ってSRさんより先に倒そう』なんて言ってたじゃないっスか~」
「さすがに今日の戦いを見たらね――たぶんもう、SRさん第一形態で一撃浴びることはないよ。第二形態もかなり慣れてきてるみたいだし、あとはどこを効率化していくかみたいな感じだったし」
「うっ――まぁ、それは私も思ったっスけど……」
「それにほら、これでSRさんの勘が外れて、もしも倒せちゃったら、世界で初めて黒騎士を倒したメンバーとして、SRさんの横に名前が並べられるんだよ!」
「なんか姫ちゃん、世界で初めて倒すことより、SRさんの横に名前を並べたい欲のほうが強くないっスか……?」
うん、クレセントと同じく、それは聞いていて俺も思った。
そんなに俺に価値を感じなくとも、並ぶどころか、パーティ戦だとキミたちがトップだったろうに。俺の上に王冠付きで名前を並べていただろうに。
まぁ、こんな風に慕われるのは悪い気はしないし、普通に嬉しいんですけどね。
照れながらも言葉を訂正しない翡翠を見ながら、そんなことを思った。




