Aー149 扱いが雑っ!
「最近、僕の扱いが雑すぎると思うんだ」
ある日、我が家のマスコットキャラクターがそんなことを言い出した。
黒のハーフパンツに、ひらがなで『だんじょん!』と書かれた白のTシャツを身に着けた、地球に居てもなんら違和感のない部屋着スタイル。このまま外に出かけることもあるぐらい、服装には無頓着な少女である。
「別に雑に扱ってるってこともないだろ。暇なら外で遊んで来たらいいんじゃないか?」
心優しいお兄さん風にそう提案してみたら、「そういうところだよ!」と怒られてしまった。もう夜も遅いんだから怒鳴るなよ。
「僕はこれでも元神様なんだよ? この世界創ったの、僕なんだけど? そりゃ今はお兄ちゃんたちと同じ人間として生きているけどさ、子供作れるような女性の体だけどさ、それでも元は凄いんだからね? そこのところきちんと理解してる? もしかしてその頭にはダンジョンのことしか入ってないんじゃない?」
「子供作れる云々は関係ないだろ」
現在妊娠中のセラとフェノンの影響を受けての発言だろうけど。
ノア――創造神ノア。俺をこの世界に呼び寄せた張本人であり、俺が愛するVRMMOテンペストの生みの親。現在は地球の創造神であるイデア様に立場を譲ると言うか、奪われるというか、良いように利用されたというか――ともかく、地上に堕ちた。人に堕ちた。
神様であるころからクソガキムーブであったけれど、最近は妹キャラが板について来たというか、本当に心の底から俺のことを兄と思っているんじゃないかと思わせるような言動が目につく。
しかしながら、ことあるごとに俺の嫁の座を狙うという、よくわからないムーブだ。
せめてもうちょっと体が成長してからにしてくれないか。気持ちは、ある程度わかっているからさ。
「ちょっと前まではセラたちにつきっきりだったし、今はクレセントと翡翠につきっきりだし、僕はこれでもお兄ちゃんに喜んでもらおうと頑張ってるつもりなんだけど?」
「え? そうなの?」
「そうなんだよ! だってそもそも、僕が魔物倒すの好きだと思うかい? 神様が?」
「元だろ――でもそう言われたらそうだなぁ。じゃあダンジョン探索辞めるの?」
「だからお兄ちゃんに喜んでもらうためにやってるって言ってるじゃないか! まぁ別に、お兄ちゃんだけじゃなくて、最近はクレセントと翡翠とも仲良くなってるし、彼女たちのためって部分もあるけどさ」
へぇ、そうなんだ。
――って、さすがにそれは冷たすぎるか。なんとなく、以前のノアのことが――この世界の大半が失われた時のことが頭の中にあるから、ノアは雑に扱って当然という意識があるけれど、さすがに可哀想になってきてしまった。見た目が幼女であるということも、罪悪感に一助を与えている。
「悪い悪い。でもこうやってたまに話したりしてるじゃん」
パーティハウスの、俺の自室である。
俺はベッドに腰掛けて、ノアは俺を見上げるように絨毯の上で胡坐をかいていた。
「最近は全然二人で話してない。お兄ちゃんはセラやフェノン、シリーとは二人きりでデートに行ったりしてるくせに、僕とは全然そんな空気じゃないじゃないか!」
「いやほら、レグルスさんのところに報告に行くときとか、帰りに串焼き買ってやったりしてるだろ。それにケーキを買ってやったこともある」
「なんかこう――恋人にプレゼントって感じじゃないじゃないか! 子供に与えてるって感じがするんだよ!」
だってそうじゃん? 俺はノアと恋人関係ってわけでもないし。まぁこれまでに恋人ムーブを取ってきたこともあるけど、正式に契約しているわけでもない。
「わかったわかった。前向きに検討して善処しよう。セラ達と同じように出かけてもいいし、こうして話す時間を取るでもいい。言っておくけど、別に俺はノアのことが嫌いとか、避けてるってわけじゃないからな? セラたちを鍛えてくれたことも、クレセントたちに協力してくれていることも感謝しているし」
「わかってるならいいんだけど」
「でもほら、俺が雑に扱えるのってノアぐらいだろ? やっぱりセラたちには優しく接してあげないとって思うからさ。なんて言うんだろうな……シンに対しても似たような感覚ではあるんだけど、日本でいう幼馴染的な感じって言ったらわかる?」
腐れ縁っていうか、家の中でパンツ一枚でうろうろしても気にならないっていうか、別に恥ずかしいところを見られたとしても、ノアは変わらないだろうって思える感じ。
そう考えると、ノアはすでにセラたちよりも家族っぽいのかも。
一緒に過ごした年月を考えると、あのベノム戦前のレベル上げ期間もあるから、異世界組の中じゃノアが一番長いもんなぁ。
「そういう感じでさ、ノアは唯一無二って感じなんだよな。セラ達には『かっこいいところを見て欲しい』とか『カッコ悪いところを見られたくない』って思うけど、ノアには別にそういうことを思わない」
俺がそう言うと、ノアは言葉を咀嚼するように「どう見られても構わない……ねぇ」と口にする。変に勘違いされないよう、「いい意味でだぞ」と付け加えておいた。
「ふーん、まぁ、今日のところはそれで納得しておいてあげようかな。妹キャラも悪くないし、別に結婚だけが全てじゃない――内縁の妻ってパターンもあるよね」
「その子供の見た目で『内縁の妻』とか言うなよ」
内縁はともかく、内面はこの世界の誰よりも年上ではあるってことは、重々承知なんだけども。やっぱり人って見た目というか第一印象の影響って大きいよなぁ。
俺も今じゃゲームの容姿だけど、元の世界の容姿を引っ張って来ていたらどうなっていたんだろう。それでも今と同じようなことになっていたんだろうか?
……ふむ。
誤差はありそうだけど、フェノンもセラもシリーも、俺のことを見た目から好きになったって線はなさそうだよな。フェノンは命を救ったし、セラは一緒に冒険をして、シリーは俺と同じように、平民的立場として一緒に過ごしてくれて――。
「ちなみに僕もフェノンと似たような感じかな?」
「だから勝手に心を読むんじゃねぇ」
俺がノアに対して雑に扱ってしまうのは、他でもないノアの自業自得のような気もするんだが?




