Aー147 シンとお風呂で
黒騎士との戦いは、気長にのんびりと行っている。
地球にいた頃、覇王ベノムをソロで倒したときのように。年単位での攻略を視野に入れているから焦っていないし、そもそも日々前進できている実感があるしな。
クレセントと翡翠の二人は、黒騎士を攻略することをとうとう諦めた。
だけど、全てを投げ出して諦めたわけじゃない。あくまで、二人で倒すことを諦めたというだけである。現在はノアを加えた三人で攻略しようとしている状況だ。
まぁもともと彼女たちは五人のメンバーで戦っていたぐらいだから、二人だと本領発揮というわけじゃないだろう。一人で戦うのも、二人で戦うのも、三人で戦うのも――それぞれ勝手が違うだろうし。
ここにセラとフェノンが加われば、彼女たちもいずれ黒騎士の第二形態に届くのだろうけど、現在あの二人は妊娠中だからな。こればっかりは仕方がない。
というか、子供を産んだ後は普通に探索業を引退することだって十分ある。むしろ、そちらの可能性のほうが高いぐらいだ。子供を残して死ぬわけにもいかないし、後進育成に力を入れていくようになるのかも。
というような話をシンにしたところ、
「お前さんも色々考えてんだな……ダンジョンのことしか頭にないと思ってたぞ」
そんな風に返された。
リンデール王都、パーティハウスの風呂にて。
本日、セラとフェノン、シリーの三人は、迅雷の軌跡の女性陣――スズとライカの二人と一緒に女子会を行っているらしい。
男性陣には話せないあれやこれやを話しているのかと思うと、かなり内容が気になるところではあるが、無理に聞き出したら間違いなく嫌がられるだろうし、そんな些細なことが気になる男だとも思われたくないからなぁ。何も気になっていない振りを続行するつもりである。
そしてノアは『SRより黒騎士を早く攻略』を掲げているクレセントと翡翠コンビのところに行っているし、母さんと父さんの二人は自ら稼いだお金で、とうとう王都に一軒家を購入し、そちらに移り住んでいる。
あの二人は初心者とはいえ、俺がパワーレベリングしていたし、センスもあったし(俺の戦いのセンスはもしや両親譲りなのでは……?)、支出はこの家に住んでいたからほぼなかったからな。
まぁそれはいいとして、シンとの会話だ。
「シンは俺をなんだと思ってるんだよ……」
「ダンジョン狂いの戦闘狂」
二回も『狂』の文字を入れるんじゃない。
「ダンジョンと戦闘が好きなのは認めるけど、ほら、最近だとセラたちと一緒に過ごす時間も多かったんだぞ?」
「それでも子供ができたらもう少し浮かれると思うんだけどなぁ」
「……うん、それはな。もちろんめちゃくちゃ喜んでるけどさ、まだあまり実感が湧かないというか……まだお腹の膨らみ具合もよく見ないとわからないぐらいだし」
「父親になるんだから、その辺の意識はしっかり持っておけよ」
「わかってるよ」
重々承知――ではあるんだけど、俺はたぶんまだあまり意識ができていないんだろうなぁ。セラもフェノンも平気そうにしているし、つらそうな場面とかを目撃していれば、また意識も変わってくるんだろうけど……おそらくその辺り、俺には見せないようにしているのだろう。
ダンジョンに行く回数、減らすべきなんだろうか。
「そういえばそっちは? 最近は新ダンジョンにも来てるけど、職業のレベルはどれぐらいになってる?」
シンたち迅雷の軌跡は、Sランクダンジョンを踏破後――俺やクレセントたちと同様に隔日で新ダンジョンに潜っている。
ただ、俺たちと違って、目的はレベル上げだ。この新しいダンジョンは通常のダンジョンと違い、魔物の種類は多岐にわたり、ドロップ品こそないが、死なないし、経験値は美味い。シンたちぐらいの実力があるのならば、このレベリング方法は間違ってないだろう。
「今のところ、三次職の四つをレベル30まで上げてる」
「二次職と派生二次職は?」
「そっちは本職以外レベル60までだな。レベ80のスキルは無視して、今はボーナスで地力を上げることに集中してる。スズとライカも一緒だ」
「おー、しっかりしてるじゃん。俺もそっちのほうがいいと思うぞ」
「いや、お前さんがそうしろって言ったんだけど」
シンが呆れたようなジト目で見てくる。あれ? そうだったっけ?
――コホン。たぶんその話をしたのは半年以上前だろうし、忘れていても仕方がないよね。
「ま、まぁ長い目で見たらそのやり方が一番だ。現に、強くなってることを実感しやすいだろう? スキルで遊ぶのはその後でもいいし」
「いや遊ぶって――はぁ、やれやれ。本当にダンジョンのこと以外はポンコツだったりするよな、お前さん。こんな抜けてる奴が世界で一番強いとか――」
「セラを見てみろ。セラでもあんなに戦闘センスがあるんだ」
「遠まわしにセラのことをポンコツって言ってるよな?」
それは気のせいということにしておいてください。俺もうっかり口が滑りました。
「まだまだ時間はかかりそうだけど……全ての職業のレベルが上限に辿り着くのも時間の問題だな。そうなれば、ダンジョンで死ぬことを心配することもなくなりそうだ」
シンは浴槽の縁に頭を乗せて、天井を見上げながら呟く。
全てカンストすれば一撃で致命傷ってことはそうそうないだろうけど、当たり所が悪かったら可能性はゼロじゃないぞ? 娯楽感覚で潜っているけれど、命を懸けていることには違いないのだし。
まぁ最近の俺は新ダンジョンに潜りっぱなしだから、命の危険は皆無なんですけどね。
「油断禁物だぞ。新ダンジョンの『死んでもいい』って癖を、他のダンジョンでうっかり持ち出さないようにな。頭や心臓撃ち抜かれたら、死ぬことは死ぬんだから」
「ま、俺たちの場合はソロのお前さんと違って、三人が同時に気を抜く――ってことにならないと危険はないからな」
「それもそうか」
死の危険――かぁ。自分で言っておきながら、大事なことだよな。
いやでも、今後子供が生まれるとしても、新ダンジョンだけに行けば死の危険はないし、戦いの勘は鈍らないし、俺は楽しいし、金が捨てるほどある俺にとっては良いこと尽くめなのでは?
もしかしてイデア様、その辺りも考慮してくれていたり……しそうだなぁ。
あの御方、なんでもお見通しって感じだし。




