Aー145 パーティでのんびり
クレセントたちと共に黒騎士と戦ってから、さらに一か月が経過した。
結局一緒に戦ったのはあの一度きりで、それからはまた各々で黒騎士に挑み、敗北する毎日を送っている。合計二か月に及ぶ挑戦になるが、まだ俺もクレセントたちも、あの分身形態までたどり着くことはできていない。
うーむ。黒騎士はかなり強い――だが、無理ゲーとまでは思わない。
戦うたびに最低一つは学びがあるし、徐々に黒騎士のスピード感や戦い方にも慣れてきている。長期戦を予定していたし、別に世界の命運がかかったタイムリミットがあるわけでもないので、のんびりやらせてもらっている。
焦りがないというのもそうだし、黒騎士戦で敗北すると二十四時間再入場不可のデスペナルティがつくから、その時間を利用して両親にパワーレベリングを施してみたり、セラたちとデートをしてみたり――と、充実した日々を送らせてもらっている。
「私たちも強くなったものだな……」
「セラは元々頑張っていたけどね。私なんて病気で死にそうだったのよ? それが今や世界最強パーティの一員なんて――本当に生きていれば何が起こるかわからないわ」
「私もまさか冒険者になるなんて思ってませんでしたよ」
セラ、フェノン、シリーが言う。
場所はパーティハウスのリビングで、そこに彼女たちの他、俺とノアもいるという状態である。
三人掛けのソファの右端にセラ、真ん中に俺、左はノアがいる。対面のソファには、フェノンとシリーが並んで座っていた。ちなみにノアは俺にもたれかかって爆睡中。連日セラたちのレベリングに付き合っているから疲れているかもしれない。
生意気な時もあるけど、ちゃんとやることやってくれてるんだよなぁ。やはり憎めないやつである。
「セラたちは『もういいや』ってなったりしないか? 十分強くなっているわけだし」
ふと、気になったので聞いてみる。
彼女たちは現状、三人だけでもSランクダンジョンをクリアできるほどの実力を持っている。例の新ダンジョン以外、彼女たちに攻略ができないダンジョンはない状態なのだ。
お金は腐るほどあるし、名声も十分すぎるほど得た。
あとはもう、個人の趣味の範疇と言ってもいいかもしれない。
「私はSRに追いつくまで頑張りたいぞ。難しい気もするが、できることがないわけではないからな」
「私はエスアールさんと一緒のパーティにいたいですし、探索者になることは憧れでしたから、不満はありませんよ。王女らしくないと言われたら、それはそうなんでしょうけど」
「わ、私はフェノン様の専属ということもありますが……皆さんと協力して何かをするというのが楽しいので。そ、それと、私も、追いつきたいという気持ちがあります」
聞いておきながら『もう探索者なんてしたくなーい』なんて言われたら反応に困るところだったぜ……。そう言われた彼女たちの意思を尊重するしかないんですけどね。
幸い、現在俺が潜っているのは死亡することのないダンジョンだから、このダンジョンがあるかぎり『死ぬのが怖いから、もう探索者を止めて欲しい』と彼女たちが言うこともないだろう。
「そっか。まぁ俺たちもいずれは引退する日がくるんだろうけど、それは最低でも例の黒騎士を完封するまで待っていてほしい」
「いえいえ。エスアールさんは今まで通り、好きなように探索して問題ないですよ。ただ、通常のダンジョンに行く場合は、誰かお供を付けてくださいね? 今更エスアールさんがSランクダンジョン程度で負けるとは思いませんけど、そちらのほうが安心なので」
「了解。そうするよ」
「――あ、あとはアレだな、フェノン。私たちは――その、子供ができたら、その時は少し休止せねばなるまいな」
セラが顔を真っ赤にしながらそんなことを言っている。今俺たちしかこの場にいないからいいけどさ……フェノンもシリーも顔が赤くなってしまっているじゃないか。俺も顔が熱い。
「――こ、コホン。うん。それはその通りだ。その時は俺もダンジョン探索を休むよ。貯金だけで数百年は家族を養えそうなぐらいだし、お金の心配はない」
「そ、そうですね。エスアールさんだけのお金でもすごいですし、そもそもセラさんは伯爵家の令嬢ですし、フェノン様は第一王女ですし」
「べ、別に家を頼らなくても、私たちだけのお金でも十分よ?」
みんなしどろもどろになってしまった。原因となる発言をしたセラはというと、自分で言っておきながら一番恥ずかしがっているらしく、両手で顔を覆っていた。なにしてんだ。
「そ、それはそうと、ここまでレベルが上がると、エスアールさんが初めてこの国に来た時の反応がわかるような気がします!」
フェノンが真っ赤な顔を維持したまま、強引に話を逸らした。
これ幸いと、俺も話に乗っからせてもらうことにする。この甘くてむずがゆい空気はよろしくない。こういう話題でも真面目に話すときはちゃんと話すけど、今はただ単に恥ずかしい空気だ。
「だろう? 下級職だとFランクダンジョンしか潜れないし、Bランクダンジョンの踏破も、過去に記録が残っているぐらいだったからな。びっくりしたよ」
「今となっては、剣豪レベル60で威張っていた自分が恥ずかしいな……いや、それでも下級職のレベル5でその相手に勝とうと思うSRがおかしいとは思うが」
「ははっ、まぁあれはセラがクリアできているダンジョンで、強さがある程度予想できたからな。その情報が無かったら俺も躊躇していたかもしれないぞ」
「それはそうなのかもしれないが……いや、エスアールなら結局挑んでいた気がする。フェノンを救うためにな」
――と、先ほどまで墓穴を掘っていたセラが、ニヤニヤしながら言ってきた。
さっきまで恥ずかしい思いをした腹いせをしているのかもしれない。自分から爆発しておきながら……まぁこのちょっとポンコツっぽい部分もまた、彼女の魅力なんだけど。
ふむ……これは『あばたもえくぼ』ってやつなのかなぁ。




