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Aー134 秘密だよ




 よし、見なかったことにしよう!

 こういうことを勝手にしたらレグルスさんにグチグチ言われることを俺は知っているのだ。今日はボスを倒してコインを一枚ゲットしたという成果があっただけ、十分な成果である。


「いやでも……ここが本当にパルムールに繋がってるって決まったわけじゃないしな」


 方向的にパルムール王国がありそうな感じ、そして俺の願望が多分に入り混じった希望的観測であることには違いない。ビビった上に、実際は違いましたーなんてことになったら『あの時の俺の葛藤はなんだったんだ!』と後悔するだろう。


「ち、チラ見ぐらいなら……」


 吸い寄せられるように、俺は一歩、また一歩と石畳のステージへと近付いていく。


 そしてやはりこの入り口付近に魔物は集まらないようになっているようで、近くに脅威は見当たらない。今の俺の視線は転移魔法陣が発動するであろう建築物にしか向いていないから、魔物が現れていたら襲われていたのかもしれない。


 石畳のステージに上がるため、二段ほどの段差を上る。そろりそろりと中央に近づいていくと、地面が淡く光り始めた。


「――っとと」


 慌てて足を引っ込めると、ゆっくりと転移魔法陣は光を収めていく。

 このあたりはきっと、リンデールの入り口と一緒だな。


 普通のダンジョンなら入る時はライセンスカードが必要になり、出るときは緊急帰還かダンジョンのクリアをする必要がある。


 そしてこの新しいダンジョンは、そもそもSランクダンジョンクリア者しかステージに上がることができず、カードの必要はない。そして帰還時に関しては、クリアという設定がないために緊急帰還、もしくはこのステージに戻ってくることで元の世界に帰ることができる。


「そういえばこっちに入ったあと、緊急帰還を使用したらどっちに帰ってくるんだろう……? やっぱり直近で出入りしたほうが設定される感じなのかな」


 ここにくるまで二時間以上かかっているから、またここで新たに帰還先が設定されてしまうと、テクテクとリンデールの出入り口まで歩いて帰らなければいけないんだよな……。


 石畳の上で、腕組みをして考える。

 どうしよう、この転移魔法陣、使ってみたい。めっちゃ使ってみたい。

 でも諸々の事情を考えると、使うべきでないと理性が訴えかけている。


「…………まぁいっか。誰かがいたら口留めしよう」


 Sランク単独クリア者にして覇王の称号の特権発動である。権力ってこういうときのために使えばいいんですよね!


 そんな感じで自分の行動を肯定しまくりながら、足を踏み出す。転移の魔法陣が光始めて、景色がカチッと切り替わった。


 ダンジョンの出入り口となっている石畳のステージは全く一緒。何も違いはない。

 だけど、周囲に広がっている光景が全く違った。俺の視線の先にはなんだか見たことのあるような王城を含む街が見える。


 そしてこの石畳のステージの周囲には、警備の兵士の姿も見える。


「――え、エスアール様!?」


 そのうちの一人が、俺がやってきたことに気付いて声をかけてきた。

 俺は電光石火のごとく彼の元――ステージの外まで走ってきて、人差し指を自分の口元に当てる。


「お願いします! このことは内緒にしていてください! あ、あと、ここってパルムールの新ダンジョンってことで間違いないですよね?」


「そ、そうですが……内緒、ですか?」


「そうです。極秘です。俺が怒られちゃうんで」


 なんとか兵士を説得しようとしていると、俺たちのもとに二人の兵士――それから、見たことのある少女も一緒にやってきた。


「お、お久しぶりですエスアール様――で、ですがこれは……?」


 ネスカさんである。彼女はこの国で唯一――じゃないか、王子であるニーズ君も含めて二人だけ、このダンジョンへの入場資格のある人間である。戦力的には、まだまだ難しいだろうけど。


「あの、こっちのギルドマスターから連絡がいっていると思うんですけど、アレですよ、新たに発生したSSランクダンジョンの内部が、つながっているかの調査です」


「ですが、その話があったのは今朝の話ではないですか? リンデールからパルムールまで、五日ぐらいはかかりますよね?」


「はい。だからネスカさん、今日あなたを含めてここにいる兵士の人たちは、俺のことを見ていないってことにしてくれませんか?」


「……? ど、どういうことでしょう?」


「とにかくお願いしまぁすっ!! 何も聞かないでください!」


 変に追及される前に、全力で頭を下げた。

 レグルスさんに『一報入れろよ』と言われた数時間後にやらかしてしまっているのだ。このままでは絶対にグチグチ言われてしまう。


「他でもないエスアール様がそう言われるのであれば……わかりました。皆もいいな? エスアール様がこう仰っているんだ、今日エスアール様はここに来ていない。SSランクダンジョンには異変なしという報告をするように。もし騎士団から何か言われたら責任は私が取る」


 ネスカさんは俺に対するヘコヘコとした態度を瞬時に切り替え、集まってきた警備の人たちにそう伝えていた。いやいや、もし何か言われたら俺が責任取りますよ。だから、バレないようにお願いします。


「じゃ、じゃあ皆さん、俺は今日リンデールに帰ってから、ギルドマスターに『明日調査する』ということを伝えます。そして、明日の昼過ぎぐらいに何食わぬ顔でここから出てきますので、みなさん、そこでは初めてこの現象を見たような驚く演技をしてくださいね。俺も精一杯ビックリするんで」


「お任せください――では、私もその時間は調査をする振りをしながらこの場所にいることにします。ですが今日帰って明日ですか……? 片道五日かかる距離ですよ?」


「そこは聞かないでください。詳しくは明日説明するので」


「わかりました」


 気になることは色々あるんだろうけど、ネスカさんは言葉を飲み込んで了承の返事をしてくれた。

 よし、あとはリンデールに帰って、レグルスさんに調査することを伝えつつ皆を招集するとしよう。どうかバレませんように。





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