Aー124 実験の代償
幸いというかなんというか、セラ、フェノン、シリーなどのメンバーは夜中の新ダンジョンに駆けつけてはおらず、夢の中のままだった。
ノアはレグルスさんにざっと概要を話したのち、説教が始まりそうな気配になると即座に逃げていった。まぁレグルスさんも、元創造神であるノア相手には強くしかることはできないだろうし、別にいいけど。いや、俺たちが怒られることを容認したわけじゃなくてですね。
「エスアール、お前は自分の価値を正しく認識すべきだ。万が一このダンジョンでの死者がよみがえらなかったらどうするつもりだった」
「でもどうせ誰かがやらなくちゃいけない役目なんですし、あのダンジョンに入ることのできる人は限られているじゃないですか」
「そんなもの、死罪の人間を拘束し、Sランクダンジョンに連れて行ったあとにここに連れていけばいいだけだろうが」
わーお、レグルスさん顔のいかつさにピッタリな怖いこと言ってるよ。
翡翠なんかビビッて萎縮しちゃってますよ? クレセントは『その手があったか』と小声で言ってるけど。
まぁたしかに、そう言う手もあったとは思うけども。
「でもイデア様が言っていたことですよ? 俺の世界の神様を信じないというんですかレグルスさんは!」
「……そうは言っていない。信じていないわけではないが、万が一ということが――」
「万が一、イデア様が失敗するかもと?」
「……殴るぞ」
「怖いですって!」
たぶん図星なのだろう。これ以上はからかうのは止めておこう。顔が怖い。翡翠がビビっちゃってるし。クレセントは笑ってるけど。
「ともかく、そういうことは事前に相談しろ。あと、このことはお前の嫁たちにチクるからな。俺以上に怒られると思っておけよ」
「……(スッ)」
「はっはっはっ! エスアールのおかげでもはやエリクサーの価値も暴落しているからな、こんなもので買収されるわけがないだろ」
エリクサーをあげたら黙っていてくれるかなぁと思ったけどダメだった。そうですよね、もうこれの価値は昔と同等ではありませんよね。Bランクダンジョンのクリア者なんて、どんどん増えていっているようだし。
さて、明日はみんなにどんな風に謝ればいいだろうか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。深夜に作業をしていたこともあって遅めに起床した俺は、おはようの挨拶よりも先に怒りに震える三人に囲まれることになった。ベッドの上で正座をして、頭を下げている状態である。
おかしいなぁ。このパーティハウスには、両親と警備の人ぐらいしかいなかったはずなのに、なんでこの三人がいるんだろう。
「誠に申し訳ございせんでした」
「もしエスアールが死んだとして、残された私たちの気持ちは考えたか? まさか全く考えていなかったとは言わないだろうな?」
「エスアールさん、私も怒っていますよ。なんでひと言も相談してくれなかったんですか。悩んでいたなら、話してほしかったです」
「そういう時は、私を使ってください。お願いします」
セラ、フェノン、シリーがそれぞれ俺を攻撃してくる。いや別に攻撃しているつもりではないのかもしれないが、ともかく俺の心をチクチクと突き刺していることはたしかだった。
「すみませんでした」
「まったく――エスアールがダンジョン好きなのは知っていたつもりだが、ここまでとは思わなかったぞ。今朝届いたギルドマスターからの手紙を見て肝が冷えたぞ」
どうして彼女たちが朝からやってきていたのか――あのギルマス、やはり宣言通りチクっていたらしい。余計なことを……!
「本当です。もっとご自分を大切にしてください。エスアールさんが亡くなったら、私も後を追いますからね? 今度からはそのことを念頭に入れてください」
フェノンも怖いよ……愛されているのは嬉しいことなんだけどさぁ。
そして当然だが、これだけでは終わらない。
なんとか三人に『以後気を付けます』と何度も言わされたのち、リビングに降りると、ニコニコした両親に出迎えられた。
そうですよね、むしろここからが本番ですよね……。
「修維、わかっているな?」
「わかってるわよね?」
「はい……」
怖いぐらいに笑顔の両親にそう言われて、俺は流れるような動作でその場で正座した。ちなみにセラ達は空気を察したのか、それとも本当にそのつもりだったのか知らないけれど、『クレセントと翡翠のところに行ってくる』と言ってパーティハウスを後にした。
もしかしたらクレセントたちはレグルスさんに怒られただけで終わりなのかーと思っていたけれど、彼女たちのこともセラたちは怒りに行ってくれるらしい。
まぁ彼女たちも結局ノアを負かすことに賛成したとはいえ、翡翠なんかは自分が死のうとしていたからな。そのことに関しては俺がレグルスさんにチクった。ごめんね。
結論。
セラたちの説教は一時間で終わったけど、両親の説教は三時間に及んだ。律儀にトイレ休憩を挟んでくれたことが、ちょっと怖かった。