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Aー112 再会




 Sランクダンジョンの攻略というのは、まだまだこの世界では一般的ではない。


 俺たちはリンデールでの踏破を皮切りに、パルムール、レゼルにも足を運んで同じように攻略したけれど、Sランクダンジョンのクリア者はいまだ世界で十人前後である。


 まぁともかく、俺やその周辺の人間は他とはステータスの高さが違うのだ。

 もちろん実践的な意味で言えば、シリーやフェノンはまだ歴戦の猛者たちには劣るのだが、そこはステータスに物を言わせて差を埋めることができるからな。


 そんなこともあってか、俺たちが担当することになったフェーマ王国では、とんでもなく丁重にもてなされることになった。


 第一王女、伯爵家の令嬢――そういった肩書の力も全くなかったとは言えないが、俺たちはあくまで『ASR』、Sランクダンジョンの攻略者として敬意を払わられた。


 どうやらこれは、最初にSランクダンジョンを踏破してから時間が経ち、俺を含む周辺の人間の強さが他国に周知されていった結果らしい。

 フェーマ王国が特殊なのかと思ったけど、通信で聞いてみたところ、クレセントや翡翠も同様の歓迎を受けたようだ。彼女たちは、レゼルで踏破してみせているからな。


 閑話休題。


 俺たちの今回の目的は、Sランクダンジョンの攻略――もとい、両親の復活と、イデア様に新たなダンジョンをこの世界に産み落としてもらうことである。


 フェーマ王国の観光は半日も行わず、あちらの王様たちに挨拶をして、攻略して、情報を共有し、すぐさまリンデールに帰ってきた。


「そこまで急ぐことでもなかろうに……」


 ほぼ最短の日程でミッションをこなした俺を見て、イデア様が呆れたような表情を浮かべている。

場所は俺の自室で、いるのは俺ひとりだけ。別の場所で、俺たちと同じようにSランクダンジョンを攻略してきたクレセントたちは、俺たちより半日ほど遅れてリンデールに帰ってきた。


 彼女たちにはダンジョンを二つ攻略してもらったけど、リンデールから近い位置にあったから時間的にはちょうどいいぐらいだった。

 いま、俺以外のASRのメンバー、そして地球組の二人、迅雷の軌跡は一階のリビングにいる。これから両親に会う俺に気を遣ってくれたらしい。


「いやぁ……フェーマは遠いし、せっかくだからゆっくりしてくるってことも考えたんですけどね、やっぱり落ち着いて観光できそうになかったんで、こっちを先に済ませておこうと」


 そんな風にイデア様に返答する。

 だってイデア様に頼めば両親に再会できてしまうような状況で、素直に知らない街を楽しむなんてことはできないだろう? その辺り、セラたちもわかってくれていたようだし――なんなら彼女たちは『新しいダンジョンが気になるんだな?』ぐらいの感じだった。


 うん……それも大きい。かなり。


「まぁよい……ではまずお主の両親をこの世界へ転生させよう――二人ともお主と会えると聞くと喜んで転生を希望しておったわ。ではいくぞ」


「――っ! お、お願いします!」


 イデア様は唐突だった。


 まぁ神様に向かって『空気を呼んで人間の会話の流れを模倣してくれ』なんて言えないし、言うつもりもない。俺のベッドに我が物顔で座っているが、そこをとがめるつもりもない。


 なにせ彼女は神だ。死者をも生き返らせることのできる神様なのだ。

 自分が転生したことは理解していたけれど、いざ両親と会えるとなると、本当に俺たちの力の及ばない存在なんだなということを実感する。


 まぁ、ノアを含め、親しみやすくはあるんだけども。


 人差し指をピンと立てたイデア様は、その指先を素早く動かす。人間の身体では不可能なような、機械的な動きに見えた。その指がたどった場所には薄い紫色の光が浮かび上がる。幾何学模様の魔法陣のような光は、彼女の指先から離れて一メートルほど先に進んだ。


 そしてぐんっと巨大化、瞬く間に直径二メートルほどになり、天井近くまで浮かび上がる。それからゆっくりと下に向かって動き出した。


「すげ……」


 俺もこの世界で魔法は使えるが……なんというかこれは、自由な魔法だ。スキルという概念にとらわれない、一から作り出した魔法といった感じだ。きっとこれが、本来の魔法ってやつなんだろう。


 魔法陣が下りてくると、まず髪の毛が見えた。俺の身長よりも高い、百八十センチぐらいの場所に――見覚えのある髪の毛が見えたのだ。


 おでこ、眉、目、鼻、口と順番に見えて来る。俺の記憶よりも若く見える顔の主は、俺と目が合うと楽しそうにニヤリと笑った。こんな時だから感動の涙ぐらい流せよと思ったのはここだけの話。


 まぁそれでこそ、父さんだなぁ。俺の容姿が違うことに関しては、イデア様から説明でも受けているんだろう。驚いた様子はなかったし。


 そして父さんのすぐ隣には、艶めいた髪の毛が見えてくる。

 身長は百六十ぐらいだったか――生前は、目元が俺に似ているとよく言われていた。残念ながら、いま俺はゲームの身体になってしまったから、その共通点は消えてしまっているが。


「二人とも、地球での姿のままだね」


 第一声、俺が二人にそう声を掛けると、二人はそろって笑顔を浮かべる。似たような、ニヤリとした笑みだ。


「そういう修維は随分と変わったな。まぁ、俺たちの息子には変わりはないが」


「ねぇねぇ修ちゃん! 私たち二十五歳になったのよ! もうイデア様最高ね!」


 魔法陣が下まで降り切ったところで、二人は俺に歩み寄りながら声を掛けてくる。

 えぇ……二十五歳? 今の俺とほとんど変わんないじゃん。すごいことになってるな。

 どちらから返答しようかと逡巡していると、


「それにしても、お前、世界救ったんだって? やるなぁ」


「それよりもあなた! 修ちゃんに奥さんがいるのよ! それもお姫様とお貴族様! さすが私たちの息子ね!」


「なんならあのちっちゃい元々神様だった子も狙っているらしいじゃないか」


「あら、その子は修ちゃんを狙ってるほうじゃない?」


「そうだったか? なんにせよあれだな、ハーレムってやつだな。やるじゃないか、えぇ?」


「あなたはダメですからね?」


「当たり前だろ、俺はお前だけしか見てないよ」


 そう言って俺の目の前で見つめ合う二人。


 ……これって感動の再会だよね? 二人が口にした内容から、俺の動向をイデア様からちょこちょこ聞いたり、映像みたいな感じで見ているみたいだから、少し感動が薄れてしまっているのかもしれないが……それにしてもこれはあんまりじゃない?


 イデア様も俺に同情するような視線を向けていた。そうなりますよねぇ。

 もうこの二人を置いてリビングに行こうかな――なんてことをため息を吐きながら考えていると、二人が同時にこちらを見て、ニヤニヤとする。


「そう怒るなって、ジョークだよジョーク! 俺だって照れ臭いんだ」


「ただいま修ちゃん。ひとりでよく頑張ったわね」


「あぁ、よく頑張った。修維は俺たちの自慢の息子だ」


 そう言って、二人は同時に俺を抱きしめてくる。突き飛ばしてしまいたい気分にもなったが……まぁここは我慢してやるか。


 ――なんて思ってしまうのは、たぶん俺なりの照れ隠しなんだろうなぁ。


「おかえり、父さん、母さん」


 久しぶりに――本当に久しぶりに、俺は両親の前で泣いてしまった。




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