Aー111 計画を練る
そうと決まれば行動である。
両親の復活がついで感を漂わせているけれど、どちらも俺にとって大事であることはたしかである。
ただ、新しいダンジョンに関しては単純に楽しみという気持ちだけで突き進めることができるが、両親と顔を合わせるとなると、少し緊張するというかなんというか……。
ともかく、複雑な感情なのだ。
閑話休題。
現状、リンデール、パルムール、レゼルの三か国のSランクダンジョンの攻略が完了している。
残る三国であるフェーマ、インセン、ニケットのSランクダンジョンをクリアすれば、晴れて全ダンジョン制覇ということになるわけだ。
今回は、テンペストのように覇王城が出現するわけではなく、イデア様が新たに用意してくれることになるし。
「クレセントと翡翠はどこがいいとか希望はあるか?」
「んー……私はこの中だとニケットっスかねぇ。リンデールから近いっスから」
「ボクはインセンかなぁ。多対一の練習になるし」
「なるほどね」
となると……インセンとニケットのSランクダンジョンは近いから、別々というより、二人で二か国それぞれクリアしてもらったほうがいいだろうか?
Sランクダンジョンが彼女たちにとって簡単な場所だとは言っても、いちおう死と隣合わせであることは違いないのだし。
そんなことを彼女たちの自尊心を傷つけないように伝えて見ると、『心配性』だとか『保護者みたい』だとかいろいろ言われた。悪いかよ。
「ふふっ、でもSRさんに心配はかけたくないので、二人で行くことにします。ミカもそれでいいよね?」
「しょうがないッスね~。心配しすぎてSRさんが動けなくなったら可哀想っスから、そうするっス」
翡翠は和やかに笑い、クレセントはからかうように笑った。
笑われるだけで心労が一つ回避できるというのなら、安いもんだ。一人ならまだしも、二人いれば万が一ということもありえないだろう。
なにしろ彼女たちは、テンペストのトップにいたのだから。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
クレセントと翡翠にニケットとインセンを任せることにしたので、我らASRは残りのフェーマ王国に向かうことになった。
クレセントたちに先に選ばせたのは、どうせ俺は時間がある時に残りもクリアするつもりだから――それに得意不得意もないし、どこも似たようなもんだろ――という感覚があったからである。
まぁそれでも、各国に特色がないわけではない。
ニケットは農業が盛んで雄大な土地を持っているし、インセンでは漁業が盛んかつ、ダンジョンの数も他国より多い。
そして俺が行くことになったフェーマでは、賭博が盛んだった。
プレイヤー同士の勝敗を予想するようなものもあったし、カジノのようなところもあった。だけど、俺がもつこの知識はあくまでゲームでのものだから、実際にどこまで一緒なのかはわからない。
ニケットもインセンもフェーマも、全然俺の知る国じゃない可能性だってあるしな。
ということで、セラに聞いてみたのだけど――賭博自体は盛んらしいが、俺の知る試合形式の賭け事は存在しないらしい。
代わりに、技術を競うものがあるのだとか。
「へぇ……どんなのだろ」
リビングのソファに背を預けて、考えてみる。
どんな街並みなのだろうか――どんな探索者がいるのだろうか――テンペストとはどんなところが違うのだろうか――とか。
「弓の的当てのようなものがあるらしいな。他にもいろいろあるようだが、エスアールなら優勝間違いなしだろう」
セラが自分のことのように自慢げに話す。なんだか照れますね。
「いや、俺はやめとくかなぁ。セラたちが参加するなら応援させてもらおう」
さすがにステータスの差がありすぎるし、ズルになる気がする。もしそういうものがあったとしたら、パーティメンバーたちに任せることにしよう。
まぁ、そもそも参加するのかもわからないし、定期的に開催されるものなのか、それとも常にやってるものなのかも知らないし。
きっと、きちんと知ろうと思えばどこからか情報は得られるのだろうけど、あまり探りは入れないことにした。それは、向こうについてからでもいいんじゃないかと思ったからだ。
「まぁでも、今回は長居するつもりはないから、ぱぱっとクリアして帰ってこよう。新しいダンジョンと、そしてうちの両親に会うために」
旅先で呼んでもらうよりも、うちの家で転生させてもらったほうが、色々と楽だしな。
これが今の俺の家だって言ったら、父さんも母さんもびっくりするだろうなぁ。
家はまだしも、王女様と伯爵令嬢と結婚していることを説明したら、失神しちゃうんじゃないだろうか。
……案外、すんなり受け入れそうな気もするけど。あの両親だし。




