A-98 洗礼?
前話にて、レゼルのSランクのボスが九尾であると記載しておりましたが、狂風竜の間違いでした。失礼いたしました(o*。_。)oペコッ
Sランクダンジョンにはクレセント、翡翠、そしてヴィンゼット姉弟が行くことになった。
つまり、俺の任務は――ありません!! なにすればええねん。
もともとこちらにやって来た人数はダンジョンの制限人数である五人を上回っていたので、二手に別れるか誰かがお留守番ということはわかっていたけども。
どうせレゼルからすぐに帰ることはないだろうから、とりあえず手柄をクレセントたちに渡しておいて、俺は帰る前にでも行くとしよう。ここまで来ておいて何もしないってのは考えられないからな。
で、あまりものの俺たちが何をするかという話なのだが――、
「ギルドで探索者の指導――ですか……」
カタリヤ様が話しの流れで、「時間があるならギルドに行ったら? ついでに指導してくれてもいいよ」なんて言い出すものだから、特にやることもない俺は断るすべもなく、ノア、セラ、俺の三人でギルドに行くことになった。ちなみに、フェノンとシリーはカタリヤ様と王都を散策するらしい。
別室ではすでにヴィンゼット姉弟とクレセントたちがSランクダンジョン攻略のための会議を行っている。話すことなんてあるのだろうか……クレセントと翡翠がボコボコにするだけだろうに。注意事項とか聞かせているのかもな。
彼女たちが一緒ならば、万が一のこともないだろう。
というわけで、いまは彼女たちのことよりも自分たちの心配をすることにしよう。
他国の探索者がギルドにやってきて、指導をしてやるという上から目線の行動だもんなぁ。
以前、リンデールの闘技場で力を見せつけるようなことはやったけれど、それを見ていたのはごくごく少数。一つの国あたり、十人程度の人間しか俺の戦いを見ていない。
俺が称号持ちであることや、Sランクダンジョンを単独踏破したということを知っている人もいるだろうけど、あくまでそれは噂程度だろうし、実際に目にするまで信じない人も大勢いると思う。
反応がわからないというのが正直なところだ。
「楽しみだな。この国の探索者のレベルはいかほどのものか」
セラはそう言って、らんらんと目を輝かせていた。俺の戦いが大好きという部分、ちょっと似てきてしまっているかもしれない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。
カタリヤ様が「騎士に案内させようか?」と提案してくれたけど、丁重にお断りした。だって気が休まらないし、昨日街を散策した際に、なんとなくギルドの場所は把握できているから。
昼前に王城を出て、ノアとセラに挟まれるような形で街を歩き――俺たちは探索者ギルドへとやってきた。
木製の観音扉を開き、中へ足を踏み入れると、
「んん? お前王都は初めてか? 初めてだろ? 見たことねーもん」
ギルドに併設された酒場で酒を飲んでいた三十代ぐらいの男がこちらに歩いてきて、俺たち三人に視線を向けながら言ってくる。
くすんだ緑色の髪で、やや厳つい顔つき。細身だが、筋肉は鍛えられている様子。
そしてアルコールがしっかり回っているようで、顔は真っ赤になっていた。
「えぇ、リンデールから昨日来たばかりです」
「ほーう、遠路はるばるリンデールからねぇ……」
彼はそう言って俺の頭のてっぺんから足先までジロジロ眺め始める。隣にいる二人のことを見始めたら注意でもしようかと思っていたが、俺だけを見ていたので苦笑いをするにとどめておいた。
彼はそうやって十秒ほど俺を眺めたのち、後ろを振り返った。そして、
「おーい、お前ら。リンデールの探索者が『探索者にしてはお前らひ弱そうだな』って言ってるぜ! ちょっと教育してやろうや!」
テーブルで談笑していた他の探索者たちに、そんな風に声を掛け始める。
「は? って、はぁ!? あんた何言ってくれてるんですか!?」
酔っぱらいの男は俺の言葉を無視して、「訓練場行こうぜ」などと探索者に声を掛けて回っている。本当に何をしてくれてんだコイツ。
俺は急激に盛り上がる場に戸惑っているのだが、なぜか受付嬢たちはそれを咎めない。俺が本当に喧嘩を売ったとしても、そうでなかったとしても、ギルドとしては止めるべきなんじゃなかろうか。
「このアホ共は無視してギルド長と話せばいいと思うぞ。この件はしっかりとギルド長とカタリヤ様に報告しよう」
セラは呆れた目で盛り上がる男達を見ながらそう口にする。
そしてノアはというと、
「まぁいいんじゃない? 面白そうだし」
ニシシと笑いながら、賛成の意を示した。
相手がどれだけ大人数でかかってこようと負けることはないのだけど、心象的な意味でアウトだと思うんだけどなぁ。
「マジで誰も止めてくれないんだな……いったいどうなってんだレゼルのギルドは」
人がまったくいなくなったギルドを見ながら呟く。なんなら、手すきの受付嬢まで他の探索者に混じって訓練場に出ていった。
「面白いことになるから、行こうよ」
そう言って、ノアは俺の手を引いて訓練場へと歩き出す。
「教育してやるという意味ではいいのかもしれないな。どちらがされるのか、あちらは分かっていないだろうが」
なにやら不穏なことを呟く俺のパートナーは、そう言って怖い笑みを浮かべたのだった。