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A-85 王女様を助けたいです……!





 いちおうのんびりするのは三ヶ月というていで話を進めてはいるが、別にこれが一ヶ月となってもいいし、半年になっても構わない。この辺りはクレセント次第だし、俺も彼女がこの世界にやってきたことで「敵がいねぇ」と苦しむ心配もかなり減ったから、あまり全Sランクダンジョン踏破を急いでもいない。


 俺が言うとかなりいやらしく思われそうだが、彼女はかなり強い。


 俺みたいに十年間テンペストに費やしたわけでもなく、テンペストだけに尽力しているわけでもないのに、彼女はパーティ戦では一位に君臨し続け、個人のランキングで一位二位の位置にいた。


 つまりなにが言いたいのかというと、彼女は今後成長すれば俺を脅かす存在になる可能性を十分に秘めている。プロゲーマーという肩書きの本領を是非とも発揮していただきたい。


「ふむ……毎日は難しいかもしれんが、五日に一度ぐらいならいいぞ。他の探索者たちにとっていい刺激になるだろうからな。むしろ観客から金がとれそうだな」


 本日はクレセントの紹介がてら、ギルマスであるレグルスさんに会いに来ていた。

 場所はいつもの防音されている個室で、テーブルの上にはカップに入った紅茶が三つ。

 レグルスさんは先日闘技場で試合をした時に観客として来てくれていた。だからいちおう顔を覚えていただろうけど、面と向かって話すのはこれが初めてである。


「いやぁ……さすがにお金は要らないです。というか、ただでさえお金を使う予定が無くてたまる一方なんで――そもそも自分がいまいくら持っているのかも把握してないですし」


「そのセリフ、日本にいる時に言われたらちょっとキュンとしちゃったかもッス!」


「目がドルマークになってる女性は遠慮したいかなぁ」


 日本円に換算したらいったい俺はいくら持っているのだろうか。エリクサーの価値は未だ変動中だし、他のアイテムの価値も定かではないが……たぶん千億円ぐらいはあるんじゃなかろうか。

 いつ無収入になっても平気だろうし、そもそもお嫁さんたちが王族と貴族だからなぁ。


「じゃあそれぐらいの頻度で訓練場お借りしますね」


「わかった。お前たちが使う時間帯は他の奴らは観客に回ってもらうことにしよう。そうでもしないと、余波で死人がでかねん」


 やれやれと肩を竦めながらレグルスさんが言う。

 そんなことを言っている探索者を引退したレグルスさんだが、最近はちょこちょこと一次職や二次職のレベル上げをしており、ステータスボーナスを取得していっているようだ。探索者が暴れた時に制圧するためらしい。


「なんだかこんな簡単にお金が稼げていいのかなぁって思っちゃうッスよね。たかだかエリクサーとるだけで二百万ッスよ!? 他のドロップ品も合わせて売ったらさらに上乗せッス!」


「二回潜れば一年間暮らせそうだよな」


 当初は値段が付けられないほどの価値があったエリクサーも、Bランクダンジョン踏破者が続々と出始めたことで値段が決まり、そこから徐々に下がってきて今では二十万オル――日本円換算でだいたい二百万円にまで落ちてきた。


 この価格で安定するのか、それともまだ下がり続けるのかはわからないが、そのあたりはテンペストとこの世界の需要と供給が違うので俺にはわからない。

 俺としては普通に買い取りしてくれたら、それでいいやって感じだ。


「お前らにとっては簡単なことなのかもしれないが、まだまだ踏破できるやつらはそこまで多くない。安定してクリアできる奴らが供給してくれてるだけだ。迅雷の軌跡もそのパーティのうちの一つだな」


 あいつらは現在Aランクダンジョンを主戦場としているが、Bランクのサイクロプスにもちょこちょこと挑んでいる。たぶんギルドから依頼されたりしているのだろう。


「俺も納品したほうがいいですか?」


 俺がそう問いかけると、隣に座るクレセントが「それは無理じゃないッスかね」と笑う。


「こういう指名依頼ってのは、実力によって依頼の金額が変わってくるのが基本ッスよ。漫画で読んだことあるッス!」


 なるほど。


「クレセントの言う漫画とやらは知らないが、まぁそういうことだ。迅雷の軌跡はいまや危うげなくBランクダンジョンを踏破できるし、王都があいつらの家みたいなもんだから呼び寄せる必要もない。まぁ本当に必要な時は、お前なら無償で働いてくれそうだがな」


 そう言ってレグルスさんはクククとニヒルな笑みを浮かべる。

 どうせ俺がフェノンを救ったときのことを思い出しているんだろう。あの時の俺は「それでも、俺は王女様を助けたいです! キリっ!」みたいな感じだったからなぁ……黒歴史だとは思わないけど、ちょっと恥ずかしい。


「どうですかね」と首を傾げつつ言うと、クレセントが「SRさんSRさん」とニヤニヤしながら声を掛けてきた。そして咳ばらいをしてから、


「それでも、俺は王女様を助けたいです」


 渋い声でそんなことを言い出した。


「お、おま、なんでそれ――」


「カッコイイっスよねー! ノアっちが教えてくれたッス!」


 あんのクソガキまた余計なことを……! 帰ったらしばき倒す……!





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