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A-84 一つの歯車




 クレセントと試合をしたあと、彼女を上級ポーションで回復させたのち、俺たちはいつものメンバーでパーティハウスに戻ってきた。


 陛下や宰相――王国組の人たちは、クレセントが俺と同郷としていることを知っているから、なんだか地球にいる人たちの強さがみんな異常だと勘違いしはじめていた。腫物に触るような態度をとられても困るので、そこはきちんと否定しておいた。俺たちがトップワンツーということと、おそらくこれ以上この世界に俺の住む世界の住人はこないであろうということを。


 閑話休題。


 クレセントの傷は癒えているし、骨折ぐらいの怪我もしたけれど、腕が吹っ飛んだりするような大けがもさせていない。ただ、やはり精神的に疲れてしまったようなので、無理せず休むように言っておいた。彼女の世話は、同性のシリーに頼むことに。


 そんなわけで、現在リビングに集まっているのは、セラ、フェノン、ノアの三人。迅雷の軌跡は、どうやら激しい戦いを見て身体がうずいたらしく、今後の方針をパーティで話し合うようだ。


 そして俺たちはというと、夕食を終えてからのんびりお茶を飲んで過ごしていた。


 こういう時、元の世界だったらテレビを付けた状態で話していたのだろうけど、この世界にはそれがない。話に集中できるから、こっちのほうが俺は好きかな。


「やっぱり地球の人たちはすごい才能を持った人たちが多いねぇ。同じステータスなら勝てる気がしないや」


「経験って意味で言えば、そりゃそうなるだろうな。肉体的な強さだとこちらに分があるだろうけど」


 いやしかし、レベルという概念があるこの世界ではそうでもないのだろうか? 筋トレなんてしなくても、身体能力はあがるのだし。ステータスが意味をなさなければ、地球の人のほうが案外強いかもしれないな。

 まぁそれはいいとして。


「あいつはしばらく俺たちと一緒に行動するだろうから、とりあえず俺たちのパーティに加えるってことでいいか? ソロでも問題ない強さはあるんだけど、やっぱり心細いだろうし」


「迅雷の軌跡に預けるって手もあるだろうけど、彼女はお兄ちゃんと一緒のほうが安心だろうね。僕は構わないよ」


 まずそう言ってノアが了承し、セラとフェノンも「わかった」「もちろんです」と首を縦に振ってくれた。変にこじれなくてほっとした。

 おそらくシリーも了承してくれるだろうと信じて、ASRにクレセントが加わるていで今後の予定を考えてみることに。


 しかし、あれだな。


 俺一人でも余裕でクリア可能だったダンジョンがさらに容易になってしまった。セラたちのレベル上げを考えると、二手に別れて活動したほうが良いのは明らかなのだけど、それだと一緒にいる意味があまりないしなぁ。


 暇なときにクレセントと打ち合えるだけ良しとしておこうか。

 先の試合で俺の身体もなまっていると実感したし、お互いWINWINにはなるだろう。


「クレセントがこの国に――この世界に慣れるまではのんびりするとして、それからレゼル王国にいこう。クレセント次第だけど、期間としては、三ヶ月ぐらいでいいんじゃないか?」


 俺がそう提案すると、ノータイムでセラが頷く。


「私は構わないぞ。エスアールたちに追いつくためにレベル上げもしたいし、彼女とも仲良くしておきたいしな」


「そうね。あちらの世界でのエスアールさんの話、たくさん聞かせてもらいましょうっ」


 いやいやいや! それは勘弁してほしいんですけど!?

 あの頃の俺は人との関わりを避けていた――というか、強くなることに夢中になっていたというか……。まぁ現実逃避でゲームをしていたから、たぶん引け目を感じていたんだろうな。話すことで、自分が情けない人間であることを露呈させるのが、怖かったんだろう。


「お兄ちゃんの気持ちもわかるけどさ、その行動がこの世界を救うきっかけになったことを忘れてはいけないよ? どれだけちっぽけでも、どれだけ隅っこにいようと、歯車に無駄なんてないんだ。噛み合ってないようで、全てが連動して世界を動かしているんだから」


 お兄ちゃんの場合、かなり影響力の強い歯車なんだけどね――そうニコニコしながらノアが言う。

そう言われると、なんだか俺が凄い人間のように聞こえるけど、ニートなんだよなぁ……。いまはいちおう「ご職業は?」と聞かれたら「探索者です!」と自信満々に答えることができるけど。


「僕だって一つの歯車、この世界だって、イデア様だって、地球だって一つの歯車さ。お兄ちゃんが逃避だと感じていたテンペストでの生き方も、気付かないうちに誰かの助けになってたかもね」


「いつになく持ち上げるなぁ……別にお前が喜ぶようなものはなにも渡せないぞ?」


 急に褒められると、相手が何かを狙っているのではないかと危惧してしまう。俺の性格がひねくれているのだろうか……いやいやそんなことは、なくもないか。


「む、僕が見返りだけを求めて動いている神だと思ってたのかい?」


「『元神様』な――今は人間やってんだろ」


「へへへ……まぁね。僕はお兄ちゃんたちと同じ、人間だよ」




 

 


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