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A-83 このあとめちゃくちゃ〇〇した




 試合が始まって十五分ほど。

 しばらくの間はクレセントとの戦いを楽しんでいたけれど、この試合の本来の目的は彼女に痛みを知ってもらうことだし、観客も仲のいいメンバーだけではないので好き勝手するわけにもいかない。


 そろそろ、試合を動かすとしようか。


「――はいそこ、後のこと考えてなかっただろ~」


 後ろに跳び退きつつ俺の剣を防いだクレセントだが、次の俺の一手で剣を弾かれる。手放すことはなかったものの、上に跳ね上げられて一瞬自由を奪われた。

 俺はその隙に、彼女の腹を蹴った。


「っかは――」


 回し蹴りでもなくムーンサルトでもなく、ただただ単純な蹴り。ただし、俺のステータスから繰り出される本気の蹴りだ。脛は彼女の腹に食い込み、トラックにはねられるのが可愛く思えるほど軽々と、笑えるぐらいにクレセントは吹き飛んでいく。


 彼女のステータスも高いから、この一撃で戦闘不能ということにはまずならないだろう。無防備な腹に攻撃が入ったとはいえ、感触からして骨にひびが入っているのかも怪しいところだ。


 しかし――、


「――ゲホッ、う、うぇ」


 彼女は四つん這いになって、苦し気に呻いていた。もしこれがランキング戦であれば、一瞬で首を刎ねられて退場していたところだろう。まぁ初めて受けるまともなダメージだから、こうなるのも仕方がない――ん?


「おぉ、立ったか」


「い、いやぁこれぐらい普通ッスよ。全然平気ッスね」


「足震えてないか?」


「武者震いッス」


「ありがちないいわけだなぁ。まだやれるか?」


 俺がそう問いかけると、彼女はお腹をさすってから目を閉じて、深く息を吐いた。


「――ふううううう……やらなきゃ、やらなきゃ意味ないでしょう。私のためにSRさんが与えてくれた機会、無駄にするわけにはいきません」


「ま、お前が嫌がったとしても、もうちょっと続けてたかな。いつかはやる必要があることだし」


 しかし何だお前のその口調は。普通すぎてキャラが薄いぞ。いつもの「ッス」はどうした。


「ふふっ、SRさんのSはサディストのSなんですか?」


「ちゃうわ。普通に本名の頭文字とってるだけだよ」


「へぇ、ちなみにお名前をお伺いしても?」


 試合中ということを忘れていないかコイツ? まぁいいけどさ。

 しかし名前か……ゲーム内だと絶対に言わなかったが、異世界に来ているんだから、プライバシーもクソもないか。


「六道だよ、六道修維(りくどうしゅうい)。クレセントは?」


「それでSR……そのまんまッスね」


「うるせー。いいからお前のも教えろ」


「はいはい、自分は遠野三月(とおのみづき)ッス」


 クレセントは少し恥ずかしそうに頬を掻きながら、自らの名前を口にした。お前も安直じゃないか。


「三月、三日月、クレセントってことね。お前も人のこと言えねぇな」


「誰かさんのイニシャルよりマシッス」


「いいんだよ。みんなスーパーレアとかスナイパーライフルと勘違いしてるし――ま、他の人が混乱しないよう、こっちではSRで頼むよ。俺はこの世界で、SRとして生きているんだからな。地球の六道修維は、もう死んだ」


「そうッスね……遠野三月も、もういないッス」


 自分の手のひらを見つめながら、クレセントは言う。おそらく地球での自分の手のひらと比較しているのだろう。この身体は、別人のものだと理解しようとしている気がする。

 ま、そんなことよりだ。


「お喋りはそろそろやめようか。取り敢えず、お前が意識を失うぐらいまではボコボコにしておこうと思う。心苦しいけど、同郷のやつがダンジョンで死ぬなんて嫌だからな」


「愛ゆえの鞭って感じッスか?」


「頼むから『愛』とか言うなよ……どこかの伯爵令嬢が怒りそうだ」


「うっ……王女様は何も言わないんスか?」


「軽い嫉妬ぐらいはしてくれるだろうけど、俺の気持ち優先って言いそうだな」


「愛されてるッスねぇ……まぁ命を救って世界も救った勇者ッスから、それぐらいモテても不思議はないってことッスか」


 前世のニートと比べると比較するのもおこがましいぐらいモテているのは事実だろう。しかも相手は王族と貴族などというとんでもない存在である。そんな美人と結婚できるというのなら、命を賭けて世界を救ったかいがあったというものだ。


 いやもちろん、そのためだけに頑張ったわけじゃないけども。っていうか、


「お前さ、さっきから時間稼ごうとしてない?」


「あ、あははは……そんなことするわけナイジャナイデスカー」


 このあとめちゃくちゃボコボコにした。


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