A-79 不潔ッス!
俺とクレセントは二人並んで綺麗な土下座をシンたちに披露した。
そりゃ「この国の最強の人たちと戦ってみたい」などと、その『最強の人たち』をボコボコにしたあとで言ってしまえばそうする他にないだろう。
本来ならばサイクロプスが出現するはずのフィールドは気まずい空気が充満しているので、俺はそそくさと帰還を選択。これからのクレセントの過ごし方について話し合うことにした。
なぜか六人になってダンジョンから出てきたため、受付の女性にキョトンとされてしまったけど、俺たちが「見なかったことにしてください」と頼むとがくがくと首を縦に振って了承してくれた。こういう反応を見ると、改めて俺たちは有名人なんだなぁと実感する。
「とりあえず金は腐るほどあるから別にニートしててもいいけど、クレセントがダンジョンに潜ればあっという間に金持ちになれそうなんだよなぁ」
「そうッスねぇ……さっき聞いた感じだと、ドロップアイテムも全部発見できてない状況ッスよね? 特にSランクは。なにせエリクサーを毎日一個ゲットすれば贅沢して生きていけるレベルッスもん」
そうなんだよなぁ。この世界も全体的にレベルアップしてきているとはいえ、まだ発展途上。エリクサーの取引価格もまだまだ高い。
しかしいずれ価格が落ちることはわかりきっていることだから、稼ぐなら今のうち――って感じなんだけど、無理して稼がなくてもクレセントは億万長者間違いなしなんだよな。賭け試合とかしたら無限に稼げそうだ。
「落ち着くまでは俺たちが住んでる家に来てもいいけど……セラはどう?」
隣を歩くセラに聞いてみると、彼女は少し考えるように目を閉じてから、口を開いた。
「……それがいいだろう。クレセントもいくら戦う力が強いとはいえ、この世界に来たばかりで心細いはずだからな。同郷のエスアールと共に行動すべきだ。た、ただし! 寝室はダメだからな!」
「あっはっは! 大丈夫ッスよ! さすがに既婚者の寝床には忍び込まないッス!」
「そ、そうか。ならばフェノンも文句は言わないだろう」
「? ――そのフェノンって誰ッスか?」
コテンと首を傾げながら、クレセントは俺とセラを交互にみる。疑問の目を向けられたセラは、俺に「フェノンのことはまだ話してなかったのか?」と聞いてきた。
……う、ついにその話題が来てしまったか。
日本育ちの彼女が聞くと、ドン引きされてしまいそうだったから敢えて口にしていなかったのだけど……。
「あ、あれだよ。さっき話したエリクサーで救った王女様のことだ」
「? なんでその王女様がSRさんの女性関係に言及をするッスか? 結婚してるのはセラッスよね?」
そうだよね。そうなるよね。俺も日本の考え方が抜けていない状況でその話を聞けばクレセントと同じようにクエッションマークを脳内に浮かべるだろう。
「……実はフェノンとも結婚してます」
「――え? え、えぇえええええ!? 王女様と結婚!? 二股ッスか!? SRさんはハーレム野郎だったッスか!?」
「人聞きの悪い事いうんじゃない! 日本でも郷に入っては郷に従えと言うだろうが! 甲斐性ならある!」
「うわ! 開き直ったッスこの人! 最低ッス!」
「エスアールは最低なんかじゃないぞ!」
「まさかのお嫁さんから援護射撃!? ライカとスズはどう思うッスか!? 不潔ッスよね!?」
「え? 別に普通じゃない? エスアールほどの男の人なら十人以上いても不思議じゃないわよ。なにせ世界最強よ?」
「むしろ今が少なすぎるです。まぁあと二人ほどすぐに増えそうな気もするですが……」
セラに続き、迅雷の軌跡の女性陣も俺を援護してくれる。ありがたいけど、スズよ――最後の発言に関してはまだあやふやなんだから口にしないでおこうな。
三人からの攻撃を受けたクレセントは、後ずさりしながら最後の砦であるシンに目を向けたが――シンのビジュアルからモテることを察してしまったのか、諦めたようにため息を吐いた。
「なんかガッカリされたんだけど」
「たぶん爆発しろって思われてんだよ」
「なんで爆発なんだよ!?」
そりゃ日本にはリア充爆発しろって言葉があるからな。女性二人とパーティを組んでいる時点でお察しだろう。実際のところ、こいつらが将来結婚とかするのかどうかは俺もわからんが。
「ははは……この世界じゃ異物は私の方ッスから、慣れなきゃいけないッスか。でも、たしかセラもお貴族様だったッスよね? 王女様と貴族様がお嫁さんってことは、さっきスズが言っていた『二人』ってのも、地位が高い人なんスか? なんだかSRさんの家に行くの怖くなってきたッス……」
……ふむ。
シリーの説明は『フェノン専属の待女』と言ってしまえば楽なのだけど、ノアは地位が……地位とかいう問題なんだろうか?
あのクソガキは元貴族でーすみたいなノリで元神でーすとか言いそうな気がする。
隠し通してもいいのだけど、俺のこの世界での過去を話す上でこいつの存在は外せないからなぁ。嘘を吐くとなると、ノアを死んだことにするとかにしないといけなくなりそうだ。それはよろしくない。単純に嫌だ。
「……会った時に紹介するよ」
とりあえず、俺はそう言ってこの場で説明することを放棄した。
このまま一生クレセントが彼女たちと会わなければ、説明しなくても良い可能性が……ないかなぁ。