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A-74 改めて化け物





 第二の故郷と言っていいリンデール王国。


 地球で過ごした三十年ちょっとの時間と、こちらで過ごした数年間――もちろん思い出の数で言えばまだ地球のほうが勝ってしまうけれど、どちらが濃いかと問われたら判断に困るところだ。


 学生の頃は少なからず人付き合いがあったし、もちろん両親と過ごした大切な記憶もある。アニメや漫画は今でも時々恋しくなるし、パソコンやスマホの電子機器が無くて不便に思うこともあった。


 だけど、この世界にきて仲間たちと出会い、セラやフェノンと恋仲になって、ノアという神に出会い、俺は世界を救うために尽力した。この出来事の数々は、間違いなく俺という人間を成長させるきっかけとなったのではないかと思う。


 具体的に何が成長したのかと問われたら、これまた判断に困るのだけども。



「なんだか緊張するな……」


 ダンジョンの一階層にて、セラが辺りを見渡しながらそんな言葉を漏らす。

 彼女はすでにSランクダンジョンで戦えるほどのステータスと技術を持っているのだが、どうやら魔物の脅威とは別のところで緊張しているらしい。まぁ、気持ちはわかる。


「ははっ、おまえさんらしくないな。俺はどちらかというとワクワクしてるぜ」


 身体がやや強張っているセラに対し、シンが笑いながら言った。


「ですです。もっとリラックスするですよ」


「ふふふ、このメンバーでこの場所にくると、本当にあの時のことを思い出すわね」


 シンに続いて、迅雷の軌跡のメンバーであるスズとライカが言葉を紡ぐ。

 表情の硬いセラに対し、迅雷の軌跡の面々はピクニックにでもきたかのように気軽だ。


 そう……現在俺たちは、過去にフェノンを救うために訪れたBランクダンジョン――サイクロプスが出現するダンジョンに、当時の攻略メンバ―で訪れていた。


 その理由はただ一つ――暇つぶしである。


「もしトラウマを刺激したっていうなら、文句はシンに言ってくれよ。いいだしっぺはこいつだからな」


 セラは最初にこのダンジョンを攻略した時に、瀕死の重傷を負ったことがあった。四層に出現するオークに剣を突き刺し、それが抜けずにぶん殴られたという事件である。まぁ俺も体力不足でボコボコにされてしまったが。


「いや、その心配はないんだが。なんだか感慨深くてな……あの頃の私はまだとても弱かったから」


 しみじみと言葉を口にしたセラは、まるで過去の自分を振り払うかのように、手に持った剣で虚空を切りつける。


「それを言ったら俺たちだって一緒だぞ。当時は『王国最強!』だなんて思っていたけどな」


「その自信もどこかからフラッとやってきた誰かさんにぶち壊されたですが」


「――あ、思い出したらなんだか鳥肌が立ってきたわね」


 迅雷の軌跡たちから示し合わせたかのようなジト目が向けられる。

 十中八九俺のことを言っているんだろうなぁ。まぁここは敢えて無視させていただこう。何を言ってもキツいツッコみがきそうだし。


「そう言えばBランクダンジョン攻略時といえば、皆さんに対して俺はまだ敬語でしたね」


 にっこりと笑みを作りながら言うと、ダンジョン内であるということを忘れたかのように彼らは身体を抱くようにして俺から距離を取った。そこまで引くなよ。というか、後ろから魔物がやってきてるぞ。


 魔道矢でサクッと魔物を倒すが、俺の久しぶりの敬語を不気味に思った四人は振り返りもしない。俺を信頼してくれているのか緊張感が足りないのか……どっちでもいいけどさ。


「……魔物気配はわかってるんだが、さすがに前方の違和感がすごくてな」


「エスアールに敬語を使われると、なんだか寂しいな……」


 シンとセラがそう呟くと、スズとライカが同意するように頷く。


「まぁおふざけは終わりにしよう――で、こうして改めて五人でBランクダンジョンへやってきたわけだが、ぶっちゃけ余裕だろ?」


 俺が肩を竦めながら問いかけると、四人は同時に首を縦に振る。


「そう。Bランクダンジョンってのはソロでも楽々クリアできるぐらいのレベルだ。それがサイクロプスみたいな図体のでかい相手でもそれは変わらない。むしろ的がでかい分やりやすいぐらいだ」


「まぁな。魔物には悪いが、ここのダンジョンはエリクサーが確実に手に入るし、何度も何度も攻略させてもらったぜ」


 だろうな。エリクサーの需要はいくらでもあるし。

 しかもこの場所は王都から近い距離にある、金稼ぎには持って来いの場所だ。しかも敵はほとんど人型だから、他の生物より動きを判別しやすい。


「まぁステータスのことを知ってるか知らないかの差なんだけどさ。いまならわかるだろ? あの頃に俺がBランクダンジョンをそこまで警戒していなかった理由がさ」


 俺は諭すような穏やかな口調で、四人に向かってそう話した。

 きっと今の彼らなら当時の俺の感覚を理解してくれる――そう思って聞いてみたのだが……、


「「「「わからない」」」」


 全員にはっきりと否定されてしまった。なんでだよ!


「…………えぇ?」


 ここはさぁ、「いまならお前の気持ちがわかるぜ」とか、「これがあの時のエスアールの感覚なのだな」とか言ってくれたりする場面じゃないの? 違うの?


「いやいや、あの時のお前さんってかな~りレベルが低かったよな? 細かいステータスってのを知ったからこそ、サイクロプスにお散歩気分で向かっていくお前さんの異常性を理解したぞ。あぁ、こいつは正真正銘の化け物だったんだなって」


 シンに同意するようにコクコクと頷く女性陣。


 化け物ってひどくないですか?

 




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