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A-72 新居のお風呂





 迅雷の軌跡たちは俺たちと一緒に家の中をある程度見て回ってから、「そろそろお暇するよ」という言葉を残して帰って行った。ある程度とはいっても、ざっと見て回るだけでもかなりの時間を使うぐらいには広かったが。


 彼らとは数ヶ月ぶりに顔を合わせたけれど、別に名残惜しくはない。


 近くに住んでおり、そして探索者として活動していれば嫌でも会うことになるだろうからな。彼らは彼らで順調にレベル上げを進めているらしいし、このまま強くなっていけば、Aランクはもちろん、Sランクも軽々クリアできるようになるだろう。


 シリー一家たちやレイさんなど、使用人や護衛の方たちは明日の朝我が家へとやってくることになっている。本日は王都のパーティハウスで新たに家の面倒を見てくれる人たちに引き継ぎ作業を行っているようだ。


 ここまで護衛に来てくれた人たちは新居の周囲を警備しているらしいので、現在この家の中には本当にASRのパーティメンバーだけの状態というわけだ。


「日本人が風呂好きなのか……それとも地球に住んでいたから風呂が好きなのか……どっちだろうな」


 セラとシリーが準備してくれた夕食を食べてから、お風呂の時間。


 お風呂の場所は一カ所のみで、浴槽だけでも二十人は余裕で浸かれるぐらいには広い。というか、俺が地球で住んでいたアパートより広いんじゃないかってぐらいだ。


 前回は浴槽に木材を使用した様相だったが、今回はごつごつした石張りである。室内風呂でありながら露天風呂のような気分を味わえるお風呂になっていた。窓も大きくとってあるので、解放感もある。


「うあぁー……気持ちいい……」


 疲労物質がお湯に溶けだしているかのようだ。大して疲れていないんだけどさ。


「これからどうする? Sランクダンジョンを踏破するために他の国にも行くんでしょ?」


 湯船の縁に後頭部を乗せてだらけていると、隣からノアの声が聞こえてきた。


「んー、そうだな。一応全制覇したら何か起きるかもしれないし。たとえベノムとまた戦うことになったとしても、今度はノーダメージで乗り切ってやるさ」


「おぉ! さすが覇王様! 邪神相手にボコボコ宣言とはかっこいいねぇ」


「初めて戦う敵じゃないからなぁ。どっちにしろ、もうしばらくはリンデールでゆっくりするよ。別に焦る必要もないから――ん?」


 ……ちょっと待て。

 なぜ俺は普通にノアと会話をしているのか。


 ついさきほど話し合いで俺が先に入るって話になったよな? 彼女がいまここに居る状況ってのはありえないよな?


 そう思って恐る恐る顔を横に向けてみると、気持ちよさそうな表情を浮かべ、タオルを乗せて目を閉じているノアがいた。もちろん、全裸である。

 幼女の身体には興味はないが、一緒にお風呂に入れるかと問われれば微妙なライン。


「わ、私は反対したんだからな!」


「エスアールさん、あまりこちらを見ないようにしてくださいね」


「あ、あの、よろしければお背中流しますが……」


 セラ、フェノン、シリーの声も続々と俺の背後から聞こえてくる。床を踏みしめるしっとりとした足音からして、彼女たちが素足であることが予想できた。


 おいおいおいおい。まさか全員で風呂に入りに来たのか!? 君たち俺に先に入るようにすすめたよねぇ!? なんで来ちゃうんだよ!


 そりゃお風呂は大きいから全員で入っても余裕はあるけども! 新婚さんだから別にお風呂一緒に入っちゃったりしてもいいかもしれないけども! 心の準備をする時間ぐらいくださいな!


「だってお兄ちゃんこうでもしないと照れて拒否しそうだし~」


「お前はすぐ人の心を読むなバカタレ」


「今のはお兄ちゃんの表情を見たらわかるから別に読心は使ってないよ?」


「あぁそうかい! そりゃすみませんでしたねぇ! だけど結婚しているセラとフェノンはともかく、お前がここにいるのはおかしくないですかねぇ!?」


「あれ? さらっとシリーは問題ないって言ってる? というか僕はいちおう妹って立場だから問題ないでしょ」


「実際は違うだろうが!」


 あと、シリーの件はツッコまんでよろしい!


 ノアと不毛な言い争いをしながら、横目でちらっとセラたちがいるであろう方向を見てみたのだけど、全員バスタオルを身体に巻いている状態だった。


 ぴっちりと身体のラインが分かるようにタオルがきつく巻かれていて、何がとは言わないがシリーさんが凄かった。

 俺は十年間培ってきたこの目の良さを、遺憾なく発揮していた。


「ま、マジでお風呂入るつもり? というか、俺もう身体洗ったんだけど」


 とはいえこういった経験値をあまり得ていない俺としては、彼女たちがいる方向を直視することなど到底できない。


 すぐさま大きな窓がある方向を向き――かけたけども、セラたちがくっきり窓ガラスに反射していたので天井を見上げた。


「じゃあお兄ちゃん僕の身体洗っちゃう? あー、もしかして欲情しちゃうから無理かなぁ?」


「あぁ!? お前の洗いごたえのなさそうな身体なんか別になんとも思わんわ! だがその手には乗らんぞ! 自分で洗え!」


「じゃあもし僕がボンッキュっボンだったら?」


「また微妙に古い言い回しを……べ、別にお前の身体がどうなろうが興味ないな」


「んー? いま一瞬口ごもったよねぇ?」


「き、気のせいですし」


 ノアが大人の女性姿になった状態を妄想してしまったら予想以上に美人だった。不覚。

 本人には天地がひっくり返っても言いたくないが、容姿はいいからなぁ。


「…………いま心読んだら怒るからな」


「はははっ、わざわざ読むまでもないから大丈夫だよ~。照れるなぁ」


 もうやだこの元神様。





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