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A-62 続・エスアールの人間離れ




 パルムール王国、Sランクダンジョン。

 俺はセラたち四人に見守られながら、この世界の常識で言えば最難関に位置するこのダンジョンの一層から五層をひとりで攻略した。これからボスと楽しくお遊びしようとウキウキな状態である。


 敵の数が多い、マップが広い、休憩を挟んだりしたということもあり、時刻はすでに夜の九時を回っているが、身体の調子は絶好調――そして久しぶりに相対する九尾に、俺の心の高鳴りも最高潮である。

 しかし久しぶりだなぁ……九尾戦。

 この世界がぶっ壊れて、ノアがレベル上げのためにぽいぽいと出してくれた時以来だ。あの時は複数体と戦っていたし、一対一で戦うのはいったい何年ぶりだろうか。


「エスアール君なら必要ないと思うけど、緊急帰還が必要な時は声をかけるんだよ」


「お気を付けください」


 ニーズ君とネスカさんの二人が、『ボスに挑む』のウィンドウにタッチしようとした俺に声を掛けてくる。だけど言葉とは裏腹に、あまり心配そうな表情はしていなかった。それだけ俺の力を認めてくれたということだろうか。


「まぁ勝つことは勝ちますよ。ただ、九尾は俺の訓練相手として最適なので、ちょっと遊ぶかもしれませんが」


 そんな俺の言葉に、俺の過去を知るノアは「あぁ、そういえばそうだったね」と。

 そして俺の性格を知っているセラは「ほどほどにな」と苦笑していた。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 というわけで、待ちに待ったボス戦である。

 観客の四人には後方に待機してもらって、俺は尻尾を揺らめかせて静かに座っている九尾へと歩み寄って行った。


 この九尾だが、一応Sランクダンジョンのボスだけあって中々強い魔物である。よくあるロールプレイングゲームで例えるならば、ベノムが魔王、Sランクダンジョンのボスたちが四天王みたいな感じだろうか。六匹いるから六天王か? 語呂が悪いな。


 魔法防御の高いこの敵に対し有効なのは物理攻撃。

 しかし弾幕のように放たれる九尾の魔法によって近づくのは難しい――つまり九尾攻略の正攻法としては、シリーさんのような弓士が最適解であるとテンペストでは言われていた。


 剣士系職業の『飛空剣』及び『壊理剣』なども遠距離攻撃の手段の一つではあるけど、この攻撃よりも敵の魔法のほうが射程が長い。そして敵の魔法よりも、弓士の射程のほうが長い――というわけで、『九尾には弓』というのはいわば一般常識のようなものなのだ。


 まぁそれは、あくまで『初心者』に対しての常識なんだけどな。

 俺を含むテンペストのランカーたちには関係のない話だ。


「さてさて、久しぶりの回避訓練だなぁ九尾君」


 俺が九尾に向かって小走りで駆け寄っていくと、まずは様子見といった様子で九尾が九つの尻尾の先端から魔法を放ってくる。尻尾の数と同じ九つの炎だ。

 俺はその攻撃を前に進む速度を上げながら躱していく。


「ほいほいっと――まだまだ隙間が大きいぞぉ」


 少し進んだこの場所からなら壊理剣で攻撃を加えることができる――だが、俺はさらに前へと突き進んだ。

 俺をようやく脅威とみなしたのか、九尾は威嚇する様に吠えるとさらに魔法を放ってくる――数は先ほどから一気に増加して三倍に――合計二十七の炎だ。


 俺はその青白い炎の隙間を縫うように駆ける。自分の身体プラス数センチの隙間があるのならば、わざわざ足を止めるまでもない。


「――っと。……これ、こんなに簡単だったっけな……もうちょっと難しくなかったっけ」


 俺は敵の足を白蓮で切りつけて、少々の距離を取る。敵の射程の範囲内ではあるけど、俺にとっては安全地帯だから問題なしだ。

 うーん……九尾はSランクダンジョンのボスでも上位に位置する魔物なんだがなぁ……。

 この世界に生まれ変わってからベノムや『月』のパーティとやりあったし、前回戦った時は他のSランクダンジョンのボスたちとごちゃまぜの状態だったからか、非常にぬるく感じてしまう。


 リンデール王国のわたあめは元々弱かったからあまり気にならなかったけど……これは本当にイデア様になにかテコ入れしてもらったほうがいいかもしれないなぁ。ベノムも他のランカーもいなくなってしまったこの世界じゃ、俺が心から楽しめるような対戦相手は現在いないわけだし。


 今のこの世界の人が育ち切るには、まだまだ時間が掛かりそうだからなぁ。


「まぁ取り敢えず接近戦で回避訓練するか。イデア様が何もしなかったら、完全に無駄な努力になるかもしれないけど」


 そんな風に独り言をぽつぽつと漏らしながら、俺は回避と軽めの反撃を繰り返す。


 そしてやはり、俺は何の苦労を感じることもなく九尾を倒し終えてしまうのだった。






 

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― 新着の感想 ―
[良い点] なくなった [気になる点] だんだんと鼻につくようになってきた。 [一言] この後調子に乗り過ぎた主人公が何らかのピンチにでも陥るなら別だが、このままただ謙虚さがなくなっていくなら今のアフ…
[気になる点] 速度を速めながらより 速度を上げながらの方が重複もなくきれいかと
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