A-60 格闘エスアール
俺、勇者じゃないですから。皆さまの応援のおかげでコミカライズに続き、書籍化することになりました!!ありがとうございます!
発売日はコミックス2巻と同じ4月20日でございます~!
書き下ろしなんかも書いているので、よろしければご覧くださいませ!
ネスカさんとニーズ君にお披露目した一戦目を終え、次は時間をかけることを意識して戦闘を開始した。
さすがにプレイヤーボーナスを全て取得した状態の三次職――しかも白蓮を使っているとなると、攻撃力が彼女と違いすぎて参考にならなかっただろう。だけど手抜き無しで戦うのはやはり気持ちが良いので、俺としてはやらせて貰えて感謝している。
で、二戦目は武器無しの徒手格闘で挑むことにした。戦闘を見せて欲しいと言われた手前、あれだけじゃさすがに申し訳ないからな。
「よっと」
完全回避でもいいのだが、今回は攻撃をいなす方向で勝負を進めることに。
敵の爪に触れないようにしながら、相手の攻撃の勢いを利用し自分の力へと変換する。なんとなく合気道にも似ている気がするけど、俺はそちらをたしなんだ経験が無いので判断は難しい。
回避みたいに得意ってわけじゃないから、はたして見栄えよく彼女たちの目に映っているのかどうかわからないけど……まぁ大丈夫だろ。危なげなく倒せることには変わりないし。
「相手が攻撃に入る動きを見た瞬間に、どのような攻撃がくるのか、どの場所にくるのか、威力はどれぐらいなのか――ある程度予測してこちらも対応する感じですね」
口でそんなことを説明しながら、俺は掌底を敵の肩に打ち込む。
「――で、隙を見逃すことのないようにしましょう。魔物が相手ならば基本的に騙してくるようなこともありませんからね、対人戦はまた別物です」
よろめいた隙に回し蹴りを敵の顎目がけて放った。地球にいたころの身体でやったらまず足が綺麗にここまで上がらないだろうな。というか、三半規管が仕事をせずにふらふらと目を回しそうだ。
最後に踵落としで敵を粒子に変え、俺は四人が待機している場所へと歩いて向かう。
「こんな感じでどうでしょう? 参考になりましたか?」
と、俺はネスカさんとニーズ君に問うが、彼らは茫然とした様子で返答がない。
代わりに俺の仲間たちが声を掛けてきた。
「やはりエスアールは素手でも恐ろしいほどに強いな。きっと初めてみる人はそちらがメインだと言われても信じてしまうぞ」
「うんうん。お兄ちゃんは近接戦ばかりだから、いつの間にか慣れちゃったって感じだろうけどね」
ゲーム時代の俺のことを知っているノアは、見事に俺が素手で戦える理由を言い当てる。彼女の場合言い当てたというか、ずっと見てきたのだから知っていて当然といえば当然なのだが。
しばらくして硬直状態から回復したネスカさんが、まず始めに「すごい」と呟いた。それから感心した様子で頷く。
「私の目には本当に無駄がないように思えました」
「あはは、それはどうもありがとうございます。でも俺としてはまだ改善の余地があると思うんですよねぇ……どうしても剣を主体にしているから、体重の乗せ方がそっち側に引き寄せられちゃって」
さすがにリーチの長さとか当たり前の部分は調整できているけど、細かな部分はまだ良くなる部分が残されていると思う。
剣にしたってそうだ。俺はきっと、まだまだ強くなれる。
「これ以上強くなってどうするんだエスアールは……」
苦笑しながらセラがそんなことを言う。どうするんだって言われてもな……どうするんだろうな? 俺にもわからん。またベノムを倒すとか?
「それは心臓に悪いから止めて欲しいなぁ」
セラと同じような苦い表情でノアが言う。
まぁ命が掛かってますからね。自重しますよっと。
というか勝手に心を読むなや!
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
それからのAランクダンジョンは、俺たちASRのメンバーの一人が護衛役をして、二人が討伐を進めるという形で攻略していった。
ネスカさんやニーズ君は、セラの戦いに見入り、そしてノアの戦いを見て驚愕していた。
そりゃそうだろう。ノアの見た目は中学生かそこらのもので、俺の妹ということになっているし。
そんな感じで明らかに見た目が幼いノアだが、ネスカさんを含むこの国の誰よりも強いのは確実だ。見た目はクソガキでも、いちおう元神様だからな。
そして、ネスカさんが未踏である四層、五層も俺たちは鼻歌混じりに攻略し、ボス戦。
ネスカさんを現在のASRのメンバーと比較するとどうしても弱く見えてしまうけれど、ステータスがきちんと整えばフェノンやシリーには勝ってしまうだろう。彼女の戦闘センスが優れていることは、パルムール王国の代表に選ばれていることからも明らかだ。
「というわけで、ボス戦は一緒にやりましょうか。ボスは一匹だし、他の魔物はこないからニーズ君は安心して観戦していてくれ」
「えぇ……。まぁでも、これまでの戦いを見る感じこちらに被害が来るようなことはなさそうだね」
「だろ? というわけでお留守番よろしく。ニーズ君は陛下から頼まれてるんだから、暇だからって寝ちゃダメだぞ?」
「ダンジョンで眠れるわけないじゃないか!」
「そうか? 案外寝れるもんだぞ」
俺も以前エリクサーを求めてBランクダンジョンに挑んだ時、思いっきり寝てたし。
「あなたが寝ることを勧めてどうする……。それと、エスアールが余裕なのは重々承知だが、少しは緊張感を持った方がいいんじゃないか? もし何かあったら私やフェノンが悲しむぞ――私たちが悲しむところがそんなに見たいのかエスアールは、ん? どうなんだ?」
「僕もだよ! それにきっとシリーも悲しむと思うなぁ」
むぅ。今はまだボス部屋に転移していないんだからいいじゃないか。
戦闘が始まったら俺だって多少真面目にやるよ。
「私からすればお三方とも緊張していないように見え――いえ、やっぱり何でもありません」
ネスカさんが何かを言いかけて、中断していた。
それからなぜか彼女はニーズ君に背中を叩かれて慰められているようだった。