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A-59 とりあえず全力で




「ほうほう……」


 Aランクダンジョン一階層。

 現在ネスカさんは、記念すべき一匹目の魔物と戦闘を繰り広げており、俺たちはそれを後ろで観戦している状況だ。

 敵の見た目はトサカの生えたコモドドラゴンといった感じで、申し訳程度に羽はあるが飛行はしない。爪と牙での攻撃の他、かまいたちのような風魔法を使ってくるのが特徴である。


 敵の魔法を跳躍して回避したネスカさんは、自身の剣で敵の身体を切りつける。

 細かいことを言い出せばキリがないのだろうけど、Aランクダンジョンぐらいならソロで問題なく戦えるだろう――というのが俺の感想だ。まぁ、それもある程度ステータスボーナスを獲得していれば、の話なのだが。


「はぁあああああっ!」


 戦闘が始まってだいたい十五分が経過したころ――ネスカさんの渾身の一太刀が、敵を粒子へと変えた。

 

 なるほどなるほど……レゼルの武闘大会参加者であるヴィンゼット姉弟を見て何となく察していたが、国一番の探索者というのはこれぐらいのレベルなのか。

 この感じだと、例えステータスボーナスが知られていなくとも、迅雷の軌跡が一番強かっただろうな。まだ彼女のパーティの連携を見ていないから、憶測ではあるけれど。


「お疲れ様ですネスカさん。参考になりましたよ」


 息を整えているネスカさんに向けて、俺はねぎらいの言葉を掛ける。俺の横ではニーズ君をはじめ、セラとノアが拍手を送っていた。


「はぁっ、はぁっ――ありがとうございます。しかし私程度の剣術がエスアール様のお役にたてるとは思えないのですが……」


 えらく卑屈だなネスカさん。

 たしかに今回の彼女の戦闘で、俺が取り入れようと思うようなアクションはなかったけど、他の人の戦いというのは見ていて面白い。そして自分の戦闘意欲を沸き立たせる良い燃料となる。


「何を言ってるんですか。ネスカさんはパルムール王国の代表パーティの一員でしょう? もっと自信を持ってもいいと思いますが」


 俺は励ますように明るい口調で声を掛けた。しかしネスカさんは苦笑して、首を横に振る。


「はい。ですがあんな試合を見てしまえば、自分がいかに努力不足なのか理解してしまうのですよ」


「あぁ……闘技場のやつですか」


「はい、そうです」


 この世界の人にとっては俺と『月』の試合はさぞ異次元のレベルに見えただろうなぁ……。使っているスキルも謎だろうし、力、速さなどのステータスも彼女たちとは大きく離れている。

 さらに俺や『月』は、Sランクダンジョンのボスを容易く屠ることができ、その上のSSランクダンジョンをもクリアしたような探索者だ。

 彼女たちが競い合ってきた人たちとは、くぐってきた修羅場の数も段違いである。


 俺もテンペスト駆け出しの頃は、上位勢の動きが理解できなかったしな。きっと彼女が感じている感覚も、あの時の俺と似たようなものなのだろう。


「まずはレベル上げ。そしてひたすらダンジョンを周回していたら、ネスカさんはもっともっと強くなれますよ。でも死んだらそこでおしまいですから、無理だけは禁物です」


「そうだぞ! 危険な真似をしては絶対にダメだからな!」


 俺の言葉のあとに、やや自慢げに胸を逸らしてセラが言った。


 懐かしいな……その言葉。この世界に来てまもないころ、俺はセラに「危険な真似をしない」と約束してもらったことがある。

 今でも彼女はその時のことを覚えているだろうか?

 ……セラのことだ。自信満々に「当然! 覚えているとも!」とか言いそうだな。


 ネスカさんは俺やセラの言葉を受けて、「わかりました!」と元気よく返事をする。

 なんだか新兵を鍛えているような感覚になってしまう。いちおう彼女、パルムール王国の代表なんだけどな。


 閑話休題。


「よし、じゃあこっからは俺たちでやるかぁ。ノアは……どっちでもいいとして、セラはしっかりと新しい魔物に対応できるよう勉強しないとな」


「了解した!」


 と、良い声でセラが返事をしたあとに、


「――ちょっ、僕もやるから! 妹なんだからお兄ちゃんがしっかりと指導してよ!」


 ノアが不満を前面に押し出したような表情で抗議の声を上げる。

 そういえば妹っていう設定だったなこいつ。元神様だったりクソガキだったり肩書がたくさんあって大変だ。


「最後のは肩書じゃないからねっ!?」


 隣でピーピーと鳴く自称妹を宥めるために、頭をぽんぽんと軽く叩いているとネスカさんがおずおずと声を掛けてきた。


「もし可能であれば――なのですが、私はエスアール様が一人で戦っているところを拝見したく思います。自分が戦った相手をエスアール様ならばどのように倒すのか、ぜひとも見てみたいのです」


 もちろん、無理にとは言いません――そう最後に言葉を足して、ネスカさんは頭を下げる。


 うーん……別に頭を下げられなくとも、それぐらいならば何も問題ないんだがな。むしろ彼女が何も言わなくとも、俺が自分から魔物に突っ込んでいく可能性は十分にあった。

 なんといっても、つい先ほどネスカさんの戦闘を見たばかりだし、現在の俺は闘争本能をバッチリ刺激されているからな。


「もちろん大丈夫です。技を見せる感じと、全力と、どちらがいいですか? ――お、ちょうど魔物が来ましたね」


 ネスカさんに問いかけていると、進行方向の先から足音が聞こえてくる。薄暗いから姿はまだ完全に見えていないが、うっすらと見えるシルエットでそれが魔物であると判別できた。


「せ、選択肢があるのですね……。で、ではとりあえず、全力のほうで」


「了解です!」


 ネスカさんに返事をしてから、俺はノアとセラに「二人をよろしく」と目配せする。読心術を使えるノアはもちろん、付き合いの長いセラも理解したように頷いた。


 俺は白蓮を片手に、魔物との距離を躊躇うことなくスタスタと詰めていく。やがて魔物はこちらの存在に気付き、唸り声を上げながら駆け出してきた。


 まるで熊のように両手と口を大きく開けて襲い掛かってくるモンスター。


「遅いなぁ」


 さすがはAランクダンジョン。あくびが出そうになるようなトロさだ。


 俺は身体強化を発動しつつ魔物の攻撃を斜め下にしゃがみこみながら避け、立ち上がる際に白蓮を敵の腹目がけて振り上げる。そしてすぐさまその場で一回転し、魔刀である白蓮の特殊効果――白煌が発動している傷跡の残る部位を再び切り付けた。


 たったそれだけで、敵は粒子へと変わっていってしまう。

 

 敵の弱点はうろこの薄い腹。さらに俺はステータスが高いし、白蓮はSランクダンジョンの激レアドロップ品に設定されているほど強力な武器だ。


 Aランクダンジョン一階層の敵など、五秒も時間を必要としない。

 それでもAランクダンジョンの攻略に時間が掛かってしまうのは、単純に魔物の数がそこそこ多いことと、一層一層が広いために魔物を探すのに手間取ってしまうからだ。


「とまぁ、こんな感じですかね」


 俺は後ろを振り向きながら言う。

 そこには、ポカンと口を開けているニーズ君とネスカさんがいた。




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