A-58 Aランクダンジョン
王都を出発してから、約三時間後。
俺たちは目的地であるアルディアへと到着した。
この街からのアクセスは、Aランクダンジョンへは徒歩15分程度。Sランクダンジョンへは馬車で20分程度といったところだ。
CランクやDランクダンジョンはそれらよりもさらに近い距離にあるのだが、今回は特に用事がないので潜らない。
街に入った俺たちは、いったんそれぞれ別行動をすることになった。
ニーズ君とネスカさんはこの街を治める領主に挨拶にいき、俺とセラ、そしてノアの三人は兵士の案内により宿屋に向かった。
俺も領主様に挨拶にいったほうがいいのだろうかとも思ったけど、ニーズ君が「エスアール君たちはゆっくりしてなよ、嫌いなんでしょ? こういうの」と、とても気づかい溢れる言葉をかけてくれたので、ありがたく、その厚意に甘えることにしたのだ。
現在、俺を含むASRの三人は宿の一室で集まり、だらだらと時間を消化しながらニーズ君たちが迎えに来るのを待っている状況だ。30分ぐらいで戻ると言っていたから、もうそろそろやってくるころだろう。
「今回の攻略に関して、何か予定などはあるのか?」
備え付けの椅子に座って足をプラプラと動かしていると、ベッドに腰掛けているセラが声をかけてきた。
予定かぁ……あんまり考えて無かったなぁ。
「ネスカさんはともかく、ニーズ君の護衛は絶対に必要だろ? Aランクに潜る時は誰か一人が護衛についておけばいいかな。Sランクはセラとノアに護衛してもらって、俺一人でやるよ」
「それがいいかもねぇ。ネスカには戦わせないのかい?」
「もちろん戦わせる。パルムール王国のトップがどんなもんか見てみたいし、ネスカさんもAランクの下のほうなら経験済みだろうからな」
いつものパーティメンバーではなく、ソロで戦ってもらうことにはなるが……まぁ大丈夫だろ。いざとなったら助けに入ればいいし。
ネスカさんの実力はどれぐらいなんだろうなぁ、と考えていると、セラがおずおずと手を挙げて発言したそうにこちらを見てみた。「どうぞ、セラ君」と教師っぽく言ってみる。
「エスアールは馬車の中で『レベル上げしたい職業で』という話をしていただろう? 二次職後半のステータスならば問題ないだろうが、レベルの低い職業だった場合はどうするんだ?」
「おぉうっ! たしかにそうだったな!」
やばいやばい、すっかり忘れていた。
そうなってくると、さすがに一人で戦わせるのはマズいかもな。ダンジョンの探索者って俺にとっちゃ華やかな仕事だけど、いちおう命がけだし。
「じゃあネスカさんに戦わせる時は、俺が主体で彼女に補助をやってもらおう。危なくなりそうなら俺が庇えるし、ずっと戦ってもらいたいわけじゃないから問題ないだろ」
本来の目的は彼女やニーズ君にAランクとSランクの中身を知ってもらうことだ。
いくら協力している立場とはいえ、俺の願望で振り回すのも限度があるだろうしな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「自国のAランクダンジョンだからわかると思いますが、こういう洞窟ステージは前後さえ警戒しておけば問題ありません。だけど挟み撃ちに合うと逃げにくくなるからそのあたりは注意ですね」
Aランクダンジョン一階層。
やや装飾過多に見える鎧を身に着けたニーズ君の両隣には、セラとノアが着いている。
一見すると両手に花なのだが、片方は俺の嫁さんで、片方は元神様である。そしてなにより、ニーズ君はそんなこと気にする余裕がないほどに緊張しているように見える。
彼にとっては初めてのAランクダンジョンだし、そうなるのも無理はないか。
「二階層と四階層は飛行をする魔物で、移動速度も速いです。こいつらの場合は挟まれるというよりも、死角からの攻撃に警戒しておけって感じですかね。遠距離攻撃もしてくるし、集中していないと音も聞こえ辛いですから」
ダンジョンをのびのびと歩きながらそんな説明を垂れ流していると、隣を歩くネスカさんが申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「……えっと、私の記憶が正しければ、このダンジョンの最高到達階層は私たちのパーティだったと思うのですが……もしかしてエスアール様は以前もここに?」
おおう、また何も考え無しに話してしまった。危ない危ない。
彼女の反応から察するに、四層まで到達した経験がないということだろうか? それとも二層もまだなのか?
「それはまぁ……秘密ということで。ネスカさんたちのパーティはどこまで行ったんですか?」
「私たちはまだ三層止まりですね」
俺の問いかけに、ネスカさんは周囲を警戒しながら答える。良い緊張感だ。だけど後ろはセラとノアが警戒しているから大丈夫だと思うぞ。
なんにせよ、それならば一階層の敵に対しての戦闘経験は十分にありそうだ。今回のダンジョン探索は武闘剣士で来ているようだし、レベルも50を超えていると言っていた。
「入る前に言ったように、ネスカさんの戦うところを見てみたいんですが、ひとりでいけますか? 難しそうならば加勢しますけど」
嫌がる相手に無理強いはしたくない。
本人が乗り気でなければ見てもあまり意味がない気がするし、これを機に嫌われても困るし。
「……やります、やらせてください!」
俺の不安をよそに、ネスカさんは気合十分と言った様子で、手に持つ剣を強く握りしめた。
俺は教官じゃないんだがなぁ……なぜ新兵が初めて仕事を任された時みたいに威勢がいいのか。
まぁ彼女はもともと前衛職みたいだし、少し心配だけど最初は見守ることにしようか。
「了解です。じゃあ敵に遭遇したら俺は下がりますので、よろしくお願いしますね」
念のため、戦闘が始まったら白蓮を持って身体強化を発動しておこう。
さすがにこれで大けがされたら罪悪感で押しつぶされてしまいそうだからな。