A-52 竹とんぼ
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俺たち――というよりも、俺の姿を見て硬直してしまったネスカさんは、口をあわあわと動かしたかと思うと勢いよくその場に正座し、地面に頭をこすりつけた。
「お、おおおおお恥ずかしいところをお見せしました! そ、その、ギルドでも挨拶することもできず申し訳ございません!!」
床に向かって震える声で叫ぶネスカさん。彼女のパパさんは茫然と立ち尽くした状態で、娘の土下座を眺めていた。いやもう本当にやめていただきたい。彼女は何もしてないだろうに。
静まり返った店内に、こちらの様子など知りもしない子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。あちらはメンコで盛り上がっているらしい。俺もそっちに混ぜてくれないか。
セラたちはネスカ親子を苦笑しながら眺めているが、特に口を挟むつもりはないようなので、仕方なく俺が対応することに。
「あの、まずなんでそんなに謝ってるんですか? とりあえず頭を上げて――というか普通にしていてください。別に俺たちはネスカさんのことを不愉快に思ったりしてませんよ」
「――っ!? 私の名前をご存知でっ!?」
「何度か耳にしましたし、さっきギルドで顔を見たばかりですからね。そちらこそよく気付きましたね? 一応軽く変装はしているんですけど」
そう言って自分の前髪を指先でくるくると巻いてみる。さすがに髪色だけじゃ顔を知っている人には気付かれるか。
「それは勿論です! あの天上の試合は限界まで瞼をこじ開けて眺めておりましたし、夢にもでてきますのでエスアール様のご尊顔は見間違うことはありません!」
「ご尊顔って……そんなに持ちあげなくてもいいですよ? フェノンとかセラは貴族だからもしかしたら必要――「「大丈夫」です」――ないらしいですから、普通に探索者として接してくれたらこちらとしても堅苦しくなくて助かります」
俺がそう言うと、ネスカさんはこちらの顔色を窺うようにしながらも、ゆっくりと立ち上がる。そしてもはや反っていると言ってもいいぐらいに背筋を伸ばし、指の先をピンとのばして気を付けの姿勢。
「……兄ちゃんがエスアールなのか? あのASRの? ってことは後ろの嬢ちゃんたちは――」
店主であるパパさんは、マネキンのように固まってしまった娘から俺たちへと視線を移す。
「メンバーのセラ、フェノン、シリー、ノアですね」
「ま、マジかよ――剣姫に第一王女……」
そう言って、そのままパパさんはフリーズ。
その固まって動かなくなった二人の姿を見て、俺は思わずクク――と笑ってしまう。似た者親子だな。
きっと色々な事が重なって、脳のキャパシティが限界に近くなってしまったのだろう。特に店主の方は敬語が苦手って言っていたし、ちょっと可哀想になってきたな。
ということで、ちょっとだけ助け舟を出すことに。
「フェノンもセラも、別に丁寧な言葉はいらないよな? それともやっぱり貴族的にはマズイか?」
「いえ、現在は探索者としてパルムール王国を訪れておりますし、周辺に大勢の人がいる状態ならまだしも、ここは私たちしかいないですから。そもそも変装中ですので問題はありません。それに、エスアールさんはこういうのあまりお好きじゃないでしょう?」
まずニコニコと可愛い笑顔のフェノンがそう答え、
「私も別にいいぞ。だ、だだ旦那様の意向に従おうじゃないか!」
と、やや耳を赤くしてセラが答える。
照れるなら無理に言わなくてもいいんだが……まぁそういうところも彼女の良いところなのだと思うけど……とにかく二人とも可愛いです。
「ま、そういうことらしいんで、変に気を遣わなくていいですよ。特に俺は元から平民ですし、あまりこんな風に言われるの慣れてないですから」
頭を掻きながら、二人にそう伝える。
ガチガチに固まった親子にはたしてちゃんと伝わっているのかは疑いの余地が残るところだが、おそらく大丈夫だろう。パパさんの方はなんとか「あ、ああ」と返事をしてくれたし。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ほどなくして石化状態から回復したネスカさんと店主――ログさんは、俺たちに向かって『せめてこちらに敬語は止めてくれ』ということで落ち着くことに成功した。
俺たちリンデール組は、彼らが冷静になるのを待つ――必要は特にないのかもしれないけど、ひとまず店内を見させてもらうことにした。あまりゆっくりする暇がないのだから、時間は有効活用すべきである。
「おぉ! 竹とんぼかぁ! 懐かしいなぁ」
並べてあったその遊び道具を手に取り、俺は顔の前に持ってきてじっくりと眺める。
綺麗に手入れがしてあるし、怪我しないように角も丸めてある。子供が扱うことが多いだろうから、その辺りは注意してるんだろうな。
俺が人差し指と親指で挟んでくるくると回していると、セラが興味深そうに俺の手元を覗き込む。
「ふむ……たしかこれを回すと浮かび上がるんだよな?」
「そうそう。いい仕事してるよなぁこれ。綺麗に磨かれてるからつるつるしてるわ」
そう言って俺は羽の部分を指で撫でる。セラも俺を真似してか同じように人差し指で羽をなぞった。
「……本当だな。ちょっと試してみてもいいか?」
キラキラと目を輝かせるセラに、俺は「店内だから危なくないように、ちょっとだけな」と一声かけてから竹とんぼを手渡す。さすがに飛ばし方は知っていたのか、彼女は両の掌を合わせ、その間に竹とんぼの持ち手部分を挟んだ。
そして、
「――それっ!」
壊れた。
それはもう綺麗にばらばらに砕け散った。
彼女は力加減をしたつもりなのかもしれないけど、予想よりもSTRが無駄に仕事をしてしまったらしい。竹とんぼはバキィ――と音を立て、店内のいたるところに飛び散っていく。
ネスカさんとログさん、そしてウチのパーティメンバーもびっくりした様子で被告人に目を向けた。俺は苦笑いを浮かべて、服に飛んできた破片をぱっぱと掃い落とす。
「…………うぅっ」
その本人はというと、目尻に雫を浮かべ助けを求めるように俺を見ていた。その表情はまさしくおもちゃを壊してしまった子供そのものである。『どうしよう』という心の声がはっきりと聞こえた気がした。弁償だよ弁償。
これで『剣姫』なんて呼ばれてるんだからな……彼女を憧れにしている人が見れば、大きく印象が変わることだろう。
うん。俺の嫁さんは少し抜けているが、とても可愛い。
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