A-48 依頼の内容
「ではパルムール王国からASRに、一つ依頼をしてもいいか?」
唐突に、そして楽しそうな表情を浮かべながらそう言った陛下に対し、俺は面倒くさそうな雰囲気を感じ取りながらも「と、いうと?」と質問を返した。内容もわからないのにそう易々と答えられるわけがないからな。
しかし、なんとなく会話の流れから予想はできる。
ヴィード陛下がその前に言った『パーティの誰かが欠けても』というのはつまり、人数上限に達しているASRに誰かを加えたいのではないか――ということだ。
そして、その予想は当たっていた。
「私としても隔絶した強さを誇るそなたに無理を言うつもりはないし――言えるとも思っていない。可能であれば我が国の国際武闘大会参加パーティである『紅ノ剣』のリーダーであるネスカ、そして息子のニーズをSランクダンジョンへ連れていってはくれまいか? 無論、報酬はきちんと用意する」
「え、えぇ!? 王子をですか!?」
ネスカさんについてはシンから軽く話を聞いた事があった。なんでも、武闘大会の試合のことで俺のことを褒めてくれていたらしい。
国の代表になるぐらいだし、派生二次職が広まってからそこそこ時間は経っている。彼女ならばAランクダンジョンはともかくBランクダンジョンぐらいは踏破しているだろう。
ただ、王子がどうして!? 何かあったら絶対やばい奴だろ! いや、フェノンも王女様なんだけどさ!
動揺しながら王子であるニーズ君の方を見ると、なぜか彼は俺以上に目を見開いていた。
「なんで僕なんですか!? まだBランクダンジョンすら行ったことありませんよ!?」
どうやら彼も初耳の内容らしい。この青年は両親に振り回されてばっかりだな。可哀想に。
俺以上に心を揺さぶられているらしいニーズ君を眺めていると、逆に落ち着いてきた。頭の中であれこれと考えながら、家族のやりとりを見守ることに。
「王族として自国にある脅威の程度は把握しておくべきだろう」
「でしたら父上が行くべきでは?」
「老い先短い私やセレスが同行するよりは、次期国王であるニーズが行くべきだ。自分の目でどれほどの難度か見極めておくことで、探索者たちに無理な依頼をせずにすむはずだ」
「それはそうかもしれませんが………………いえ、確かに見ておくべきですね」
しばしの葛藤を挟んで、自らを納得させたニーズ君は、俺たちASRの方に向き直った。
「申し訳ありませんが、私は護衛されてレベルを上げただけの軟弱者です。たしなみ程度で剣を握ったことはありますが、ハッキリ言って探索者の方々の足元にも及ばないでしょう。しかもBランクダンジョンの踏破もしていないため、Sランクダンジョンへ向かうためには順を追ってダンジョンを攻略しなければなりません。それでもお願いできますでしょうか……?」
そう言って彼は、この国の頂点に立つ王族とは思えないような真摯な態度で頭を下げる。さすがに90度腰を折るとまではいかなかったものの、確かに彼の気持ちは俺を含む仲間たちにも伝わったと思う。
「顔を上げてください、ニーズ様。この国にも噂が流れているかもしれませんが、俺はSランクダンジョンを一人で攻略した経験があります。しかしニーズ様と……それからネスカさんでしたか? あなた方に護衛を付ける必要もありますので、さすがに三人連れていくとなると面倒くさ――難しいと思いますが、二人でしたら大丈夫ですよ」
とりあえずニーズ様にそう答えてから、俺は横に座る面々に「受けていいか?」と問いかける。
「エスアールが良いなら私はいいぞ。護衛は任せてくれ」
「私も一緒に行きたいです!」
「僕も僕も! 残されたら暇だもん!」
「あ、あの! 私も是非!」
セラ、フェノン、ノア、シリー。全員が了承の返事というか、前のめりに参加の表明をしてくる。そのこと自体はありがたいが、二人しか入れないんだっての。まぁダンジョン毎に入るメンバーを変えれば文句も少なくすむかな……。
「まぁそこは話し合いだな……とりあえず今日のうちにBランクダンジョンを済ませて、明日はネスカさんも入れてAランクに行って、明後日がSランクかな。……あ、そちらの都合はいかがでしょう?」
自分たちの都合で勝手に予定を組もうとしていたことに気付き、慌てて陛下に問う。彼は興味深そうに俺たちを見て何度か頷くと、口を開いた。
「うむ。もともとそなたらのために数日は予定が入らないよう手配しておった。ネスカには話を通していなかったが、おそらく大丈夫だろう――しかし下手すれば命を落とす最高難度のダンジョンに挑むというのに、臆する者が一人もいないとは……レベルの違いを感じてしまうな」
「ははは……」
実際各職業のレベルの合計でいうと、俺とこの国の住人とじゃめちゃくちゃな差があるからな。愛想笑いしかできんわ。100レベルの表記を見せただけでも腰を抜かすんじゃないだろうか?
あ、そういえば――、
「お願いが一つありまして、できれば僕らがダンジョンに入る時、受付でステータス提示の義務を無くして欲しいんですよね。街中では変装していても、受付でバレたら面倒ですし」
せっかくだから他のメンバーのレベル上げもしておきたい。俺の職業覇王は世界中に知られてしまっているが、その時に例えば『魔王レベル68』とか見せたら絶対騒ぎになるだろう。この世界ではまだ三次職を確認したのは迅雷の軌跡だけってことになっているし。
「承知した。私からも一筆したためておくが……一応王都のギルドマスターにも顔を見せてやってはくれないか? ネスカに当てた手紙も用意するから、一緒に渡してほしい」
陛下の言葉に対し、俺はしっかりと頷く。
「わかりました。じゃあこの後、ギルドによってからBランクダンジョンに向かうとしましょう」
「私も急ぎ準備にとりかかりたいと思います」
ニーズ君はそう言うと、一礼してから部屋を退出していった。
さてさて、Bランクダンジョンならさくっと終わるだろうし、その後はみんなで街の観光でもしようかね。




