A-34 目標達成
Sランクダンジョンの五階層。
この階層にいるすべての敵を倒し終えたところで、ついに剣聖のレベルが100に到達した。仲間が一緒にいれば共にはしゃいでいたかもしれないが、現在は単独での探索であるゆえ、ひとり達成感を噛みしめていた。
静けさが満ちる雪のステージで、俺は自分のステータスを表示していた。
☆ステータス☆
名前︰SR
年齢︰20
職業︰剣聖
レベル︰100
STR︰SS
VIT︰SSS
AGI︰SS
DEX︰S
INT︰SS
MND︰SSS
スキル︰気配察知 二連斬 見切り 威圧 飛空剣 逆境 俊足 防御貫通 幻影剣 壊理剣 武の極致
スキルの欄には、懐かしき――そして念願の『武の極致』が表示されている。
ステータスの上昇に関してはもはやどうでもいい。覇王にしてしまえばどのみちオールSになるし、欲しいステータスは指輪やら装備品でいくらでも調整可能だ。
「過剰すぎる気もするけど、上があるなら目指さないとなぁ。だって男の子ですし」
精神年齢は完全におっさんであり、現在の年齢も20歳になってしまったけど……男の子なんです!
はぁ――俺はいったい誰に言い訳してんるんだろうか……。
武の極致の効果は、AGI及びDEXが二割増し。加えて、飛空剣などの武技系スキルで発生する硬直時間が半減するというものだ。飛空剣や壊理剣で言えば零コンマ8秒の硬直があるが、これが零コンマ4秒になるということ。
まぁ、そっちはいいとして――だ。
「いよいよ踏破だなぁ」
すでに迅雷の軌跡やパーティメンバーたちには『レベルが100になり次第踏破する』という話をしている上に、昨日、フェノン経由でディーノさんにも『エスアールがSランクダンジョンを一人で踏破する』という話をしている。
その為、昨日からダンジョン前には騎士団の人が常駐している状態だ。騎士団やディーノさんからすると、にわかには信じがたいが、第一王女であるフェノンの言葉を無視するわけにもいかない――ってところだろう。
彼らには大いに驚いてもらい、そして証人になってもらわないとな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ぐぐっと伸びをしながらダンジョンから出てくると、そこにはセラたちASRのメンバーと、鎧を身に纏った騎士が三人。空は家に帰ることを促すように、綺麗な茜色に染まっている。
別行動ではあるが、今日はセラたちもSランクダンジョンに潜っていた。俺を待つついでに、騎士団の人たちと談笑していたみたいだ。
「おかえりー!」
まだ少し距離はあるが、ノアがこちらに気付いて手を振ってくる。相変わらず元気だなぁこいつは。
それに続いて、セラやフェノン、シリーもそれぞれ「お疲れ様です」や「どうだった?」などと声を掛けてきた。騎士団の人たちは、俺に軽い会釈をしてくる。
俺も右手を上げてそれに応じ、近くまできたところで口を開いた。
「お待たせ。一応目標は達成してきたぞ――騎士団の皆さん、はいこれ。確認お願いします」
俺はライセンスカードをインベントリから取りだし、皆に見えるように差し出した。
おそらく三人の中で一番立場が上であろう人が、訝し気な表情を浮かべながら「拝見します」と言い、カードに顔を近づける。
そして――、
「…………お、おいポルト。すぐに――すぐにディーノ様へと連絡を! ASRのエスアール殿が、Sランクダンジョンを一人で踏破された! これはとんでもないことだぞっ!」
目を見開き、カードから目を離すことなく指示を出していた。
ポルトと呼ばれた人物は、大きな返事をした後、慌ただしく通信の魔道具を取りだしていた。一度魔道具を地面に落としているあたり、本当に慌てていることがわかる。
「おぉっ! ついに、だな! 私たちもエスアールが帰ってくる前にカードを見せておいたからな。『実は一緒に入っていた』などと疑われることもあるまい」
ふふん――と、やや誇らしげに胸を反らしながらセラが言う。
「まぁ発案は僕なんだけどね」
「わざわざ言わなくていいのに……」
いや、そんな手柄の取り合いなんかしなくていいだろ。どちらにせよ感謝してるよ。
そんな二人のやりとりを見ながら肩を竦めていると、スッと流れるような動作でフェノンが俺の右腕をとった。俺の腕を胸に押し付けるようにしながら、ギュッと抱きしめる。
はい、ただいま私のIQは3になりました。何も考えられましぇん。
「お疲れですよね、エスアールさん。ひとまず今日は帰りましょう――貴方たち、私たちは王都へ帰ります。もしエスアールさんに用事があるのであれば、明日以降になさい」
有無を言わせぬようなきびきびとした口調でフェノンが言うと、騎士団の人たちは「「「はっ!」」」と姿勢を伸ばす。
「ありがとな、フェノン――あぁ、騎士団の方々、どこかに新たなダンジョンができていないかの捜索もお願いできますか?」
「かしこまりました! 上に伝えておきます!」
よし。あわよくばと思ってお願いしてみたが、すんなりとオーケーを貰えたな。
またベノムが出現するとは思えないが、一応念のためということで。
「新たなダンジョンはできるんでしょうか?」
シリーがバタバタしている騎士団を眺めながら、独り言のように呟く。
「どうだろうなぁ。まぁ今の俺には反則級の職業があるし、心配はしてないけど」
もし出てきたとしても、覇王職を得た俺ならば特に問題はないと思う。
それに新たにダンジョンが出現するとしたら、それは完全なエンターテイメントになるはずだ。そうなると、あまり強すぎる敵は出てこないはず。
なにせ、もはやベノムの封印やら破壊神の討伐などはこの世界に必要ない。
新たなダンジョンができるとしたら、それはのじゃロリ様がこの世界を良い方向へと導くためのものでしかないのだから。
そう。
俺はまだこの時、そんな暢気なことを考えていたのだ。
まさか、のじゃロリ――イデア様が俺のために、存分に戦える敵――ベノムよりはるかに強いパーティを用意しているとも知らずに。