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A-32 新居の朝




 結局、その日俺は一歩も家から外に出ることなく一日を過ごした。ほぼ家族同然と思える使用人の人たちと交流を深めつつ、新居の細かなところまで探索させてもらった。探索者だからな!


 元宿屋があったような敷地であるため、部屋数は十分すぎるほどある。そして上物は一から作り直したため立派な金持ちっぽい家が仕上がっていた。日本の避暑地でもこれほど豪華な別荘にはなかなかお目にかかれないだろう。プールとかはさすがにないけども。


 夕食を終えると、セラやフェノンをそれぞれの家に送り届けるため騎士団の人たちがやってきた。もちろんフェノン担当であるシリーも一緒だ。

 セラとフェノンの二人はやや不満そうな表情を浮かべつつ、そしてシリーは名残惜しそうにしながらも、「朝食後にすぐ参ります」と言葉を残してパーティハウスを後にした。


 そして、夜。

 迅雷の軌跡や使用人たちも各自の部屋で落ち着き始めた頃――、


「Sランクダンジョンが解禁されたら、他の三次職もレベル100にしておきたいなぁ」


 俺は自室のベッドでうつ伏せに横になり、顔だけをソファに座っているノアに向けていた。

 彼女は俺の言葉を聞いて、「別に禁止されてるわけじゃないでしょ」と苦笑する。


「まぁそうなんだけどさ。Sランクダンジョンを踏破したら間違いなく世間も騒ぎ出すだろ?」


 Bランク、Aランクを踏破した時のことを考えれば、その未来は用意に想像できる。


「うーん……それはSSランクダンジョンが新たに出現したら、じゃない? 今のところSランクダンジョンで終わりなのか、続きがあるのかはわからないんだし。新たにダンジョンが出現しなければみんな気付かないよ?」


「あぁ……そういえばそうか」


「でもさ、どちらにせよレベル上げだけなら別にいいんじゃない? 踏破しなければ先には進まないんだし、お兄ちゃんは剣聖だけでもレベル100にしておきたいんでしょ?」


 ぐぐっと背伸びをし、それからあくびを交えながらノアが言う。


「もし試合のお披露目があるんならな。剣聖だけならあと三ヶ月ぐらいあればなんとかなりそうだし」


 もし他の職業も――となるのであればさすがに年単位の話になるが、攻撃特化の剣聖ならばレベル上げもやりやすい。少しレベルも上げているし、剣聖レベル100で得られる『武の極致』は取得しておきたいのだ。

 なぜそのスキルがお披露目に必要なのかというと、圧倒的な力で周囲に認めてもらうため――というのも理由の一つではあるが、やはり婚約者たちにはいいところを見せたいからな。


「そのお披露目がどういう形になるかまだわからないんだけどね。もしかしたらSランクダンジョンの踏破だけでもオッケーかもしれないよ?」


「なんだかそれはそれで寂しい気もするな。拍子抜けだわ」


「ふふっ、お兄ちゃんらしい考えだね。どうせなら新たな難関ダンジョンが出現してほしい――なんてことを考えてるでしょ? 心を読まなくてもわかるよ」


「よくおわかりで」


 こいつは俺のことをゲーム時代から観察しているわけだし、もしかしたら俺以上に俺に詳しいのかもな。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 翌朝。

 見慣れない天井を視界に入れつつ起床した俺は、軽く身だしなみを整えてから窓から王都の街を眺めていた。

 三階建てであり、そして誰の意向かはしらないが周囲の建物よりやや高く建築されているため、王都の街を遮るモノなく眺めることができる。


「まだ慣れないなぁ」


 まだ二日目だし当然か。

 いつかはこの家が実家のように感じる日がくるのだろうけど、まだまだ先だろうな。


 そんなことを考えつつ、窓の桟に肘を突いてぼんやりとしていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。

 返事をすると、シリーの姉であるアイネが「失礼します」と入室してくる。


「おはようございます、エスアール様。朝食の準備ができておりますので、お顔を洗いましたらダイニングへお越しください」


 メイド服をきっちりと着こなす彼女の容姿はシリーと瓜二つ――とまではいかないが、姉妹ということがわかる程度には似ている。

 シリーの髪色は家系の遺伝らしく、両親、そしてアイネも同様の黒色だ。頭の後ろでまとめてある髪の毛は、解けばおそらく背中のあたりまでの長さがあるだろう。


「おはようございます。他の人はもう起きてますか?」


「ノア様はお腹が空いていたようで、すでに席に着いて食事をしております。迅雷の軌跡の方々はゆっくりと起床なさるそうなので、先にエスアール様の下へ参りました。あと――昨日も申しましたが、私共に敬語はおやめください。使用人にすら逆らえない気弱な人物――などという悪評がたつこともありますので」


「あぁ……そうだったな。言いたい奴には言わせておけばいいと思うんだがなぁ」


 面倒くさい。話し方ぐらい自由にさせてくれよ。


「ふふふ、人を差別しないのはエスアール様の素敵なところの一つだとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します。妹の想い人と親しくなりたい――という気持ちもありますから」


 昨日のシリー家の様子からある程度予想はできていたが、どうやら家族も知っていたらしい。

 シリーが自身で暴露したのか、それとも家族が勝手に予想しているのかはわからないけども。


 ひとまず、笑って誤魔化すことにしとけばいいか。


「ははは、仲良くしたいのは俺も一緒だよ。身内ばかりだし、俺は大きな家族みたいなもんだと思ってるから――あぁ、ひとつ大事なことを話しておこう」


 もう別に隠す必要はないのだし、いきなりだと彼女達もびっくりするだろうから「いまはまだ他言無用だからな」と前置きして、俺は今後の計画について話した。


 陛下たちに認めさせるため、Sランクダンジョンを一人でクリアすること、それでもダメだったら迅雷の軌跡たち――もしくは武闘大会の参加者であるヴィンゼット姉弟やセラとの試合を考えていると。


 話を聞いたアイネは、案の定、目を丸くして固まってしまった。


「それは……失礼を承知で申し上げますが、あまりにも無謀なのではありませんか? エスアール様が誰よりもお強い方であったとしても、さすがに前人未到のダンジョンを一人でなど……」


 彼女がそう思うのも仕方ない。それほどまでにこの世界の人はまだ育ってないからな。


「――ほら、見てみな」


 そう言ってから俺は、ステータス画面を表示。


 不安そうにしている彼女に見えるように、覇王以外の職業をウィンドウに表示させていった。当然、職業と同時にそのレベルも表示される。100や90という数字は、アイネはまだみたことがないはずだ。

 二次職、派生二次職、三次職と順番に見せていくと、彼女は俺の肩に顎を乗せるような距離で、ごくりと唾を飲み込んだ。


 そしてようやく口を開いたかと思うと、


「エスアール様はもしや、か、神様――?」


 震える声でそんなことを言っていた。どうしてそうなる。


「違うわ! 知識と経験があるだけで、()()アイネたちと同じ人間だ。みんなも時間をかけてダンジョンに通えば到達できると思うぞ」


 ちなみに神様なら、いま下のダイニングで飯食ってるよ。



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