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A-8 両手を上げろ!




「これは嫌な視線の浴び方だなぁ」


 パレードの時間が近づくに連れて、城下町を歩く人の数も徐々に増えてきていた。だが、朝方のまだ人が少ない時間よりも、現在のほうがまだ歩きやすい。原因は考えるまでもなく、俺の背に担がれた白シャツの男である。


 ちょっとした手違いで卑猥な縛り方になってしまっているが、セラたちは『不思議な縛り方』という認識だし、とりあえずセーフということで。

 ノアだけはニヤニヤしながら「よくそんな縛り方を知っているね」と言っていたので、強めの手刀を振り下ろしておいた。


「ズタ袋にでも入れたほうが良かったんじゃないか?」 


 縄を噛みしめながら唸っている男を横目で見つつ、セラが言った。


「こいつが入るような大きい袋持ってねぇよ……それに、どうせそろそろ着くだろ」


 最初にこの白シャツの男を捕えてから、だいたい十五分ぐらい歩いただろうか。

 ノアの読心術を頼りにスリ集団のたまり場を目指して街を歩いていたのだが、その短い間だけでも、俺たちはスリを十人以上捕縛している。いくらなんでも多すぎだろ。


 騎士団の人たちはライレスさんから俺たちが警備に加わっているということを知らされていたようで、すんなりと窃盗犯の受け渡しはできたが、皆が皆、不思議そうに首を傾げていた。


 それもそのはず。


 だって俺たちがライレスさんに頼まれていた仕事って、街中で起こったケンカを収めることだし。

 もし今ライレスさんに見つかったらややこしくなりそうなので、見つからないうちに全てを終わらせてしまいたいところだな。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「……ここみたいだね。中にいる人たちは全員()()だよ。地下にたくさんいるみたいだ」


「地下まであんのか……」


 たどり着いた場所は、いたって普通の宿屋。

 しかもまったく見知らぬ場所というわけでもなく、そこは俺とノアが先日訪れたばかりの宿屋だった。その時は部屋が埋まっているということで別の宿に泊まることになったが、まさかスリ集団のアジトだったとは。


 ここまでの道のりを示してくれたスリの男は、通りにいた二人組で見回りをしていた騎士団の人に引き渡した。場所さえわかれば用済みだからな。


「ノアは前に来たときに気付かなかったのか?」


「僕も周囲の声を全部拾っていたら頭がパンクしちゃうからね……気付けなくてごめん」


 ノアはそう返答しながら、まるで叱られた子供のように顔を俯かせる。

 その元管理者様とは思えないような姿を見て、俺はため息を吐きながらノアの頭に手刀を振り下ろした。先程スリの縛り方をからかわれた時よりも軽く。


「非難するつもりで言ったわけじゃねぇよバカ。そもそもお前がいなきゃこの場所をこんなに早く見つけられなかったんだ。ノアは十分働いてくれてる――だから、後は俺たちに任せとけ」


 と、見た目幼女の神様に少し格好つけてみたり。


 それからセラ、フェノン、シリーの順に目配せすると、彼女たちは自信に満ち溢れたような表情でコクリと頷いた。

 セラたちの実力を考えれば、俺抜きでも余裕でこの集団を殲滅できてしまうだろう。もし相手に実力があるのなら、スリなどせずに大人しくダンジョンに潜っているだろうし。


「俺は後ろから三人をサポートしつつ、漏れが無いように見張っておくよ。だから皆は好きに暴れ回ってくれ」


「わかった」「わかりました!」「はいっ!」


 俺が激励の言葉を掛けると、元気の良い返事が三つ。

 張り切っているところ申し訳ないが、彼女たちが相手を殺してしまわないか少し不安だ……まぁ、エリクサーはまだまだあるし、使用することになったらその分は犯罪者どもに請求すればいいか。



「全員武器を捨てて両手を上げろっ!」


 宿の扉を蹴り飛ばすと、俺は昔ドラマや映画で何度も見た憧れの台詞を口にした。


 だがしかし、カウンターの内側でキョトンとした表情になってしまっている受付のオッサンも、隅のテーブルで酒を飲んでいる二人組の男も、持っているのはナイフでも鈍器でもなく酒の入っているジョッキだ。とても悲しい失敗である。

 というか受付で酒飲むなやオッサン。


「セラたちに任せるんじゃなかったの?」


「いやまぁ……そうなんだけどさ、好奇心の赴くままに行動したらこうなってしまった」


「スリ集団の隠れ家の制圧だよ? 結構マジメな仕事だと思うんだけど……お兄ちゃんはいつまでもゲーム感覚だねぇ」


「そうかなぁ。自分でもわからんが、難易度が低すぎるから緊張感がないのかもしれん」


 などと。


 偽物の兄妹を演じつつ呑気に会話をしている間にも、セラたち三人はあっという間に男どもの意識を刈り取り、うつ伏せにして縄で縛っていた。仕事が速いですね。


 セラは探索者として活動していた期間が長いし、荒事に慣れていても不思議ではない。だから俺はフェノンとシリーの様子を見守っていたのだが、それぞれ魔法と膝蹴りで危うげなく男どもを倒していた。きちんと手加減はできているようで、うっかり内臓が破裂しちゃった――なんてこともなさそうだ。


「しまった……一人ぐらい意識を残させておいたほうが良かったな」


 やってしまった――そんな雰囲気の声色でセラが言う。

 彼女の足元には、顔面が少しへこんで白目を剥いている店主の横顔。ご愁傷さまです。


「大丈夫だよ。僕はだいたい相手の居る場所がわかるし、お兄ちゃんもうっすらとわかってるでしょ?」


「まぁ……俺に直接悪意を向けられてるわけじゃないから、はっきりとはしないが」


 もしわかってしまうのなら、それはもはや『気配察知』ではなく『索敵』みたいなスキルだろう。


 それはいいとして、


「これだけドタバタやれば、中にいる奴らもさすがに気付いただろうな。奴らも逃げるなり応戦するなりするだろうから――ノアは建物の外から、俺は内側から逃がさないようにするか」


「わかりました! では、私たちは犯罪者を殺さない程度に痛めつけて捕縛すれば良いのですね!」


「お、おう。フェノンたちなら大丈夫だとは思うけど、気を付けろよ」


「ありがとうございます! そのお言葉だけで元気百倍です! 相手が何人だろうと討ち取ってみせます!」


 やる気十分――といった様子で、フェノンがガッツポーズをとる。討ち取ったらダメだからね?


「私も頑張るぞ! もし一番多く敵を倒すことができたら、あ、あああ頭を撫でてくれてもいいからなっ!」

 

「それは良い考えねセラっ! そうしましょうっ!」


 俺の意見など言う暇もなく、きゃぴきゃぴと女性陣が盛り上がっている。何気にシリーも「負けませんよ」なんて言って参戦しているし。


 俺はそんなやりとりを傍から見ながら、建物の外に出ようと歩きだしたノアに声を掛ける。


「俺よりも、セラたちのほうがゲーム感覚じゃないか?」


「はははっ、それは君が見守っているという安心感のせいだよ」


「はぁ……なるほど?」


 納得できるようなできないような……まぁ彼女たちが笑ってくれているのなら、なんでもいいか。


 ただ一人、ノアだけは少し不満そうな表情だったけど……まさか元神様が俺に頭を撫でてもらいたかった――なんてことはないよな。さすがにないない。


 とりあえず、敵味方関係なく死者がでないように見張っとくとしよう。



 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ズダ袋ですが、 カタカナで書く場合はズタ袋の方が正しいようです。 ズダ袋と濁したいなら、 本来の頭陀袋で書いた方がいいかと思います。
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