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11 俺は貴方が嫌いだ




 セラさんが護衛に付いて3日目。



 初日はEランクダンジョンを踏破し、そしてDランクダンジョンを周回。

 2日目は朝から晩まで、ひたすらDランクダンジョンの周回を続け、剣士のレベルを30にまで上げた。


 レベルが上がって変わった点は、まずレベル25になってスキルを覚えたことだ。

 気配察知である。

 これはいわゆる第六感的なパッシブスキルで、目や耳に頼らなくとも、なんとなく人や魔物のいる位置が分かるというものだ。


 言葉での説明は難しい。


 だが、これがあるのとないのでは、ダンジョン探索のスピードが変わってくる。他の一次職に転職したら、スキルは使えないけど。


 次に、ステータスの職業欄をタッチすると、剣豪を選択できるようになった。この世界の人々は、早々に二次職――上級職に転職するらしい。当然、俺はそんな非効率的なことはしないが。


 最後に、レベル上げ最大の目的――プレイヤーボーナスの獲得だ。


 もちろん、ステータスウィンドウを見ても、それらしい記述は何も無い。最終確認として、これから拳闘士に転職して、剣士のプレイヤーボーナスがきちんと活きているのか調べる必要がある。


「転職のオーブって、どこに売ってますか?」


 朝の9時。昨日と同じく、宿の外で待ってくれていたセラさんと合流して、俺たちはDランクダンジョンへ向かっていた


「何に使うんだ?」


「そりゃ転職に使うんですよ。それ以外に用途なんてないでしょう?」


 俺の言葉を受けたセラさんは、ムッとした表情になる――が、やはり何処か覇気がない。俺がDランクダンジョンの踏破を報告したあたりから、彼女はずっとこの調子だった。


「そういう意味で聞いたのではない。貴様は剣士のレベル上げをしていたはずだ。いまさら他の職業に転職してどうする」


 彼女は不満げな表情で俺に問う。

 この世界――無知ならではの質問だな。


 とはいっても、俺自身、まだプレイヤーボーナスについては実際に確認しているわけじゃない。適当に濁しておこう。


「ちょっとした気分転換ですよ。剣士ばかりでも飽きますし」


「……はぁ。もう勝手にしてくれ。オーブは私が持っているのをやる。どうせ使い道もないし、腐るほどあるからな」


 転職のオーブはEランクダンジョンのランダムドロップだ。

 俺がEランクダンジョンを踏破した時には、残念ながらオーブのドロップが無かった。

 買いに行くのも面倒だし、セラさんがくれるというのであれば、貰うとしよう。


「欲しいオーブは、拳闘士、騎士、弓士、僧侶の4つです。1万オルで良いですか?」


 ゲームの中では、確か転職のオーブは1つあたり2000オルで取引されていた。今回、もう1つの一次職である『魔法士』は必要ないので、4つ分。普通なら8000オルだが、少し色を付けさせてもらった。


「……バカか貴様は。この役立たずのアイテムに、そんな大金を支払ってどうする」


 そういえばこの世界の人は、転職ってあんまりしないのか。需要が無くて、価格が安くなっているのだろうか?


「いやでも、タダで貰うわけにもいきませんし」


「ふん――貴様が納得しないと言うのなら、相場通りの金額でいい。1つ100オルだ」


「100オルっ!? そんなに安いんですかっ!?」


「むしろ100オルでも買い手がつくことは稀だがな」


 相変わらず覇気のないセラさんに、400オルを手渡して、4つのオーブを受け取る。


 拳闘士以外のオーブをインベントリに入れて、ステータス画面を開いた。

 職業の欄をタッチすると、剣豪の他に拳闘士の文字が現れている。

 よしよし。オーブを手に持ったままステータスを開く――ゲームの頃と一緒だな。


「――ちょ、ちょっと待て。今、剣豪の文字が見えた気がするんだが」


 他人のステータスを見るのはマナー違反。

 この世界のステータスは年齢も表示されているし、治安などの関係からも、他人のステータスはあまり見てはいけないという、暗黙の了解があるようだ。


 現在のセラさんは俺とは正反対の方向を向いており、ステータスを見ないようにしてくれている。俺が見られることなど気にせずステータスを開いたから、別に責めるつもりはない。


「別に見てもかまいませんよ」


 俺が言うと、彼女は「そ、そうか」と顔の向きを正面に戻す。そして、横目で俺のステータスウィンドウを見た。いや、普通に見ていいのに。なんで横目なんだ。


「剣士――レベル30、だと? 普通ならここまで来るのに1か月はかかるぞっ!?」


 そりゃそうだろうな。


「Fランクダンジョンだけで30まで上げようとしたら、そうなるでしょうね。Eランクなら7日、Dランクなら2日あれば、1レベルから30レベルまで上げられます」


 口を開けたまま呆然としているセラさん。俺は構わず話を続けた。


「でもこの日数はある程度戦闘慣れしていて、かつ朝から夜までぶっ通しでやった時の日数ですからね? 休み休みするなら、もう少し時間はかかると思います」


「……やはり、貴様はおかしい。召喚されたというのは、嘘ではないのか? この世界のことを、あまりにも知りすぎている」


 訝しむような視線を向けられる。つい話しすぎてしまったようだ。

 だけど、バカ正直に答えるつもりはない。面と向かって『君たちは作られた存在だ』なんて言えないし。


 俺は肩を竦めて、「さあ、どうでしょうね」と回答を放棄した。


 答えるつもりが無いことを理解したらしく、セラさんは追及するのは諦めて、ため息をついた。そして、愚痴るように言葉を漏らす。


「容易にDランクダンジョンを踏破できる、それだけの才能がありながら……『飽きたから』という理由で転職か。私にもそのような才能があればな」


 セラさんは「はぁ」と俯きながらため息を漏らす。


 俺はというと、彼女から出た『才能』という言葉にムッとしてしまった。

 歩みを進めていた足を止めて、彼女のほうを向く。


「俺は才能だけの人間じゃありません」


「ふん、その若さでその技量――才能以外になにがあるという」


 俺は眉間にシワを寄せ、彼女を睨んだ。


「セラさんが俺の『目』のことを才能というのなら、それは正しいですよ。だけど、それ以外の部分で才能という言葉を使ったのなら、貴方が俺のしてきた努力を、才能の一言で済ませてしまうような人ならば――」


 セラさんは俺の目を見ている。困惑しているような、怯えているような、そんな表情だ。

 俺は一拍置いて、再び口を開く。



「俺は貴方が嫌いだ」



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 やってしまった。


 彼女が俺の事情を知っているはずもないのに、ついカッとなって言ってしまった。後悔も反省もしております。


 そもそも『努力』なんて高尚な言葉を使ったけど、ゲームしてただけなんだよな。言ってしまえば、遊びの一種。


 でも、本気だったんだよ。マジで頑張ったんだよ。


 少なくともそのことをバカにされると、後先考えず不満の声が出てしまうぐらいには。


 セラさんはと言うと、俺の発言に対して「わ、私も貴様が嫌いだっ!」と返したものの、その後は道行く人が二度見するほどテンションが下がっている。俺に嫌われたところで、あまりダメージにはならないと思っていたのだが、予想以上に堪えているらしい。


 Dランクダンジョンで受付をする前に、拳闘士へ転職。

 ダンジョンの中では転職の機能は使えないし、レグルスさんが暗殺とか誘拐とかの話をしていたから、念のため剣士のままでここまでやってきたのだ。


 ゲームの知識から、ステータスを頭の中で思い浮かべる。



☆ステータス☆


名前︰SR

年齢︰18

職業︰拳闘士

レベル︰1

STR︰E(F)

VIT︰G

AGI︰F

DEX︰G

INT︰G

MND︰G

スキル︰――



 本来、拳闘士の初期ステータスはSTRもFだが、プレイヤーボーナスがきちんと仕事をしてくれていれば、Eになっているはず。


 万が一、ステータスが上がっていないようであれば、不本意ながら緊急帰還の機能を使ったほうがいいだろう。さすがにSTRがFでは、倒すのに時間がかかりすぎてしまうのだ。


 ちなみに緊急帰還とは、ダンジョンでの取得物が全て消える代わりに、ダンジョン外へと脱出する機能で、何も取得していない1階層であれば、これといったデメリットはない。


 ただし、ステータスウィンドウから選択する必要があるので、魔物に襲われている最中などは使用が難しい。ウィンドウが邪魔で、魔物の動きが見えづらくなってしまうからだ。


 受付を済ませると、セラさんが周囲に気を使った小さめの声で話しかけてきた。


「……エスアールは先程、拳闘士に転職したばかりだろう。危なくないのか?」


 いつぞやの憤怒の形相をしていたセラさんとはまるで別人である。随分としおらしくなってしまったものだ。


「えぇ、問題ありません。今日も暇をさせてしまいますが、よろしくお願いします」


「……わかった。何かあれば緊急帰還――もしくは通信の魔道具を使ってくれ、気にかけておく」


「わ、わかりました。お気遣いありがとうございます」


 彼女のあまりの変わりように、俺は戸惑いながら返事をした。


 これはいい変化とは――言えないよなぁ。

 しかしどうしたものか。弱っている女性を慰めるスキルなんて習得していないし、本当にバカなことを言ってしまった。


 ひとまずは時間が薬になることを祈りつつ、レベル上げに専念することにしようか。


 数日経てば、きっとセラさんも元通り――俺を睨み続けるようになるだろう。それがいいことなのかは、俺にはわからないけど。






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