StoRy-7
「そう。それは私も悪かったわ」
ただ、それだけ言い残すと、いつもの速度で、お気に入りの後姿は学生の海に飲まれていった。
放課後、教室で帰る準備をしていると、一瞬で教室の雰囲気が変わった。いい方か、悪い方か。どちらかといえば、悪い方なのか。とにかく、そんな感覚を覚えた。でもなぜなのか。とくに俺はいつものことをしているだけだし、周りのみんなもいつも通り。ただ、ひとつだけ違いを発見した。
教室の入り口に、黒条由美がその誰も近づけようとしないオーラを発しつつ、佇んでいたこと。
そして、俺のことを見つけて、ここに来たこと。
「こ、黒条じゃねえか。どうしたんだよ」
「今日も病院」
「そうか。……なら、一緒に行くか?」
すると、頷いた。
「帰りはリムジンじゃねえのか?」
また頷く。
ゆっくりと校門を出て、数日前に通った歩道を歩く。
紅色に頬を染めた太陽が、灰色で生ぬるい高層ビル群の隙間から顔を覗かせ、まるで好きな人を電柱に隠れて見ているようだった。しかし、それがなんとも言えず綺麗で、低空に潜む雲の袖までもが紅色に染まっていた。
そんな初夏から少したった町の風景は、すっきりとしていて、新鮮味があった。新鮮は春というイメージが根付いていたが、少し考えも変わった。
「で、体の方は治ってきてるのか?」
今度は首を振る。すると、彼女の長くて真っ直ぐで、そしてなにより艶のあるロングヘアーが乱れる。
全て無駄のない動きで、効率よく会話が進んでいるように思えるが、本当に彼女は必要のないことは喋らない。
病院の帰り、彼女はとんでもないことを言ってきた。
「今日は、私の家に寄って」
なんだか、空気が一瞬にして変わった気がした。町に夜を伝える静寂とサイレンの不一致さを物語るほどに、その言葉に俺は、度肝を抜かれた。
「べ、別にいいが、なんでだ?」
「見せたいものがあるの」
なんだ、そりゃ。
町の速度は一定かつ、不規則に動き、俺達はそれに飲まれつつ黒条家に到着した。
その間、俺は一体なにを見せたいのか思考を張り巡らせていた。刹那、一気に情報が頭を流れる。まるで、止まることを知らない上流の川のように。
そしていくつか考えた。
例えば、なにか創作活動的なことをしたとか、ピアノとヴァイオリンを習っていると、この前話していたから、演奏を見せてくれるとか、両親の顔を俺に見せるとか。
とにかく、そんなことを考えていた。
大きな門を潜って、長い庭を進んだ先に、まるでこの先ラスボス居ます! 的な扉が立っていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」