StoRy-6
後日たまたま朝、校門で黒条に会った。
ミニチュアダックスフンドみたいな長いリムジンカーが、校門前に止まって、その中から黒条が出てきた。本当に、典型的なお嬢様だ。で、また今日も黒いワンピースを纏っていて、さらにそのリムジンカーまでもが漆黒のせいで、2つは一体化しているように見えた。
「よ、よう黒条。お前は本当に一般的に言われる――お嬢様なんだな」
また返答はない。
まるで俺の声が聞こえていなかったかのように、俺の前を素通りし、校舎内に入っていく。
「ちょ、ちょっと待てって。そもそもなんでお前はこんな平凡な普通高校に入学したんだ? おかしいだろ。――お嬢様学校とかに行けばよかったのによ」
すると、その透明で圧倒的な圧迫感を感じるその眼が俺の目を見た。
「嫌だったの。周りから――お嬢様と言われることが」
「あ、わりい。もう言わねえ。でもだからってなんで公立なんだ?」
「勉強が嫌い」
必要最低限しか喋らない。
「お、気が合うな。俺も嫌い」
すると、返事はない。
どうやら、根本的に喋る事が嫌いで、人の話を聞くことが嫌いらしい。結論、社交性がずば抜けて欠けているということになる。
「で、もう自殺騒動はないけど、諦めたんだな」
「別に」
というわけで、まだ自殺願望はあるらしい。というのも俺の勝手な憶測でしかない。なんせ、彼女は事実を話そうとしないからだ。
「あなたの親の顔を見たいわ」
「は?」
「礼儀のないあなたに疑問を持ってるの」
「疑問、ね。俺にはお前のそのオーラに疑問を覚えるね」
「で、親は? どんな人?」
「普通の人。つか、親はもういねえ」
すると、黒条は歩みをそっと止めた。
「死んだんだ。交通事故で。
かけて、割れて、壊れた。ただ、それだけ。脆かった、弱かった。細くて切れそうな糸でも、ちゃんと繋がってたのに、やっぱり切れた。家族の関係なんて、そんなものなんだって、思い知らされた。
一見、しっかり繋がっているように見えても、切れそうになくても、簡単に壊れてしまう。それは突然もあるし、分かっている時もある。でも、唯一言えるのは、ただそれだけでしかないということ。絆を表す数値なんてないっていうこと。だから、切れた関係を思い返すことしかできない。修復なんてできっこない。わかっていても、辛い」
俺は、言わなくてもいい心の内まで、語っていた。途中で話題が変わったことも分かってた。でも、言いたかった。今まで隠してきたなにかをぶちまけたかった。
それが、黒条だったのはなぜか。
今の俺には全然わからない。
ただ、これでいいと思えた。