StoRy-4
それから、彼女の濡れた姿を見た。純白の肌に、まるで真珠のような水滴がいくつもついていた。
ちょうど、彼女が身を投げたあの教室は、校舎の裏側にあり、その裏側にはプールがある。どうやら、プールに落ちたらしい。もちろん、それで多少の怪我は負ったが、大事故にはならずに済んだらしい。
「お前さ、馬鹿じゃねえのか?」
すると、保健室のベッドに仰向けで寝ていた黒条は、口を開けなかった。
「そもそも、なんでそんなに死にたがるんだよ。別に変わらない世界で変わらずに生きていたら、いいじゃないか」
「…………嫌」
唯一、言ってくれた一言だった。
その後、彼女は放課後まで寝ていた。誰かの寝顔を見たのは、久々だった。でも、その寝顔を見て、俺は驚いた。棺の中の両親に似ていたから。そして、あまりにも綺麗だったから。まるで、毒林檎で眠らされた、針で眠らされたお姫様のような寝顔。細い吐息が心地よく聞こえてきて、そして、いつの間にか俺も寝ていた。ちょうど彼女の寝ているベッドに寄り添った状態で。
ふと目が覚めると、外は赤褐色に染まっていて、雲の隙間から烏が数羽帰路についていた。
そして、目の前には彼女の顔があった。全く笑わない彼女の顔が。
「帰る。病院に付き添ってくれない?」
「あ、ああ。別にいいけどさ」
彼女の行き先の病院まで、数キロある。彼女は自分の顔を隠すように黒い日陰傘を差していた。ふちは白くその先に黒いレースのフリルが細くついていた。黒いワンピースに黒い日陰傘。すらっと長い黒髪。全てを黒に統一した彼女の姿は、美しかった。
その横で歩く俺は、なんだかどこからか切り取られて貼り付けられたようだった。
柄の悪い大きめの私服に、両手をポケットに突っ込んで、本当に浮いていた。まるで、横が別の世界のように感じた。
病院に着いた頃には、既に回りは薄暗くなっていた。