StoRy-3
ようは、死ぬな。と、言っていたのだ。
一瞬、嫌な汗をかいた。しかし、それはすっと引いて、頭を入れ替える。
「あの、馬鹿」
俺は、寝転んでいた屋上の床を蹴飛ばして、4階まで階段をかけていった。スピードを上げるにつれ、横を流れる景色は、どんどん早くなっていく。早くなってやがて一本の筋が完成する。しかし、その筋とは裏腹にその時俺は、特にこれといってなにも感じてはいなかった。とにかく、黒条由美の自殺を、どのようにして止めるのかということしか、頭になかった。
「黒条!」
勢いよく声の聞こえた教室のドアを、開けた。開けると、案の定彼女が、窓に身を乗り出していた。いや、実際には窓枠の上に乗っていた。その空気のように見える体を。
「またあなた」
「悪かったな。お前、世の中を見たかったんじゃなかったのかよ!」
「やっぱりいいわ。だって、どいつもこいつも馬鹿ばかりだし、いくら時代が進んでも、何一つ変わらないんだもの」
「まだその時期じゃないのかも」
なんて言ってみるも、俺も彼女の考えに同感だった。だから、あまりちゃんとした答えは、言えなかった。
「いいの、もう。決めたから」
俺は、もうなにも言えなかった。
言えなかったからこそ、自分を瞬間責めた。
彼女が、身を外へ投げたから。
初夏の空気を疾風の如く切り裂き、1階まで転落していく。その姿を想像した。俺は、また走っていた。その、1階まで。その、彼女が落ちる所まで。