異世界サロン
――――――――とまあ指定された場所に来た俺達三人だが見た感じシャッター商店街の一角の端も端だ。
入口シャッターがスプレーで落書きされいかにも人の立ち寄らない空気感の強い事。
俺は試しに指定された店舗の様子を探ったりチャイムを押してみたりするが当然誰もいる訳もなく、何かしらのトラップが仕掛けられてるなんて事もない。
そんな探りを入れてる間に誰かがやってきたのを勘づく。
やってきたのは見た目は端正な顔立ちの青年、20代前半から中頃と言った所か。
髪の毛はショート系で金髪だが染めてからある程度時間がたってるのか頭頂部は黒く配色がプリンみたいな感じになっている。
「貴方がサロンに連絡をくれました「猛禽」さんですか?」
「そうです。あなたがサロンのオーナーで?」
初対面だし、相手の出方がまだわからんからとりあえず接客営業モードだ。
「いえいえ、僕はただの管理責任者兼有志みたいなものです。
あ、申し遅れました僕は「深淵」立場柄ハンドルネームとかそういう感じのアレですのでツッコミ・クレームは無しでお願いします」
欧米的なモーションで肩をクイッと上げる自称「深淵」
初対面でここまで軽薄すぎてイラっとするのなかなかないぞ。事態が事態だから尚更だ。
そんな「深淵」はポケットから鍵をとりだし、目の前の店舗のシャッターの鍵穴に差し込み開放する。
「どうぞどうぞ、外装はあれですがお客様を迎えるには問題はありませんのでお入りください」
実際進められて入ってみるがマジモンのサロンを思わせるほど中はオサレだ。
調度品からソファーからパソコンから商売視点を持つ俺からしたら大分こだわっている。
エアコンも効いてるし出された飲み物もキンッキンに冷えてる。体冷やしすぎて腹壊しそうなほどにな。
飲み物を出された後、俺は「深淵」と連絡を取った内容のすり合わせをする。
「本題から単刀直入にいいましょう。あなた方が祈祷所に書かれた人達を保護していると聞きました。
それは本当ですか?どうやって?
もし納得いく理由で本当ならこの彼女を保護していただきたいのですが」
まどろっこしい話は今は無しだ。時間があるとも思えないからな。
「ほほ、いきなりですね。ですが落ち着いて下さい。事が事ですので慎重にならざるを得ないのはお互い様な立場です。ですから状況を順序立てて説明してくれると助かるのですが。」
……まあ当然だな。いいだろう。立場的にこちらは間違いなくか弱い子羊だ。
駆け引き的にも不利になる要素はないならこちらから説明しても問題はない。
俺は現状と状況を説明する。
俺の正体、秘書の姉さんの事、彼女に何があったか、あとデウスの事をかいつまんで説明した。
「深淵」は繭一つ動かさずに肘を机に置き手を組んで話を聞く。
「……という訳です。後顧の憂い、人道的立場の観点から結果的に彼女を巻き込んでしまった責任として保護の後ろ盾を取り付けて頂けませんでしょうか?」
巻き込まれたのはこっちだっつーのコンチクショウ。だがここは駆け引き的に謙虚に謙虚にだ。
秘書のねーちゃんが空気を読んじゃいるがこっちを複雑な表情で見てやがる。無視無視。
デウスもチラチラこっちみんな。腹立つわぁ。
「なるほど……そちらの事情は分かりました」
「契約成立、ですかな?」
「いえ、その必要はないでしょう。同盟的なお付き合いは歓迎します。ですが彼女を引き取る必要はない、と申し上げます」
「……は?」
「見た所あなたは戦うに辺り、強い力をもっているでしょう。
そういうのわかるんですよ、生きて過酷な異世界を大なり小なり救ってきたんですからそうでしょう、地獄帰りの猛禽殿?」
「!?」
「(地獄帰り……?)」
「……」
――――――――地獄帰り。そのフレーズに俺は警戒度を引き上げる。
コイツッ……! ゴルフバッグに手を伸ばし俺は瞬発的に戦闘態勢に移行する。
「おっと、大変失礼いたしました。ですので武器を振り回すのとこの部屋の管制の乗っ取りはやめて下さい」
次の瞬間俺がとった行動は「深淵」の奴の鼻の穴に日本の指を突っ込むことだった。
「次はこっちの質問だ、お前の正体と異世界サロン何て寄せ集め場所を作って一体何をする気だ。
そしてなんで・どこで、どうして俺の情報を知っている。」
ここまでの至近距離で近づいてドス利かせておけばまず下手な事はできないからな。
このサロンも多少開けてはいるが人が介入するにはほぼ密室だし外様の心配もない。
何で鼻の穴に指を突っ込んでるかというと……流れでこうなっただけだ!
「答えろ」
「や、やべでぐださい……落ち着いて……」
「広門、危機感は分かるけど正直その恫喝手段と絵面、かなり間抜けだってわかってる?ていうか手にかけようとしたゴルフバッグの意味は?」
「うるせえよ!緊急事態かもしれないんだ!逃げる準備しとけ!」
ツッコんだデウスも秘書のねーちゃんも怪訝な顔でシュールなこの状況を見ている訳だが転生者絡みである以上、悠長にしてらんないからな。
肝心の「深淵」は鼻から血を流しながら懇願する。ゆで卵好きそうな奴の声になってんなコイツ。
鼻に指突っ込んでるんだからそういう声になるのも当然ちゃ当然だが。
「……デウスさん、転生者の戦いっていつもこんな感じなんですか?」
「だったらよかったんだけどねー。獅豪君だっけ、君借りた猫以上に動じないよね、雉も鳴かずば撃たれまいって感じで押し黙ってる感じかい?」
「い、いえ、なんかこう色々勢いが急すぎて追い付かないだけというか」
「お前らまったりと女の友情育んでるじゃねーよ!一応非常事態だからね?!」
後ろで二人がなんか語り合っちゃってるし!そうこう言ってる間にも「深淵」の鼻血が凄い事になってるし!原因俺だけども!とりあえず情報引き出さないと!
「さっさと答えろ!でなきゃ鼻血で失血死するぞ!かなりマヌケな部類の死に方だぞ!」
「あががががが……」
「深淵」の奴明らかに狼狽してるな、だがこっちは命がかかってるんだ。
手を抜く気も鼻の穴から指を抜く気もさらさら無い!