序幕之了
そこには秘書の姉ちゃんが俺の直線状に立っていた。
アイツの後ろには走ってきた直線状の突き当りの道の奥に扉がある。
おそらく、一度出たはいいが心配になって様子を見に迎えに来たんだろう。
「バカヤロウ!外に出てろ!俺に今構うな!直線状に立つな!」
「え?」
あの姉ちゃん、若干薄暗がりのせいか後ろの矢に気づいてない!
いや!気づいていたとしてもあの速さじゃ多少距離はあっても常人の回避は無理だ!
クソッ!あの姉ちゃんも俺も扉に入るまでに間に合わない!!
矢の数は……5……7本か!
俺は飛んでくる矢の数をはとっさに把握し、彼女を背にして振り返る。
手に持っている炎殿の主柱を能力で発動させる
炎殿の主柱▶――――固有技能上位解放―――――
▶「太陽神よりの下賜」
追加効果 特攻付与
「アンチエンチャント」
「閃空落とし」
瞬間薄暗い闇に強烈な閃光が放たれた―――――――――
―――――――――カツカツカツと足音がする。
音は二人組。辺りを探っているのはヘインとマレーだった。
「Terrible……まるで戦場跡ね」
「チッ、どうやら俺の跳馬をかいくぐったか」
傷を治し、体勢を立て直した二人が辺りを見回すと壁や天井が煤焦げている。そんなに時間はたっていない。
道中何本か着弾した矢もあり確かに自分が射出した形跡の証明だ。
それを確認すると苦虫を噛んだような顔をするヘイン。
さっきの隠し通路を見つける呪文を唱えて走る光に辺りをサーチさせるヘイン。
マレーがつぶやく。
「貴方のアレをしのぎ切るとか、さっきの戦い方といい相当の手練れよアイツ。
悪役も血の気が引くようなラフプレーを流れるように仕掛ける奴だもの」
「わかってる、だが何だアイツは?他の異世界人なのか?明らかに魔法使いの類じゃないぞ?」
「おそらくはね。しかもかなり特殊な部類よ、今まで身を潜めていたんでしょ」
マレーはクイッと肩をあげておどけたリアクションで返す。
「……イベント戦闘だとしてもお粗末すぎるな、俺達は絶対的な正義側の勇者だぞ
あんな人の皮をかぶるだけの畜生共に後れを取るとか……!」
「Calmly。這い上がるのも物語のだいご味でしょ?まだ見ぬ在野の強敵、なんて他のゲームでもPVPにもゴロゴロいるわよ?」
ヘインの左右の眼球は細かく揺れ、眉間に圧としわが寄ったような言い知れぬ表情になっていた。
「戻るぞ、この先は行き止まりだ。隠し通路も見当たらない。何か特殊な技で道をふさいでるんだろう。
まずは祈祷所だ。アイツと逃亡者の正体がつかめるかもしれない」
マレーの会話を流し、来た道を戻るヘイン。
「Do it……主賓のわからないパーティではしゃいじゃって、けど久しぶりに熱くはなれたかしら?」
そういいながらその場を二人は後にする。
「………………ぶはぁッッ!!!!!!」
俺と姉さんは勢いが余る程にドアを開け、体を地面に滑らせる。
急な事に体力を使った為に正直息が上がる。
「おぉ!無事だったか!」
「おかえり!問題は無いようだね」
「すぐ入り口を閉じます!」
総理とデウスはクソが付くほど呑気に安堵をし、ストゥーカは入り口を使えなくする術式らしきものを組出す。
だが俺は真っ先に言いたいことがある。
「馬鹿野郎が!!なんでコイツを入口前に突っ立たせた?!!!」
俺の怒号に緩やかな周囲が凍りつく。
「……ごめんなさい、私が言い出したんです。様子を見る人間が必要じゃないかと」
「扉を開けっぱなしにして様子を見りゃ良かっただろうが!要人を危険に晒してどうする!デウス!お前が居ながらなんてザマだ!」
コイツらの軽率さに俺の沸点は振り切れていた。
当然だ、こちとら命張って動いてたのに台無しになる所だったんだからな!
「扉を開けっぱなしにしていたら行き先が探知される可能性がありました。最初は総理が見張りになると仰いましたが、獅豪さんが自ら申し出たんです」
ストゥーカは冷静に術を仕掛けながら説明を重ねる。
「……怒りはもっともだが彼はここを嗅ぎ取られないため即座に動けるよう待機する必要があったし私が見張りをするとも言ったんだが私に何かあると広門が困るだろうし、何かあっても一番問題ない私が行くと」
デウスが申し訳なさそうになってはいる、が到底許されるものじゃあない。
ふざけるなよ。
「それを間に受けたのか、そんな詭弁を!」
「詭弁じゃありません!」
秘書の姉さんが力強く反論しだす。
「これが私の……仕事であり招いた落ち度だからです。この状況で一番役に立たなく、居なくなって困らないのは間違いなく私です。
自分の仕事の結果とは言え、あなたを巻き込んでしまった事は到底許されるものではありません。だったら身体を張ってその責任を果たす機会と判断したからです」
「格好つけるな、命が惜しくて俺を頼ったんじゃねぇか、なのに巻き込んだ責任?オトボケも大概にしろよ!」
「誰も死にたいなんて言ってません!けどあなたを一人で戦わせるのも違う筈です!」
この女……やるときはやるどころかとんだ食わせ物だ。現代人にあるまじき馬鹿さ加減だ。
なんで他人の事なのにこんなにムシャクシャするんだと思いながら頭をかき散らす訳だが。
「チッ、総理、アンタの姪は人として相当損をする、生きづらい人生を送ってるぞ。親族としてそれでいいのか?」
「……私も権力や派閥に振り回されてる立場ですからなぁ、彼女が時々羨ましくなりますな、ですが彼女をここまで追い込んだ状況の責は貴方に声をかけた、ひいては国の長の私にあります。どうかご理解を」
最初は軽口かつ優しい表情で語りながらも、後半のセリフに厳格さのある謝罪を感じた……身内に甘い事だ。
「……次からはそこも含めて相談しろ、でなけりゃ算段が狂うだろうが」
「ほほう……次から、という事は異世界サロンに参加するのかな?」
「言葉狩りやめーや、それとこれとは別問題だろがい」
デウスのニヤケ顔に対して軽く頭をひっぱたく。コイツはホンマ。
そういえ出て早々わちゃわちゃしたが、まずはこの質問へと帰結する訳だ。
「そういえばここはどこだ、なんか見覚えがあるようなないような」
「緊急事態だったのでとりあえずデウスさんの位置情報をつかって空間を繋がせて頂きました結果ここに。私もどこへ飛ばされたのか詳しくは……」
そんなざっくりとした逃亡劇でいいのか。俺はとりあえず出た所の向かい側にあるドアを開ける。
ドアの向こう側には開けたのは
調度品に西洋甲冑・ファンタジームーヴあふるる盾と剣・魔法使いの杖を壁にかけ、魔法陣柄のテーブルクロスや魔法の薬をイメージする瓶型の調味料入れ。
1Kよりちょい広めの店内に調度品をそれっぽくあしらっただけの、純喫茶という感じの部屋だった。時代を色々逆行しつつSNS映えにも配慮したセンスを感じる部屋だ。
俺はいっそいで、見覚えのある階段を上り、その上にある見覚えのあるドアを開けた―――――そこに広がるのは、見慣れた風景―――
なんという事でしょう。シャッター商店街の一店舗の地下を下り、進んだ先は―――――
雪国でもなく秘密集会所でもなく、俺が経営してる喫茶店でした――――――
「オイィィィ!!?俺の店じゃねーかァァァァァアアアアア!!!」
俺は急いで店の中にUターンする。
「そりゃそうだよ、ここの位置に飛べる様に指示したの私だもん。上手くいってよかったー」
「よくねぇよ?!国家反逆者共を不法侵入させてるから!」
デウスが安堵の笑みをこぼしながら一安心、という顔をする。こいつなんなの?
ホームラン級のバカなの?
てことはだ、さっきの部屋の俺達の出てきたところから間取りを逆算すると
店の裏の在庫保管庫と繋げやがったのかこのバカども?!
「そうでしたか、いやー一仕事終えたので正直喉が渇いてましてね、私アイスコーヒーで」
「じゃあ私クリームソーダね」
「アッハッハ、なら私はモーニングセットを頂こう」
「我が物顔で席に座ってくつろいでるんじゃないよ三バカ!しかも今夕方だから!」
何なのこの状況?さっきから俺の危機的状況のベクトルが極端に振り切れてるんだけど?!
「……どうやら、私の与り知らぬ距離からごっそり外堀を囲われてしまったみたいですね」
「ああクソ!とんだ厄日だ。何やってるんだアンタも座れよ、飲まんとやってられんだろ。…アルコールはないがな」
「そうですね……では、お言葉に甘えて」
俺は諦めに近い感覚でバカでかい溜息を吐いた後、秘書の姉ちゃん、獅豪 寧子だったか、そいつを席につかせる。
事態は俺が思っている以上に深刻らしい。何しろ俺の様な末端の、自称勇者を必死こいて迎え入れようとするぐらいだからな。
人類史上類を見ない異世界からの、絶対優位の力と秩序を名乗る侵略者達がもちこんできた大戦の種火。
その火消しに翻弄されるカウントダウンという足音がイメージという幻聴をもって近付きつつあるのを俺は立場がら実感しつつあった。




