<Eir>
「ナタリー、飯の時間だから食堂に案内するぞ。」
「ありがとう。ウィリアムさん。」
「さんはやめろ。なるべくウィルって呼べ。しばらく相棒なんだから。」
【地球保護騎士】は反社会的組織だから、【騎士】達は秘密基地のような地下施設で生活している。
勿論、環境に配慮してあまり大きなものではないが、50人ほどが生活できるように空間をフル活用できる構造になっていて、一人では迷子になりそうだ。
「ウィル。」
「何だ?」
「くすっ。なんとなく呼んでみたかっただけ。」
「そうか。愛称に馴れてないのか?」
「そうかもしれない。私弟以外の人と関わって来なかったから。」
「その割りには自分は愛称で呼べって言ってきたよな。」
「え?なにか言った?興味があるものがたくさんあって、聞いてなかった。」
ここは研究室のような大部屋だそうだ。いろんなジャンルの研究を同じ部屋でやることで新たな視点から物事を考えられるようにするらしい。ウィルが教えてくれた。
「いや、何でもない。」
「そう?ならいいけど。ところで、何でご飯の時間なのに皆ここに居るの?」
「それは、飯の時間があくまで目安だからだな。後2時間以内に食堂で注文すればいいんだ。」
「ふぅん。」
そういうシステムなんだ。覚えておこう。
「ところで、相棒である私の分野が何か知ってる?」
「うーんと。………本、だったか?」
「正確には、世界文学。確か、ここには図書館兼資料室が有るんだよね?連れてってよ。」
この施設<Eir>で一番大きい設備なんだそうだ。この名前は北欧神話のアース神族、癒しを司る女神エイルの名前からとったのだとか。
「食堂の後な。」
「やった!ありがとう。ウィル。」
「ナタリーのありがとうは安いな。」
「そんなことないよ?必要なときに必要な言葉を使えるのはとっても大切なことなんだよ。ありがとうは人間関係を円滑にするのに必要な言葉だから思ったときに言わなくちゃ。」
「そうか。」
「そうだよ。大切なことは言える時に言えるだけ言わなくちゃ後悔するんだよ。」
絶対に後悔する。私は知っている。私は後悔した人間だから。
「ウィル、私は………………………………ごめん何でもない。」
今はまだ……話せない。でも、いつかきっと。
「そうか。ナタリー、アンタになんかあったことは聞いた。でもそんなに構えなくても良いと思うぞ。ここの奴らはだいたい何かがあってここに居る。団長だって俺だってそうだ。」
「ウィルも?」
「ああ。俺は………聞きたいか?」
「ううん。私が話せるようになった時にまだ相棒だったら教えて。」
「ふーん。わかった。その時に相棒だったらな。」
しばらく無言で歩いていると、【dining room】というプレートが見えてきた。
「着いたぞ。ここが食堂だ。この先に女風呂があるからな。部屋にもシャワーがついてるが、風呂に行った方がいいぞ。」
「そうなの?何で?」
「俺と相部屋だからな。」
「ふーん。相棒だからかな?」
相棒は相部屋なんだ。そういうルールなのかも。
「いや、少しは気にしろよ。男と相部屋なんだぞ。」
「え?私は気にしないよ。先月まで弟と同じ部屋だったから。」
「弟とよく知らない奴を一緒にしちゃ駄目だろ。まあナタリーが気にしないならどうでもいいが。」
「?何か問題があるの?ひょっとしてウィルは相部屋嫌だった?」
私、そんなことすっかり失念してた。もし、ウィルが嫌だったらどうしよう。視界がぼやけてきた。
「おい、泣くなよ?俺は嫌じゃないから!むしろ泣かれる方が迷惑だ。」
「迷惑……………っ。ふぇぇ。」
「だから、泣くなって。嫌じゃないって言ってるだろ。あークソッ。俺泣き止ませ方なんて知らないぞ。どーしたらいいんだよ。」
「あれれ~?ウィリアムが女の子泣かせてる。」
誰か知らない人の声がした。
「泣かせてない。勝手に泣いたんだよ。」
「ふ~ん。あっ君、飴ちゃん食べる?」
そう言って知らない人は飴を差し出してきた。驚いて、思わず顔を上げた。
「あっ、僕ね、シェイル。飴ちゃん食べたかったら言ってね。いつも持ってるから。はいっ飴ちゃん。」
「あ、ありがとう?」
「うん。どーいたしまして。」
「こいつはナタリーシャだ。俺の相棒だからかな。」
「へぇ~。ウィリアムが誰かと組むの初めて見た。」
「俺だって必要なら誰かと組むこともあるそ。」
「ウィル、シェイル君はウィルの友達なの?」
「あれっ。ウィリアム、ナタリーシャちゃんに愛称で呼ばせてるの?僕には駄目って言ってたのに………………。ずるい。」
「お前は駄目だ。」
そのまま私の質問が流されてウィルとシェイル君は話し込む。この様子を見るに、友達なのは間違いないだろう。