第二の人生は異世界転生、しかも女。
「その男、一体誰なのさぁ!!?」
俺は絶叫しながら体を勢いよく起こした。
そんな俺に周囲の人達はびっくりした顔でこちらを見ている。いや俺もかなりびっくりしてるから仕方がないでしょ?!って言いかけて口をつぐんだ。というかぐるりと周りを見渡した。
ココドコデスカ?
アナタタチイッタイダレデスカ??
目が点になってすぐに目の前が白黒になりぐにゃりと景色が歪んだ。
あ、やばい、これはまた倒れる。
俺は妙にスプリングのきいたベッドに倒れこむ。あー、なんかめちゃくちゃいい匂いのするベッドだ。母さん、何か消臭的なことをしてくれたの、か…
そこまで考えが及んで俺の意識は暗闇に落ちていった。
意識が目覚める前に感じるフワフワした感覚に俺は身を委ねている。
とても居心地が良い。ずっとこのままがいい。けどこれは長く続かないことも俺はわかっていた。
浮上する意識がしっかりしろと言わんばりに思い出したくもない記憶を思い起こさせる。
誰か知らない男とキスする最愛の天使である妹の姿。
ふざけんな、この地上であの天使に手を出していい男なんて誰一人としていないんだ。あの男次に会ったら一発いや十発殴っ…次…そうだ、次はトラックのクラクションの音がした。
そして一気に暗闇に突き落とされたはず。
けどさっきは自由に体を動かせていた。自分の体の丈夫さにとても驚くが、もう一つ驚いたことを思い出した。
そう、目が覚めた先は見知らぬ場所で、俺を囲っていたのは最愛の天使である妹や家族友人ではなくそれも見知らぬ人達だったのだ。
場所は確かとても豪華な、中世貴族の家みたいな感じだった。見知らぬ人達も似たような時代の服装だった気がする。まぁ漫画とかの知識だから本当にその通りなのかはわからないが。
どうゆうことなんだ?
疑問に思いつつも意識がもう限界だといわんばりに強制的に目を開けさせた。
広がる天井はやはり見覚えのないもの。しかもシャンデリアって何?そんなもの我が家にはないし病院にもないと思うんだけど、最近の病院にはシャンデリアもあるものなの?
疑問は湧いては溢れ同時に嫌な汗もダラダラ流れてくる。
本当にここ、どこなんだよ。
「アニー!ようやく目が覚めたんだね!!」
俺の疑問は突然の大声で中断された。
目をパチクリさせて横を向くと俺の手をそれはもう強く握っている金髪のダンディな男性がいる。
「ど、どなた、ですか…?」
戸惑いつつ声をなんとか出すと更に混乱する事態になった。
なんだ?この甲高い声?これが、俺の声?てかこのダンディなおっさんに掴まれてる俺の手ちっさ!えっ、本当にこれは、俺の手で…。
そんな小さな俺の手にダンディなおっさんの涙が溢れ落ちた。と思ったら滝のように流れ出てくる。
「アニー!なんてことだ?!記憶を無くしてしまったのか?!すぐに医者を呼べ!早く!ニーダー医師を!」
「はい、直ちに!」
俺の一言によって半狂乱になったダンディなおっさんは周囲にいた執事ぽい人に声をかけ控えていたメイドさんぽい人達も一斉に慌しく動き出す。
ただ、その中で一人だけダンディなおっさん並みに身なりのいい少年だけ引きつった顔で立ち尽くしていた。
妙に引っ掛かりを覚える少年の顔。ダンディなおっさんと同じ薄い金髪を短く切り揃えてあり、前テレビで見た海外の海のような綺麗なエメラルドグリーンの瞳には有り有りと恐怖が映っている。まだ10歳にも満たなさそうな少年がする表情ではないが…。というかお前のその無駄にイケメンな顔どこかで見た覚えがあ、る……
「あああぁーーーーー!!!!」
俺は思わずその少年を見るために勢いよく起き上がりそしてもう一度周囲を見渡した。ダンディなおっさんが何か言っているがとりあえず後にしてください。
だって俺は思い出してしまったのだ。あの少年の面影。あれは昨日妹からしっかり見ておいてね!と言われた乙女ゲームの攻略キャラクターの一人!の幼少時代!!隅々まで妹のために読み込んだんだ、昨日今日で忘れるはずがないし、妹に話を振られた時用に何もかも暗記済だ!
そしてこの周囲にあるインテリアもあの資料のまま。嘘だろ?どうゆうこと?
理解許容範囲が完全にオーバーして俺はまたベッドに倒れこんだ。ダンディなおっさんがまた何か言ってるが完全に無視させてください。今はそれどころじゃありません。
ここってもしかしてもしかしなくても アルファディアカリス の世界じゃねぇか…。
いや待て。待て待て。これは夢って可能性もあるし、だって最後に聞こえたのトラックのクラクションの音だし。轢かれて今昏睡状態なのかもしれん。
けど、まさか、もしかして、万が一にも、俺ってもしかして死んだ?
それで乙女ゲームの世界に女として生まれ変わったってこと?
知らずに俺の頬を涙が流れ出ていた。
もう俺の最愛の天使、妹に会えないのか…。
俺はどうしようもない絶望感に打ちのめされていたが、それどころではない周囲の人間にはなんとか涙はバレずに済んだようだ。これ以上の騒ぎは御免被りたい。