ソシャゲにハマりすぎた男の末路....!あなたの周りにこんな人いませんか?
これは私の身の回りで起きたことを元に書いていますが、実在する人物とは無関係です。
俺は普通の会社員だった
どちらかというと冴えない方だった
名前もこれまたありふれた冴えない名前。
山田大貴。
もちろんイケメンでもないし、体型も、デブかガリで言えばどっちかというとデブ。特に仕事ができるわけでもなく、カリスマ性があるわけでもない。平凡なお見合いをして、特に好きでもなかったブサイクな女と結婚して、子供がいて、特に波乱にとんだ人生を送るわけでもなく、このまま普通に歳取っていくだけの人生なんだなって思っていた。
本当にただの会社員だった。
あのゲームに逢うまでは!
ピローン
またラインの通知が来た。
俺よりずっと年下のヤツが、ガチャで超激レア引けたって画像までスクショして浮かれてる
俺も欲しかったやつだ....
そんな時悪魔のささやきが聞こえたんだ
「やっと引けたよ!やっぱ課金してよかった〜!これないとこのゲームじゃ人権ないからなー」
課金....
そうか課金か
考えたこともなかった。
そいつの言い分はこうだ。
「課金しないと必須カード取れないじゃん、よっぽど運が良かったら別だけどさ、完全無課金って限界あるし」
確かにそうだ。
俺はこう言った類のものに金はかけたことがない。
しかしそれでは限界があった。
「山田さんも、課金したらどうっすか?」
「いや俺は....」
「まぁ山田さんは無課金エンジョイ勢だから仕方ないか。でも課金しなかったら、ガチャも当たらんし、ゲーム自体楽しくないじゃないすか」
俺の人生の半分くらいしか生きてないヤツが、偉そうに何か言っている。
お前誰に向かって口きいてんだ。
「そのせいか山田さん弱いっすもんねー!火力も全然ないし!(笑)」
この言葉を聞いて俺の中の何かが切れた。
「そうかもしれないな」
適当な相槌を送り、ささやかな抵抗でラインの通知をオフにした。
グループを抜ける勇気は俺にはなかった。
今にして思えば、俺のこの変なところで真面目で臆病な性格が、災いしたんじゃないかと思う。
帰り道、コンビニに寄ってとりあえず三万円分カードを買った。
そして俺は、生まれて初めて課金した。
特に使うことも、貯めることもしてなかった金。
俺が働いて稼いだお金だ。
何に使ってもいいはずだ
そしてここから、俺の人生は変わっていった。
「えっまた当たったんすか!?最近の山田さんすげぇっすね」
「すごーい!私も欲しかったのに」
「えー羨ましいなー!」
大学生のフリーターや女子高生、俺の人生の半分も生きてない奴らが俺のことを初めて尊敬している。
いい気分だ
ガチャで新キャラを当てるだけで、こんなに人に尊敬されるのか。
実にいい気分だ。
それにガチャも当たるようになり、俺自身も満足だった。
あいつの言い分は正しかった。
課金ってすげえ!
何もかも手に入る
必須カードも、火力も。
それだけじゃない。
みんなからの尊敬や羨望もだ。
どれも俺の人生で味わったことのない感覚だ
羨ましがっている。
みんなが俺を尊敬している
俺を羨望の眼差しで見ている
みんなが俺を頼りにしている!
会社では生きていても死んでいても誰にも興味の対象にならない
家に帰ってもブサイクな顔の嫁と騒がしい子供が待っているだけ。
俺の人生で、初めて光を見た瞬間だった!
今まで俺は、何故頑なに無課金を貫いていたのだろう。こんな高揚感が、たったの3万課金をするだけで味わえるというのに!
「そうだ山田さん、今度ギルドバトル出てみません?山田さん最近強くなったし、勝ったら報酬もらえるし、山田さんさえよかったら」
ギルドバトル?
そういえばそういうのあったな
ギルドバトルの時期はライングルの中でもその話ばっかりだった。
俺には関係ないと思っていたが....
「一戦だけ、出てみようかな」
そして俺は夜のギルドバトルに出てみた。
結果は惨敗。
三戦して、三戦全敗。
「あの局面であんなカード切るなんて信じられない!何やってんの?」
俺よりずっと年下のヤツに、責められて。
「まぁまぁ、山田さんはギルドバトル今日が初めてだったから仕方ないっすよ!えりちゃんもそんなこと言わないでさ。明日取り返せばいいじゃん」
俺よりずっと年下のヤツに、慰められてる
ギルドバトルに負けた....
俺のせいで。
そのあとで個人的にラインが来た。
「ちょっといいすか?」
あいつだ。名前何て言ったっけ?ゲームでの名前は確か、
「ドロシー、ええで」
こいつは何故か男のくせにゲームでは女のふりをしている。いわゆるネカマだ。
「えりちゃん、ギルド抜けたいんだってさ。話したら、山田さんがいる時は負けるから出たくないっつって。でさー、えりちゃん強いし、こっちとしてもギルド抜けて欲しくないんで、提案なんすけど、山田さん昼のギルドバトル出てくれないっすかね?」
は?
なんだそれ
なんだそれ
なんだそれ
「俺と一緒に出たくない?」
「えりちゃん負けず嫌いっすからね〜、山田さんは勝っても負けてもいいっていう気なんだろうけど、えりちゃんは違うっていうか....」
「俺が弱いからそんなこと言ったんだ?」
「いやそういうわけじゃないっすけど....」
ゲームで弱いヤツはいらないのか?
散々課金してそこそこ強くなったのに?
たかが三戦、それも初めてのギルドバトルで、負けたくらいで?
「じゃいいよ、俺がギルド抜けるわ。また新しいところ探す」
「ちょっと待って山田さん!」
ドロシーの通知をオフにし、その夜俺は悔しくて泣いた。
子供が何か言っている。
「パパー、一緒にお風呂はいろー?」
子供の声は聞こえてこなかった。
そんなことはどうでもよかった。
俺は泣いた。たかがゲームの、たかがギルドバトル、俺のせいで負けた。
ただそれだけのことで。
「最近上位に入って来たあのギルド、なんて言ったっけ?」
「名前を☆で挟んでる奴らだろ?なんか知らんけどキモい奴らだよな」
最近のライングルにはこんな話題がひっきりなしに出てくる。
「☆ダイ☆とか、☆ドキン☆とかいう奴らだろ?気にすんなよ、俺らは俺ら」
俺は今最高に気分がいい。
ギルドは抜けたが、ライングルは抜けていなかった。
ライングルの奴らには、俺がギルドを抜けたあと、何をどこでやっているのか伝えていなかった。
ついに教える時が来た。
どうしようもなく気分が高揚した。
「実はあの☆ダイ☆っての、俺なんだよね」
「「「「えっ?」」」」
それまで悠長に喋っていた奴らの会話がストップし、一気に俺に注目が集まる。
「そうなんすか?すげぇじゃないすか!ランカーだなんて!すごいっすよ!」
「すごーい!いつの間にそんなことになってたのー?」
みんなが俺を見てくれてる。
みんなが俺をすごいすごいと持ち上げてくれてる。
ガチャで激レアを当てまくったあの時と同じ、最高にいい気分だ。
もっと、もっと俺を尊敬してくれ!
崇拝しろ!崇めろ!
「そっか〜、いつの間にか山田さんガチ勢になっちゃったんだなぁ」
そう、ドロシーが言った。
ガチ勢?
ああ、そうか....俺はガチ勢になったのか。
ピローン
ピローン
ピローン
そのあと、個別にラインの通知が来ていた。
「あたし山田さんのギルドに入りたいです!ドロシーさんのギルドは好きだけど、負けたら次勝てばいいって感じで、でも私はいつも勝っていたいんです!」
「山田さんのギルドに入らせてもらえない?」
「山田さぁん!ギルド入れてください!」
なんとまぁ、手のひら返しの早い奴らだ。
まぁ、それだけ俺は一目おかれる存在になったってことだな?
何しろ課金しまくったからな。
家に入れるはずだった金も、ぜんぶ課金につぎ込んだ。
ピローン
「山田さん、ちょっとぃぃですか?」
名前を見てみると、いつぞや俺がいると負けるからギルド抜けるって大騒ぎしたえりからだった。
「山田さん、すごぃですね!短期間でランカーになれるなんて、ぇりぁこがれちゃぅ!ぇりも仲間にぃれてくれないかな?(〃ω〃)」
「............」
こいつ、一度自分が言ったこと忘れてんのか?
俺がいるからギルド抜けるって大騒ぎしたよな?
「じっはぇり、まぇから山田さんのこと気になってて...//」
え?
この展開は予想してなかったぞ!
「気になっててってどういう意味で?」
「ぇり、まぇから山田さんのことぃぃなってぉもってたんだ♡」
まさかまさかの展開だ。
ゲーム内で、こんな話題が出るとは思わなかった。
「それで、ぇりのネカレになってくれなぃかな?」
「ネカレ?」
「ネットの世界のカレシってことだょ〜」
ネカレ....
じゃあえりは、俺のネカノって事か
「じゃあ顔見せてよ」
「ぃぃょ〜!」
そう言われて送られて来た写真には、モデル並みの美女が写っていた。
ゲームやる女なんて、オタクっぽいのが多いかと思っていたが、全然違う!
可愛い!
「可愛いね」
「ぇっ、どぅしょぅぅれし〜!」
こうして俺とえりは、ネットの世界の恋人同士になった。
ネットの世界だから、不倫にはならないだろう
チラッと嫁と子供の寝顔を見た。なんだか悪いことをしているようで気が引けた。
だが俺はもう、後には引けなくなっていた。
ゲームの世界が、俺の世界の中心になりつつあったのだ。
えりの仕事はキャバ嬢だった。
お店は遠かった。
だが俺はガンガン通った。
初めて会ったえりは、ツイッターのゴリゴリに加工しているアイコンほど可愛くはなかったが、うちのブサイクな嫁と比べると月とスッポンだった。
それにえりはキャバ嬢やってるだけあって、話が面白いし退屈しなかった
えりと一緒に話せるのなら何時間でもお店に居たかった。
えりに会うためなら何でもした。
えりの為に何でもした。
高い服
高い時計
欲しがっていたネックレス
指輪
何でも買った
俺に出来ることは何でもした
いつのまにか、俺はゲーム内での彼女に、本気になってしまっていた。
「えっ?今月もお小遣いこれだけですか?」
ブスな嫁がなにか言っている。
子供はギャーギャー泣いている。
よく見たら子供の服は薄汚れていた。
ブスな嫁も髪はボサボサ、肌はガサガサ、服も薄汚れて元々見栄えが良くなかったのがさらに輪をかけてひどくなっている。
なんでこいつらこんな薄汚れてんだ?
こいつら、こんな汚かったか?
俺、こんな女と結婚したのか?
隣でギャーギャー喚くだけのガキも、よく見ると嫁に似て全然可愛いくない。
「ママご飯食べたいよ!」
「ああごめんね!すぐ用意するね〜、ご飯ママの分も食べていいからね!」
俺の人生って何なんだ?
こんな不細工な嫁と、不細工な嫁にそっくりなガキに飯食わせるために毎日働いて、会社では陰で馬鹿にされて、、
「....ちょっと出かけてくる」
「えっ!?今から?今20時よ!」
「うるせぇ!俺が何をしようが俺の勝手だろうが!」
うるさい
うるさい
うるさい
お前らなんかに
お前らなんかを養うために俺は働いてるんじゃねえ!
俺は
俺は....
「待ってパパ!私明日から....」
嫁が何か言っている声を無視し、俺はドアをバタンと閉めた。
俺は車を走らせた。
行き先はえりが働いているお店。
少し遠いが、飛ばせばまだ間に合う。
なんでもいいから、とにかくえりの顔が見たかった。
不細工な嫁と子供の顔を俺の脳裏から消すために。
「えり、最近あのお客さんとどう?」
「うーん....最初は良かったんだけど、最近はあまり良くないわね。なんか生活苦しいのに無理して来てくれるの。この間なんて、汚れたシューズで来たのよ。
もう恥ずかしいったら!
ママには知り合いってことで許してもらえたけど....今度あんな格好で来たら出禁にしてもらうわ」
「そうね、はっきり言ってあのお客さん、この店には場違いだものね」
あはははは!!!!
「えりちゃーん、指名だよー」
「あっ、ハーイ!」
今夜のえりは一層綺麗に見えた。
えりの白い肌
えりの白くて小さな歯
華奢なドレスから覗く鎖骨
えりの大きな輝く瞳
ここのお店ではお触りは厳禁だった。
でも少しだけなら....
少しだけならいいよな?
えりは俺の、俺の彼女なんだから!
「えっ!何するんですか!?」
気づいたら俺はえりをソファに押し倒していた。
「いいだろうえり!お前は俺の彼女なんだから!」
「だっ、だれかー!この人を離して!」
「お、お客様困ります!ここはそういうお店ではないんですよ!」
なんだこいつ
俺とえりの間に口を挟むな!
「えり!お、俺は十分すぎるほど待った!お前が望むなら何でもするつもりだ!なんなら離婚してやってもいい!」
ああ
今わかった
俺は離婚して、えりと人生をやり直したかったんだ!
でも、誰が?
誰と離婚するんだ?
俺はいつ結婚していた?
今から俺は、誰と離婚するんだ?
「誰もあんたの離婚なんか望んでないわよこの変態色ボケオヤジ!」
それから俺はえりに突き飛ばされた。
突き飛ばされて見た先のえりの瞳は、怒りに満ちていた。
「こんな事だろうと思ってました」
ザワッ
声がした方を振り向くと、そこには見覚えのある顔。
誰だったかな
「私は明日から家を出て働きます。子供も連れて行きます、あなたとは離婚します。あなたはそこのえりとかいう女と仲良くやってください」
見覚えのある顔
聞き覚えのある声
誰だっけ?
思い出せない
なんだか妙に安心する声だな....
ああ、俺の嫁だ。
俺はそこにひっくり返ったままえりと、嫁の顔を見比べた。
その時に気づいた。
俺がとんでもない過ちを、犯していた事に。
「待っ....」
「出て行って!」
気がついたら俺はお店の男達につまみ出されていた。
見上げると、嫁の呆れたような、失望したような顔があった。
「督促状がたくさん届いてましたけど、私は一切関与しないので、ご自分で何とかして下さいね、離婚届は机の上に置いておきました。明日、私の両親が取りに行くのでそれまでに用意しておいてください」
嫁の極めて事務的で、冷たい声色が降ってきた。
「それから....」
ああ、俺何やってたんだろう
「これからは自由よ。あなたは好きなだけ遊んで好きなだけ借金でも何でもしてよ!子供は私が連れて行きます、これからの人生、どうぞ一人で楽しくやって行きなさいよ!」
一人で?
誰が?
俺が?
その時、俺の脳裏に浮かんできた。
決して裕福ではなかったが、幸せだった頃のこと。
子供は笑顔で、嫁も幸せそうで....
ああ、俺の嫁さん、全然ブサイクじゃないや。
何で、何でこんなことに?
いつからこうなった?
一体
いつから?
呆然としている俺の頭上に、雨がポツポツ降ってきた。
「ああ。そっか....もう」
混乱した頭が、打ち付ける雨に打たれてだんだん冷めてきた。
俺は悟った。あの幸せだった日々には、もう戻れないと....