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共同墓地に


「――見つけた、あそこか」


 駆け回ることすこしして、自身以外の人間の反応をみる。

 マップによれば、この先を右に曲がった先だ。

 道しるべを頼りに舵を切り、細くて暗い路地に足を踏み入れる。

 近づくたび、歪な音が奥から響いてきた。

 何かが砕ける濁った音。刃が何かを切り裂く音。ぐしゃりと何かが倒れる音。

 戦闘はすでに始まっていた。


「頼むから死んでてくれるなよ」


 路地を駆け抜けると、開けた空間に出る。

 右の端に階段が見えたが、下るのは後回し。

 まずは正面にある鉄柵を掴み、身を乗り出して空間の全貌を把握する。

 眼下に広がるのは夥しい数の墓標。数多の人々が眠る場所。

 共同墓地。

 その中心では多数のエネミーと、一人の少女が戦っていた。


「なんとか、まだ生きてたみたいだな」


 戦っているのは、他でもない凜だった。

 だが、戦況はよろしくない。

 十数体のエネミーに囲まれている。

 墓から這い出して来たのか、おぞましい姿をした人型のエネミー。

 皮膚は融け落ち、骨は露出し、臓腑は腐りきっている。

 それでも腕力だけはあるようで、振るった攻撃はたやすく墓標を破壊していた。

 雑魚敵の群れに捕まったってところか。


「よっと」


 鉄柵を乗り越え、下まで飛び降りる。

 うまく着地して衝撃を抑えつつ、地面に手をついて唯識魔術を発現する。

 改竄するのは、この土地そのものだ。

 変質させる。変動させる。

 土を鉄に、砂を鋼に。

 研ぎ澄まし、練り上げ、すべてのエネミーの足下に仕掛けを施す。


「――これはっ」


 それに気がついたのか、凜はすぐさま空中へと跳躍した。


「いい判断だ」


 直後、仕掛けを作動させる。

 それは天を貫くようにして伸びた、何本もの杭。

 足下から脳天まで、串刺しにされたエネミーは、抵抗することも許されず絶命にいたる。

 奴らに出来ることと言えば、言葉にならない声で、ひどく濁った悲鳴を上げることくらい。

 あっという間に、百舌鳥もずの早贄の完成だ。


「よく反応できたな」


 跳躍を終えて地上に降り立った凜に、そう言葉をかける。


「魔力の流れくらい私にも読めます。あと、次からは一声かけてください。びっくりするので」

「あぁ、善処す――」


 ずきりと、頭が痛む。

 脳が軋む。

 一瞬だけ酩酊めいていしたように眩み、体勢を大きく崩した。


「――チッ、ちょっと出力を間違えたか」


 すこしでも手元が狂うとこの調子だ。

 牢獄で怠けていたツケが回ってきたかな。


「……やはり、それ相応のリスクがあるんですね。その唯識魔術は」


 俺の様子を見て、確信を抱いたように、凜はそう口にした。


「あぁ、まぁな。些細なことなら何ともないが、デカいことをすると頭痛がして前後不覚になるんだ」


 砂を紅茶に。椅子をソファーに。

 その程度の改竄なら、問題なく使用できる。

 だが、それ以上になると使用には細心の注意が必要だ。

 先ほどのように大量の杭を広範囲に展開すると、反動で脳が悲鳴を上げる。

 酩酊し、前後不覚になり、致命的な隙となる。

 最初から必殺技を撃って、はい終わり、とはいかないのだ。


「まぁ、これからこのREMを一緒に巡るんだ。それを念頭に置いといてくれ」

「わかりました。肝に銘じておきます」

「よろしく」


 そう話にも一段落がついたところで、エネミーの死体が発光体に置き換わる。

 それらはすぐに俺のもとへと集まった。


「なんですか? それ」

「ドロップアイテムだよ」

「ドロップ? アイテム?」


 聞き慣れない言葉なのか、凜は小首をかしげている。

 例に漏れず、ゲームの知識は皆無らしい。


「あー……まぁ、百聞は一件しかずか」


 集まった発光体に触れて霧散させ、インベントリの画面を開く。

 その一連の動作を、凜は怪訝な表情をして眺めていた。


「それは? 薄い板のようなものに見えますが、なにかの魔術ですか?」

「いや、これは魔術じゃない。言うなら……そうだな。このREMが用意した倉庫ってところか」


 厳密に言えば違うが、ここはわかりやすさを優先だ。


「REMが用意した? なぜ、そんなことを」

「さてな。でも、使えるものなら、なんでも使うべきだ。ほら、やってみな」


 そう促すと、凜は見よう見まねで俺と同じ動作をする。

 四本指で縁取られた枠の中に、やはり同様の画面が現れた。


「本当に、できた」


 驚いたように、目を丸くしている。


「そのまま腕を動かして広げてみな」


 言う通りに両手は動く。

 ゆっくりと、恐る恐ると言った様子で。


「その倉庫にはREMにある色んな物資を保管できる。かさばることも、重みも感じることなく、な。それでこいつが、さっきのドロップアイテムって奴だ」


 インベントリ画面に表示された、止血剤の文字。

 指先でそれに触れると、アイテムが実体化して画面から浮き上がってくる。

 先端に針のついた筒のようなデザインのものだ。


「ほら」

「わっ、と」


 投げ渡すと、慌てながらも凜はそれを受け取った。


「仕舞ってみな。たぶん、その画面に押しつければ保管できると思う」


 取りだす際に画面を経由するなら、保管する際も同様だろう。

 その予想通りに、押しつけられた止血剤は画面の中に消えていく。


「たしかに……空欄だったものが一つ埋まりました」


 これで凜も一先ずはREMの仕様を、すこしは理解できたはずだ。

 まぁ、俺もすべてを理解している訳じゃあないが。

 これまでのゲーム経験から、大抵のことには予想がつく。

 ゲーム知識皆無の凜には、これからも逐一わかる範囲で教えていくとしよう。


「――さて、それじゃあそろそろ行こう……か?」


 この共同墓地から移動しようと、声をかけたところ。

 何度も何度も、止血剤をインベントリに出し入れしている凜が視界に映る。

 今後、間違えないように動作の確認をしているのかとも思った。

 けれど、どうやらそう言うことでもないように見える。

 なんというか、剣玉とか、ヨーヨーとか、水風船とか、あの辺のオモチャで遊ぶ子供のような印象を受けた。


「凜?」

「はっ」


 名前を呼ぶと、我に返った。

 そして、ゆっくりと悪戯がバレた子供のように、こちらに視線を向けてくる。


「……楽しいか? それ」

「い、いえ、べつに、そんなことは……」


 取り繕うようなことを言って、凜はそっぽを向いた。

 けれど、その耳が赤く色づいていることを、俺は見逃さなかった。


「まぁ、いいけど」


 考えてもみれば、魔術師は娯楽らしい娯楽を知らない。

 ベイゴマだの、縄跳びだの、鞠つきだの。

 そんな遊びしか知らない人間に、このREMのシステムは刺激的だ。

 ちょっとした何気ないことでも、魅力的に映るのだろう。

 画面に吸い込まれて隠れては、ぱっと出てくる。

 俺が子供の頃なら、たしかにそれだけでも面白いかも知れない。


「先を急ごう。とりあえずの目的地は、あの時計塔だ」

「時計塔……あれですね。わかりました、向かいましょう」


 気を取り直して、俺たちは先を急ぐ。

 あの時計塔には何かあるかも知れない。

 そんな根拠のない明るい期待を胸にして。

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