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決着、その前に

コロシアムは巻き上げられた土と爆炎の煙で包まれていた。


「奏さん!?」

視界はゆっくり晴れ、私はそこに映るものを凝視する。


「なんだそれは」

レッドは、構えて睨みつける。


静まり返るコロシアム。

そこにいた者達は、そこにあるものを正しく認識するのに数秒かかった。


奏さんの前に突如現れた壁、それは巨大な獣の爪。

それが眩しく光り輝いて収まると人の姿になる。

白銀の長い髪と巫女装束の女性。

獣の耳と尻尾が生えているがそれが作りものには見えなかった。


神様バレンシュタインは、呆け顔で座席に戻り画面を見る、私も見据えた。


画面から二人の会話が聞こえてくる。

「主人様、召喚に応じ馳せ参じました…」

「やぁ、ありがとう…あれ?君はもしかしてシロかい?」

「ーッ!!」

獣耳の巫女はいままでの押し殺していた何かを破裂させ破顔し、いまにも泣き出しそうになりながら、奏さんに抱きついた。


「会いたかった、会いたかった、姉弟子あねさま達は言うのです、絶対に覚えてなんかいないと。けれど覚えていてくれた!そうです、あなた様に命救われた犬にございます!」

「そ、そうなのか。吃驚だよ、こんなに綺麗だし、それに来てくれるなんて凄くうれしいよ」

「主人様に命救われ、冷たくなる腕の中で決めました。私の主人様はあなただけと、救って頂いた命の限り生き尽くすと…」

シロさんは奏さんに微笑んだ。


「心配だったけど、良かったよ元気そうで」

「はい、主人様のお陰です。充実した素晴らしい犬生でした。その犬生も終わりに近づいた時、犬神様に呼ばれたんです。もし望むのなら神の末席が空いたので一柱に座する気はないかと、もしかしたら転生か生まれ変わった主人様に会えるかもしれないと思い、神への道を選びました。辛く厳しい修行でした、しかしなんとかやり遂げ神通力を得て、稲荷大明神様の末席に加わる事となったのです」


「護衛神獣とは、まったく驚いた」

神様バレンシュタインは、立ち上がり背を向けた。

「どうしました?」

「もう行くよ、この勝負は奏くんの勝ちだ」

来た時も突然なら、帰る時も突然だった。


「帰るなら、治してください〜」

レッドの部下は、半ば泣きながら動かない身体で藻搔いた。

「原罪の数だけ、時間換算で動けないッスよ、諦めてくださいッス」


さて、奏さん達はどうなったのでしょう。


「それがお前の召喚獣か?」

レッドは長剣を空に翳すと、召喚をする。

そこに現れたのは、上級悪魔グレーターデーモン


「マズいッスね…」

召喚獣より強い魔族、その中でも太古に神から離反した堕天使ホールダウンエンジェルの子孫、奏さん達には分が悪い。


「かかって来ないなら、こちらから行くぞ」

言い終わる前にレッドが動いた。

「主人様、失礼します」

シロさんは奏さんをお姫様抱っこして、飛び退いた。


「ここで見ていてくださいませ」

「…すまない、任せる」

離れた場所に下ろした。


「さて、小鬼とそこの人間。相手をしてやる、そこを動くな?」

「犬っころが!」


第二ラウンド開始、ニ対一でシロさんに襲いかかる。

「ねぇ、小鬼…その爪、主人様の胸の傷と同じよね?」

「クソッあたらねぇ!?」

シロさんが全てを見切り、避け切る姿は踊るようだった。

スピードはシロさんが上、だからって有利と言うわけでもない、神様バレンシュタインは、なにを考えて勝てると言ったのでしょう?


「ちょっと待つッス…」

神獣の護衛獣?

なんか引っかかる、少し考えてみる。


上級悪魔グレーターデーモンは、強いとは言え神々の世界に召喚された上、誓約に縛られている。


奏さんは見る限り瀕死だ、上級悪魔グレーターデーモンの爪の毒呪いで麻痺している。


いや、瀕死?


あっ!

そっか、そう言うことか!!


護衛獣の盟約『召喚主が瀕死の時、護衛の獣は能力を倍加する』


「鬱陶しいわ!」

「ぐほッ!」

吹き飛ばされたのはレッド、上級悪魔グレーターデーモンは頭部を掴まれ藻搔いた。


「主人様に傷を負わせた罪、その命で贖え」

上級悪魔グレーターデーモンとはいえ、秒単位でレベルアップするのが相手だ。


ここはゲートリア、瀕死にはなるけど死のない世界。

能力倍加は瀕死の限り無限に続く。

上級悪魔グレーターデーモンも、まさかさっきまでの獣が神龍クラスになって戦う事になるとは思わない。


上級悪魔グレーターデーモンの頭は西瓜割りのように破られ、塵になって消えた。

同時にレッドの長剣も折れてしまう。


「シロ、待て。レッドさん、俺達の勝ちでいいよな?」

レッドは、そのまま腰から崩れ落ちた。

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